木のテーブルに並んだトルティーヤ料理。焼き目のついたコーントルティーヤの肉のタコス、クリームをかけたフラウタ、白いチーズをのせた赤いソースのエンチラーダ、豆とレタスのトスターダ、緑のチラキレス、布に包んだコーントルティーヤ
食文化と料理の名前

タコス、エンチラーダ、チラキレス…トルティーヤ料理の名前の見分け方

地域
メキシコ
公開

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メキシコ料理店のメニューを開くと、タコス、エンチラーダ、トスターダ、フラウタ、チラキレスと、知らない名前がずらりと並びます。写真を見ると、どれもトウモロコシのトルティーヤに肉やチーズ、サルサをのせたもの。何が違うのか、注文するまで分からないという人も多いと思います。

実は、こうした料理の名前の多くは、中に入れる具ではなく、トルティーヤを「たたむのか、ソースにくぐらせるのか、揚げるのか、割るのか」で決まっています。名前の仕組みが分かると、初めて見る料理名からでも、どんな形で、どんな食感の料理なのかが想像できるようになります。

名前は「具」ではなく「形と加工」で決まる

トルティーヤは、トウモロコシを石灰水で煮て皮をむき、すりつぶした生地「マサ」を薄くのばして焼いたものです。この石灰水で煮る工程を「ニシュタマル化」と呼びます。メキシコでは、この1枚の丸い生地が、皿にも、スプーンにも、料理の材料にもなります。

だから料理の名前も、トルティーヤをどう扱うかを表すものが多くなります。たとえばエンチラーダは、もともとは具を入れず、トルティーヤを唐辛子のソースにくぐらせただけの屋台の食べ物でした。名前の中心にあるのは、具ではなく、ソースにくぐらせるという加工です。

逆に、名前に具が入っていても、形の名前として使われるようになった例もあります。ケサディーヤは「チーズ(ケソ)の入ったもの」という意味ですが、メキシコシティでは、頼まなければチーズが入らないのが普通です。ほかの地方ではチーズ入りが当たり前なので、メキシコの人どうしでもよく話題になります。

トルティーヤ料理は、大きく次の4つに分けられます。

  • 包む・たたむ:タコス、ケサディーヤ、ブリトー
  • ソースにくぐらせる:エンチラーダ、エンフリホラーダ、エンモラーダ、エントマターダ
  • 揚げる:トスターダ、フラウタ、タキート、チミチャンガ、チャルーパ
  • 割って揚げる:トトポ、チラキレス、ナチョス

家で試すなら、市販の冷凍コーントルティーヤ(Amazon|楽天)が使いやすいです。

マサ・アリナからコーントルティーヤを焼く方法と、トウモロコシを石灰水で煮るニシュタマル化の化学は、こちらの記事で解説しています。

本場コーントルティーヤのレシピメキシコの主食コーントルティーヤを、マサ・アリナと水だけで。トルティーヤプレスで押しのばし、鋳鉄のスキレットで焼けば家庭のコンロでもぷくっと膨らみます。生地を休ませる理由、ひび割れの見分け方、膨らむ仕組みを料理科学で解説します。 ニシュタマル:トウモロコシを石灰で煮る理由トルティーヤに欠かせない、乾燥トウモロコシを石灰水で煮るニシュタマル。アルカリが皮をはがす仕組み、グルテンのないマサがまとまる理由、ナイアシンとカルシウムの変化、香りへの影響、日本で手に入るものまでを料理科学で解説します。

包む・たたむ:タコス、ケサディーヤ、ブリトー

タコス:たたんで手で食べる

タコスは、手のひらほどの小さなトルティーヤに具をのせ、二つ折りにして手で食べる料理です。メキシコで「アントヒート(屋台の軽食)」と呼ばれる食べ物の代表です。

「taco」という言葉が料理の意味で使われ始めた由来は、はっきり分かっていません。スペイン語の taco には「詰め物」「栓」という意味があり、銀山の鉱夫が紙で火薬を包んで使った発破を「taco」と呼んだことから来た、という説があります。料理の名前としては、1836年のアントニア・カリージョの料理書に「taco de tortilla」という言葉が出てくるのが、古い記録のひとつです。

具は何でもかまいません。煮込んだ豚肉でも、焼いた牛肉でも、魚のフライでも、二つ折りのトルティーヤにのせれば「タコス」です。名前を決めているのは具ではなく、たたむという形です。

この料理の作り方は、カルニタス(豚肉をラードで煮たメキシコのタコスの具)の記事で紹介しています。

家庭のオーブンで作るカルニタス(メキシコ式)メキシコ・ミチョアカン州のカルニタスを、ダッチオーブンと家庭のオーブンで。豚肩ロースをラードで煮て、水分が飛んだら表面をカリッと仕上げます。水が温度にブレーキをかける仕組み、ラードの役割、オレンジや牛乳、コーラの効果を料理科学で解説します。

アメリカで生まれた、揚げて固めたトルティーヤを使うハードシェルタコスの作り方はこちらです。

家庭で作る本格ハードシェルタコスアメリカで生まれたテックスメックスのハードシェルタコスを家庭で。牛ひき肉を自家製のタコスシーズニングで味つけし、市販のタコシェルをオーブンで温めて詰めます。ひき肉の焼き方とメイラード反応、スパイスを脂で炒める理由を料理科学で解説します。

ケサディーヤ:チーズを挟んで焼く

ケサディーヤは、トルティーヤにチーズを挟んで二つ折りにし、鉄板で焼いたものです。名前は「チーズ(queso)を使った料理」を表す quesada に、小ささを表す語尾が付いた形です。伝統的にはコーントルティーヤを使いますが、小麦粉のトルティーヤでもよく作ります。

この料理の作り方は、こちらの記事で紹介しています。

本場ケサディーヤのレシピメキシコ中部の本場のケサディーヤを、コマルの代わりに鋳鉄のスキレットで。コーントルティーヤにオアハカチーズとエパソーテ、またはキノコをはさんで焼きます。チーズが糸を引く仕組みとトルティーヤの焼き色を料理科学で解説します。

ビリア(ハリスコ州の煮込み)の記事では、トルティーヤに肉とチーズを挟んで焼くケサビリアも紹介しています。

家庭のオーブンで作るビリア(ケサビリアタコス)メキシコ・ハリスコ州生まれ、ティフアナ式の牛肉のビリアを家庭のオーブンで。唐辛子のアドボに漬けた牛すね肉をダッチオーブンで3時間煮込み、ケサビリアタコスにします。ゼラチンのコク、オーブンで焦げつかない理由、赤い脂の正体を料理科学で解説します。

ブリトー:小麦粉のトルティーヤで包む

ブリトーは、小麦粉のトルティーヤで具を包み、両端を閉じて筒の形にしたものです。スペイン語で「小さなロバ」という意味ですが、なぜこの名前になったかには、いくつもの説があります。

もともと「burrito」は、巻いたトルティーヤを一部の地方で呼んだ名前でした。今の形のブリトーは、アメリカとの国境の町シウダー・フアレスで育ったといわれ、そこでは具が1〜2種類の、細くて小さなものが伝統です。メキシコの中部や南部では、小麦粉のトルティーヤで巻いたものを「タコス・デ・アリーナ(小麦粉のタコス)」と呼びます。ご飯や豆をぎっしり詰めた大きなブリトーは、アメリカで発達した形です。

小麦粉のトルティーヤ(Amazon|楽天)を使う、テックスメックスのブリトーの作り方はこちらです。

家庭のオーブンで作るスマザード・ブリトーテキサスのテックスメックス料理、スマザード・ブリトーを家庭のオーブンで。牛肉の煮込みと豆、ご飯をトルティーヤで巻き、チリグレイビーとチーズをかけて焼きます。チーズの焼き色と、温めると破れにくいトルティーヤの理由を料理科学で解説します。

ソースにくぐらせる:エンチラーダとその仲間

エンチラーダ:唐辛子をまとわせる

エンチラーダ(enchilada)は、メキシコのスペイン語の動詞「エンチラール(enchilar)」から来た言葉です。スペイン王立アカデミーの辞書は、エンチラールを「食べ物に唐辛子(チレ)で味をつける」と定義しています。エンチラーダは「唐辛子をつけられたもの」という意味になります。

トルティーヤで食べ物を巻く習慣は、何千年も前からありました。エンチラーダという名前は、1831年に出たメキシコ最初の料理書『エル・コシネロ・メヒカーノ』にすでに登場します。今は具を巻いてソースをかけるのが一般的です。

ソースの名前で呼び分ける

エンチラーダの仲間は、くぐらせるソースの名前で呼び分けます。言葉の作りはどれも同じで、「en+ソースの材料+ada」です。

  • エンフリホラーダ(enfrijolada):豆(フリホル)のソース
  • エンモラーダ(enmolada):モレのソース
  • エントマターダ(entomatada):トマトのソース

スペイン語を知らなくても、真ん中の部分を見れば、何のソースの料理かが分かります。

もうひとつ、エンチラーダ・スイサ(スイス風エンチラーダ)は、クリームやチーズを使った白っぽいソースのエンチラーダです。メキシコに移り住み、クリームやチーズを作る酪農を始めたスイス人にちなんだ名前とされています。

メキシコシティのエンチラーダ・スイサと、チリグレイビーと溶けるチーズで焼くテックスメックスのエンチラーダは、それぞれの記事で作り方を紹介しています。

家庭のオーブンで作るエンチラーダ・スイサメキシコシティのエンチラーダ・スイサを、家庭のオーブンで。鶏肉を巻いたトルティーヤにトマティーヨのクリームソースとチーズをのせて焼きます。トルティーヤを油にくぐらせる理由、クリームが分離しにくい条件、チーズの焦げ目を料理科学で解説します。 家庭のオーブンで作るテックスメックス・エンチラーダテックスメックスの定番、チーズ・エンチラーダを家庭のオーブンで。コーントルティーヤにチーズと玉ねぎを巻き、チリグレイビーをかけて焼きます。ルーでとろみがつく理由、プロセスチーズが分離しない理由、トルティーヤを温める理由を料理科学で解説します。

揚げる:トスターダ、フラウタ、タキート、チミチャンガ、チャルーパ

トスターダ:平たいまま揚げる

トスターダは、スペイン語で「焼いた(トーストした)もの」という意味です。平らなトルティーヤを、金色になってパリッと固くなるまで揚げるか焼いて、その上に具をのせます。古くなったパンをトーストにするように、残ったトルティーヤを使う方法でもあります。

上にのせる具はタコスとほぼ同じで、豆、肉、レタス、チーズ、サルサなど。マグロやエビ、タコ、セビーチェなど、魚介をのせたものも人気です。固い板の上に具をのせるので、具が落ちにくいように、まず豆のペーストのような粘りのあるものを塗ります。

チポトレで煮た鶏肉をのせる、ティンガのトスターダの作り方はこちらです。

本場ティンガ・デ・ポジョのレシピメキシコ中部プエブラ生まれのティンガ・デ・ポジョを家庭で。ゆでてほぐした鶏むね肉を、玉ねぎとトマト、チポトレ・エン・アドボで煮込み、トスターダにのせます。チポトレの燻香の正体と油に移る理由、炒めた玉ねぎが甘くなる理由を料理科学で解説します。

トスターダに塗る豆のペースト、フリホーレス・レフリトスの作り方も紹介しています。

本場フリホーレス・レフリトスのレシピメキシコとテキサスの定番の豆料理フリホーレス・レフリトスを、乾燥ピントビーンズから。塩水に浸して煮た豆を、ラードで炒めながら煮汁でのばしてつぶします。塩水で皮がやわらかくなる理由、酸と硬水の影響、でんぷんの糊化を料理科学で解説します。

フラウタとタキート:巻いて揚げる

トルティーヤで具を細く巻いて揚げたものは、「タコス・ドラードス(金色のタコス)」と呼ばれます。巻いた形が楽器のフルートに似ているので「フラウタ(flauta=フルート)」、小さいタコスという意味で「タキート(taquito)」とも呼ばれます。

フラウタとタキートの違いは、地域や店によってまちまちです。いちばんはっきりした違いは大きさで、フラウタは細長く、タキートは短めです。メキシコ中部では、細長い楕円形のコーントルティーヤでフラウタを作ることがあります。アメリカでは「タキートはコーン、フラウタは小麦粉」と分けることもありますが、逆の店もあり、決まりではありません。

チミチャンガ:ブリトーを揚げる

チミチャンガは、小麦粉のトルティーヤで包んだブリトーを、油で揚げた料理です。テックスメックスやアメリカ南西部の料理で、アリゾナ州のメキシコ料理店で偶然生まれたというのが多くの研究者の見方です。

どの店が最初かは分かっておらず、トゥーソンの「エル・チャロ」と、フェニックスの「マカヨス」の前身の店が、それぞれ発祥を名乗っています。テックスメックスとメキシコ料理の違いは、別の記事で整理します。

テックスメックスとメキシコ料理は何が違う?同じ名前で別物の料理たちテックスメックスとメキシコ料理は何が違うのか。テハーノの料理から育った歴史、黄色いチーズやクミン、小麦粉トルティーヤなど材料の違い、ブリトーやエンチラーダなど同じ名前で別物の料理を、プロセスチーズやグルテンの料理科学も交えて整理します。

チャルーパ:小舟の形

チャルーパは、スペイン語で「小舟」のことです。メキシコの言葉の辞典によると、もともとはアステカの都テノチティトランの運河を行き来した小さなカヌーを指しました。揚げたトルティーヤが少しくぼんで、小舟のように見えることから来た名前とされます。

プエブラのチャルーパは、小さなトルティーヤをラードや油で揚げ焼きにし、赤や緑のサルサを塗って、ほぐした豚肉や鶏肉と刻んだ玉ねぎをのせたものです。揚げても固くせず、やわらかさが残るのが特徴です。アメリカのファストフードの「チャルーパ」は、揚げて形を作った生地にたくさんの具を詰めたもので、メキシコのものとは別物です。

割って揚げる:トトポ、チラキレス、ナチョス

トトポ:トルティーヤのチップス

トルティーヤを三角形に切って揚げたり焼いたりしたものが、トルティーヤチップスです。メキシコでは、こうしたものは「トトポ」としてずっと前から食べられていました。アメリカで広まった三角形のチップスは、1940年代のロサンゼルスのトルティーヤ工場で、形が悪くて捨てていたトルティーヤを切って揚げたのが始まりとされます。

チラキレス:揚げたトルティーヤをサルサで煮る

チラキレスは、揚げたトルティーヤに赤や緑のサルサをかけ、少し煮て、トルティーヤをやわらかくした料理です。メキシコの定番の朝ごはんで、ほぐした鶏肉や卵をのせることもあります。名前はアステカの言葉ナワトル語の「チラキリトル」から来ていて、「唐辛子の汁」と「食べられる草」を組み合わせた言葉です。

チラキレスの基本は、前の日に残ったトルティーヤとサルサです。地方によって仕上がりが違い、メキシコ中部では食べる直前にサルサをかけてチップスのパリッと感を残します。グアダラハラでは、土鍋でとろとろになるまで煮込みます。赤と緑の両方のサルサをかけたものは「ディボルシアードス(離婚した)」と呼ばれます。

チラキレスの作り方と、かけるサルサ・ロハ、サルサ・ベルデの作り方はこちらです。

本場チラキレスのレシピメキシコの定番の朝ごはんチラキレスを、市販のトルティーヤとスキレットひとつで。乾かしたトルティーヤを揚げて赤いサルサで煮て、目玉焼きをのせます。乾かすと油を吸いにくい理由と、トトポがサルサを吸ってしんなりする仕組みを料理科学で解説します。 本場サルサ・ロハのレシピメキシコの焼いた赤いサルサ、サルサ・ロハを家庭で。トマト、玉ねぎ、にんにく、チレ・デ・アルボルを鉄のフライパンや魚焼きグリルで焦げ目がつくまで焼き、すりつぶします。メイラード反応とカラメル化、焦げと苦みの関係を料理科学で解説します。 本場サルサ・ベルデのレシピメキシコの緑のサルサ、サルサ・ベルデを、日本でも手に入るトマティーヨの缶詰で。生ならゆでて、缶詰ならそのまま唐辛子やシラントロとミキサーにかけるだけ。酸味のもと、ゆでると色が変わる理由、冷やすととろみが出る仕組みを料理科学で解説します。

ナチョス:チーズをかける

ナチョスは、1943年に、テキサス州イーグルパスの対岸にあるメキシコの町ピエドラス・ネグラスで生まれました。レストラン「ビクトリー・クラブ」に来たアメリカ軍の将校の妻たちのために、イグナシオ・アナヤが、トルティーヤを三角に切って揚げ、チーズとハラペーニョをのせて温めて出したのが始まりです。「ナチョ」はイグナシオの愛称で、料理名は「ナチョのスペシャル」から来ています。

市販のトルティーヤチップス(Amazon|楽天)で作る、ナチョスの作り方はこちらです。

家庭のオーブンで作るナチョス1943年にメキシコ北部の国境の町で生まれたナチョスを、家庭のオーブンで天板1枚分。220℃で短時間に焼き、チーズを水分の壁にして具をのせます。チップスがしける理由と、水分の多い具を焼いた後にのせるわけを料理科学で解説します。

比べてみよう:トルティーヤではなく、マサから形を作る料理

ここまでの料理は、どれも「焼き上がったトルティーヤ」を加工したものでした。一方で、トルティーヤになる前の生地、マサの段階で形を作る料理もたくさんあります。見た目は似ていても、別の分類として覚えておくと名前が整理しやすくなります。

  • ソペ:マサを厚めの円形にして焼き、ふちをつまんで土手を作ってから、外側を油で焼いたもの。トスターダよりずっと厚く、外は焼けて中はやわらかいままです。上に豆、チーズ、サルサ、クリーム、肉などをのせます
  • ゴルディータ:トルティーヤより厚く作ったマサの生地。チチャロンや、じゃがいもとチーズ、カルニタスなどを詰めて食べます
  • トラコヨ:マサで豆やチーズ、そら豆などを包んで、楕円形や三角形にのばし、鉄板で焼いたもの。名前はナワトル語から来ています
  • ウアラチェ:中に豆を入れて細長い楕円形にのばし、焼いたマサの生地。形がサンダル(ウアラチェ)の底に似ていることからこう呼ばれます。1930年代の初めに、メキシコシティでトラコヨの屋台を出していたカルメン・ゴメス・メディナが考えたものとされます
  • タマル:マサをトウモロコシの皮やバナナの葉で包み、蒸したもの。焼かずに蒸す点で、ほかのマサ料理とも違います。複数形はタマレスです

メキシコシティの屋台では、大きな鉄板の上で、トルティーヤ、ケサディーヤ、ソペが一緒に焼かれています。同じ鉄板の上でも、ケサディーヤはトルティーヤ、ソペはマサから作ります。

屋台の大きな丸い鉄板で、二つ折りのケサディーヤ、トルティーヤ、具とチーズをのせたソペが一緒に焼かれている

マサ・アリナ(Amazon|楽天)を水でこねれば、家でもこうしたマサの料理の生地が作れます。こね方は、冒頭で紹介したコーントルティーヤの記事を参考にしてください。

料理科学:トルティーヤはなぜ割れるのか

冷めたトルティーヤが割れる理由

焼きたてのトルティーヤはやわらかく、巻いても割れません。ところが、時間がたったトルティーヤや、冷蔵庫から出したばかりのトルティーヤを巻こうとすると、ひびが入って割れてしまいます。

原因は、でんぷんの「老化」です。トルティーヤを焼くと、マサの中のでんぷんは水を含んでやわらかくなります。それが冷めると、でんぷんの分子が少しずつ並び直して結晶のように固まり、生地が硬くなります。でんぷんの成分のうち、アミロースは早く、アミロペクチンはゆっくり老化します。

メキシコの研究では、焼いてから24時間でトルティーヤは硬くなり、巻きにくくなりました。このとき失われた水分は2%ほどで、硬くなった原因は乾燥ではなく、でんぷんの老化だとされています。パンの研究では、老化は冷蔵庫くらいの、0℃より少し高い温度でいちばん早く進むことも分かっています。冷蔵したトルティーヤが特に割れやすいのはこのためです。

温め直すと、またやわらかくなる

でんぷんの老化のうち、アミロペクチンの老化は、温め直すとある程度元に戻ります。パンの場合は、60℃くらいまで温めると、やわらかさがある程度戻ります。トルティーヤでも、温め直すとやわらかさと伸びが戻ることが研究で確かめられています。

タコスやエンチラーダを作る前に、トルティーヤを鉄板やフライパンで温めるのはこのためです。片面を数十秒ずつ焼いて、少しぷくっと膨らみ、うっすら焼き色が付くくらいが目安です。やわらかさが残っていることが大切で、パリッとしたら焼きすぎです。温めたら布で包んでおき、冷めないうちに巻きます。冷めると、またでんぷんが固まり始めるからです。

油にくぐらせると、ソースの中で崩れにくい

エンチラーダを作るときは、トルティーヤを熱い油にくぐらせてから、ソースにつけます。メキシコ料理のシェフ、ホルヘ・グスマンは、中火から強火の油で片面10〜45秒ほど焼くとしています。油で一気に温めるのでトルティーヤがやわらかくなり、巻いても割れません。

さらに、表面に油の膜ができるので、ソースの水分がすぐには染み込みません。メキシコ出身の料理家パティ・ヒニッチのコツを紹介した記事でも、油を使わずに温めるより、油で温めるほうが水をはじき、ふやけにくいとしています。ここでも、カリカリになるまで揚げないことが大切です。

古いトルティーヤは、揚げて使う

一方で、トスターダ、トトポ、チラキレスは、巻く必要がありません。むしろ、パリッと固い食感がほしい料理です。でんぷんが老化して巻けなくなったトルティーヤでも、揚げてしまえば問題なく使えます。チラキレスが「前の日の残りのトルティーヤ」で作られてきたのは、この知恵です。

ただし、揚げたチップスは水分がほとんど抜けているので、空気中やサルサの水分を吸って、しだいにしけていきます。チラキレスのパリッと感を残したいなら、サルサは食べる直前にかけます。ナチョスでも、チーズやサルサの水分がチップスに移らないように重ねる順番を工夫します。

まとめ

  • トルティーヤ料理の名前の多くは、具ではなく「たたむ・ソースにくぐらせる・揚げる・割る」という加工で決まる
  • 「en〜ada」はソースにくぐらせた料理。真ん中を見れば、豆(フリホル)、モレ、トマトとソースの材料が分かる
  • 揚げる料理は形で呼び分ける。平らならトスターダ、細く巻けばフラウタやタキート、ブリトーを揚げればチミチャンガ
  • ソペ、ゴルディータ、トラコヨ、ウアラチェ、タマルは、トルティーヤではなくマサから形を作る別の仲間
  • 冷めたトルティーヤが割れるのは、でんぷんの老化のため。温め直すか油にくぐらせると巻ける。巻けなくなったら揚げて使う

もっと知りたい人へ

メキシコ各地のトルティーヤ料理を本場の味で作りたい人には、アメリカでメキシコ料理を広めた料理人リック・ベイレスの本があります(英語)。

Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)

でんぷんの老化をはじめ、食材の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。