金属の焼き型に並んだエンチラーダ。赤茶色のチリグレイビーの上で黄色いチーズが溶けて焼け、右半分に刻んだ生の玉ねぎを散らしている
テックスメックスとBBQ

家庭のオーブンで作るテックスメックス・エンチラーダ

地域
アメリカ(テキサス州)
分量
8本・4人分
公開

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テキサスのテックスメックス店で、いちばん定番の料理がチーズ・エンチラーダです。コーントルティーヤにチーズと刻んだ玉ねぎを巻いて並べ、チリパウダーとクミンの香る赤いソース「チリグレイビー」をかけ、さらにチーズをのせてオーブンで焼きます。ふつふつと泡立つオレンジ色のチーズに、生の玉ねぎを散らして食べます。

本場の店と同じ料理を、家庭のオーブンでそのまま作れます。ポイントは3つです。ソースのとろみをつける小麦粉を先に油で炒めること、溶けるチーズを選ぶこと、トルティーヤを温めてから巻くこと。どれも料理科学で理由を説明できます。テックスメックス・エンチラーダのレシピと一緒に、その理由も見ていきます。

本場のテックスメックス・エンチラーダとは

エンチラーダ(enchilada)は、メキシコのスペイン語の動詞「エンチラール(enchilar)=唐辛子で味をつける」から来た名前です。トルティーヤで具を巻き、唐辛子のソースをかけた料理で、1831年に出版されたメキシコ最初の料理書『エル・コシネロ・メヒカーノ』にも登場します。

メキシコと、国境を越えたテキサスとでは、同じ「エンチラーダ」でも中身がまったく違います。メキシコのエンチラーダは、乾燥唐辛子を戻してすりつぶしたソースなどで作ります。テキサスのエンチラーダは、小麦粉でとろみをつけたチリグレイビーと、黄色い溶けるチーズで作ります。

テックスメックスの定番、チーズ・エンチラーダ

テックスメックスの古くからの献立は、タマレス、タコス、エンチラーダ、ケソが中心で、どれもメキシカンライスとリフライドビーンズを添えて出されます。その中でもチーズ・エンチラーダは、多くの人が初めて食べた「メキシコ料理」であり、今もほっとする定番の味として愛されています。

テキサス州フォートワースのスポーツライターで、テックスメックス通として知られるダン・ジェンキンスは、チリコンカンをかけたチーズ・エンチラーダを「本物のテックスメックスの証」と呼びました。チリグレイビーのかわりに、ひき肉の入ったチリコンカンをソースにする店もあるのです。

テックスメックスの魂、チリグレイビー

チリグレイビーは、油で小麦粉を炒めたルーにチリパウダーとクミンを加え、スープでのばしたソースです。アメリカ南部の肉料理にかける小麦粉の「グレイビー」と、メキシコの唐辛子のソースを合わせたような味で、肉は入りません。なめらかで、クミンとにんにくが香り、辛さはおだやかです。

料理研究家のロブ・ウォルシュは、チリグレイビーを「テックスメックスの本質」と呼んでいます。ウォルシュによれば、このソースはサンアントニオの「オリジナル」のような、アングロ系(英語を話す白人)の経営するメキシコ料理店で生まれました。1896年には、ダラスやシカゴの新聞に「チリグレイビー」の名前が出てきます。

ゲブハートのチリパウダー

チリグレイビーの味を決めるのが、乾燥唐辛子の粉にクミンやオレガノ、にんにくなどを混ぜたミックススパイス、チリパウダーです。

アメリカで最初にチリパウダーを商品にした一人が、テキサス州ニューブラウンフェルズに住むドイツ生まれのウィリアム・ゲブハートです。1894年、メキシコから取り寄せたアンチョ(乾燥させたポブラノ唐辛子)を小さな肉ひき機で挽いてチリパウダーを作り、1896年に「イーグル・ブランド」の商標を登録して、サンアントニオで製造を始めました。アンチョにクミン、オレガノ、黒こしょうを混ぜたゲブハートのチリパウダーは、手軽さで人気を集めます。テキサスでは今も、エンチラーダのソースにゲブハートを指定するレシピがあります。

コンビネーション・プレートとプロセスチーズ

テックスメックス店では、エンチラーダをライスと豆と一緒に一皿に盛る「コンビネーション・プレート」で出すのが定番です。1900年、サンアントニオの「オリジナル・メキシカン・レストラン」のオーティス・ファーンズワースが、料理にライスと豆を添えた皿を「ザ・レギュラー」と名づけて出したのが始まりとされ、多くの店がまねをしました。

チーズは、チェダーやコルビーのほか、ベルビータやアメリカンチーズといったプロセスチーズを使う店が多くあります。ウォルシュによれば、プロセスチーズがテックスメックスで使われるようになったのは、日持ちがして手に入りやすかった大恐慌の時代からだと考えられています。チェダーにするか、プロセスチーズにするかは、テキサス人の間で今も意見が分かれるところです。

テックスメックス・エンチラーダのレシピ:材料(8本・4人分)

チリグレイビー

  • ラード(またはサラダ油)(Amazon|楽天)大さじ4(50g)
  • 薄力粉大さじ4(30g)
  • チリパウダー(Amazon|楽天)大さじ2(14g)
  • クミンパウダー(Amazon|楽天)小さじ1(2g)
  • ガーリックパウダー(Amazon|楽天)小さじ1(3g)
  • オレガノ(乾燥)(Amazon|楽天)小さじ1/2(0.5g)
  • 塩小さじ1/2(3g)
  • 粗挽き黒こしょう(Amazon|楽天)小さじ1/2(1g)
  • チキンスープ(または牛のスープ、水)480ml

チリパウダーは、唐辛子にクミンなどを混ぜたアメリカのミックススパイスです。一味唐辛子では代わりになりません。テキサスではゲブハートのチリパウダーが定番ですが、日本では手に入りにくいので、市販のチリパウダーを使います(Amazon|楽天)。スープは、顆粒の鶏ガラスープやコンソメを湯で溶いたものでかまいません。

エンチラーダ

  • コーントルティーヤ(15cm)(Amazon|楽天)8枚
  • サラダ油大さじ2(24g)
  • チェダーチーズ(ブロック)(Amazon|楽天)200g
  • とろけるスライスチーズ100g(約6枚)
  • 玉ねぎ(みじん切り)1個(200g)

添えるもの(好みで)

  • ハラペーニョの酢漬け(Amazon|楽天)
  • メキシカンライス、リフライドビーンズ(Amazon|楽天)

チーズは、チェダーとプロセスチーズを合わせて使います。テキサスの家庭では、チェダーとモントレージャックの中間のようなコルビージャック(Amazon|楽天)や、プロセスチーズのベルビータもよく使われます。日本では、同じプロセスチーズの仲間で、温めると溶けるように作られた「とろけるスライスチーズ」で代用します。普通のスライスチーズや6Pチーズは、温めても溶けにくいので向きません(理由は後で説明します)。

チェダーを削る手間を省くなら、チェダーのシュレッド(Amazon|楽天)でもかまいません。ただし、くっつき防止の粉がまぶしてあるので、ブロックを削ったものより少しだけなめらかさが落ちます。

冷凍のトルティーヤは、袋のまま冷蔵庫に移して半日ほどかけて解凍しておきます。

道具

  • 鍋(直径18cm程度):チリグレイビーを作ります
  • 泡立て器:ルーとスープをだまなく混ぜます
  • 耐熱皿(20×28cm程度、8本が並ぶ大きさ)、または鋳鉄のスキレット(26cm程度):トルティーヤを温めて、そのまま焼きます(Amazon|楽天)
  • チーズおろし:4面のものの、粗いおろし目を使います(Amazon|楽天)

作り方

  1. チーズと玉ねぎを準備する

    チェダーをチーズおろしで粗く削り、細かくちぎったスライスチーズと混ぜる。玉ねぎはみじん切りにする。

  2. ルーを作る

    鍋にラードを中火で溶かし、薄力粉を加えて泡立て器で混ぜる。薄く色づいて香ばしい香りがするまで1〜2分炒める。濃い茶色になるまで炒めない。

  3. スパイスを加える

    チリパウダー、クミン、ガーリックパウダー、オレガノ、塩、黒こしょうを加えて、30秒ほど混ぜる。

  4. スープでのばす

    スープを少しずつ加え、そのたびに泡立て器でよく混ぜて、だまのないなめらかな状態にする。混ぜながら加熱し、とろみがついてきたら(3〜5分)弱火にして、15〜20分煮る。ぽってりとしすぎたら、水を大さじ1〜2ずつ足してのばす。味をみて、塩で調える。

  5. オーブンを予熱する

    オーブンを220〜230℃に予熱する。

  6. トルティーヤを温める

    耐熱皿(またはスキレット)にサラダ油を入れ、トルティーヤを重ねて並べ、1枚ずつ両面に油をからめる。オーブンに入れて3〜5分、やわらかく温まるまで焼く。取り出したらトルティーヤを皿に移し、乾かないように布巾かアルミホイルをかぶせておく。

  7. ソースを敷く

    トルティーヤを取り出した耐熱皿に、チリグレイビーをお玉1杯(約120ml)ほど広げる。

  8. 巻く

    トルティーヤ1枚の中央に、チーズを25gほどと玉ねぎ大さじ1(約10g)を横長にのせ、くるりと巻く。巻き終わりを下にして耐熱皿に並べる。8本とも同じように巻く。

  9. ソースとチーズをかける

    残りのチリグレイビーを全体にかけ、残りのチーズ(約100g)を散らす。玉ねぎも少し散らす。

  10. 焼く

    220〜230℃のオーブンで10〜15分、チーズが溶けてふつふつと泡立つまで焼く。

  11. 仕上げる

    残りの生の玉ねぎを散らし、好みでハラペーニョの酢漬けを添える。熱いうちに食べる。

料理科学:とろみのソース、溶けるチーズ、割れないトルティーヤ

小麦粉のでんぷんがソースにとろみをつける

チリグレイビーのとろみは、小麦粉に含まれるでんぷんによるものです。でんぷんは、生の状態では小さな粒の中に分子がぎっしり詰まっていて、水に溶けません。水と一緒に温めると、粒が水を吸ってふくらみ、やがて分子が水の中に溶け出してきます。これを「糊化(こか)」といいます。ふくらんだ粒と溶け出した分子が水の動きを妨げるので、液体にとろみがつきます。

小麦粉のでんぷんは、水が十分にあると、50℃台の半ばから糊化が始まり、80℃台の後半でほぼ終わります。手順4で、とろみがついてからも弱火で15〜20分煮るのは、ソース全体を沸騰に近い温度に保って、でんぷんの粒をすっかり糊化させるためです。煮る時間が短いと、とろみが落ち着きません。

小麦粉を先に油で炒める理由

小麦粉をいきなりスープに入れると、だまだらけになります。粉どうしがくっついたまま水に触れ、乾いた粉のかたまりが残ってしまうからです。

手順2で小麦粉を先にラードで炒めるのは、粉の粒一つ一つを油で包むためです。でんぷんの糊化には十分な水が必要なので、油の中では粉は糊化せず、さらさらとした粒のままです。油に包まれた粒はばらばらにスープへ散らばり、それぞれが水を吸ってとろみをつけます。手順4でスープを少しずつ加えて混ぜるのも、粒を均一に散らすためです。炒めることには、小麦粉の生っぽい粉の味を消し、香ばしさを加える役目もあります。

ただし、炒めすぎは禁物です。ルーは色が濃くなるほど風味が強くなりますが、そのぶんとろみをつける力が弱くなります。チリグレイビーは、薄く色づいて香ばしい香りがしたら十分です。

チェダーは分離し、プロセスチーズは分離しない

チーズは、牛乳のたんぱく質「カゼイン」がつながり合った網の中に、脂肪の粒と水分が閉じこめられたものです。網をつなぎとめる「のり」の役目をしているのが、カルシウムです。

チェダーのようなナチュラルチーズを温めると、網がゆるんでとろりと溶けます。ところが長く加熱しすぎると、カゼインどうしが再びかたまってぼそぼそになり、網から押し出された脂肪が油になって表面に浮きます。これがチーズの「分離」です。手順10で、高めの温度で10〜15分と短く焼くのは、チーズが溶けたところで焼き上げて、分離させないためです。

アメリカンチーズは、チェダーやコルビーなどのチーズに、クエン酸ナトリウムを加えて溶かし、固め直したプロセスチーズです。クエン酸ナトリウムやリン酸ナトリウムは「乳化塩(にゅうかえん)」と呼ばれ、網をつなぎとめていたカルシウムを抱え込んで引き離します。カルシウムが外れたカゼインは小さな集まりになり、脂肪を細かい粒のまま包み込みます。そのため、プロセスチーズは温めても油が分かれず、低い温度でなめらかに溶けます。溶かしても分離しにくいことは、プロセスチーズがテキサスの家庭や店で広く使われてきた理由の一つです。

溶けるプロセスチーズと溶けないプロセスチーズ

日本の普通のスライスチーズや6Pチーズも、乳化塩を使ったプロセスチーズです。ところがこれらは、温めてもやわらかくなるだけで、形が残ります。一度しっかり加熱して練り上げたチーズは、たんぱく質の状態が変わっていて、もう一度温めても溶けて流れにくいのです。

「とろけるスライスチーズ」は、原料のチーズの熟成具合や加熱の温度を調整して、加熱しすぎない状態で作ったプロセスチーズです。だから温めるとよく溶けます。この記事でチェダーの一部をとろけるスライスチーズにしているのは、テキサスの店のプロセスチーズの役目を、日本で手に入るチーズで代わりに果たすためです。

トルティーヤを温めてから巻く理由

袋から出したばかりの冷たいコーントルティーヤを巻こうとすると、ぱきっとひびが入って割れてしまいます。原因は、ここでもでんぷんです。

トルティーヤを焼いたときに糊化したでんぷんは、冷めて時間がたつと、分子が再び集まって結晶のように並び直し、かたくなります。これを「でんぷんの老化」といい、パンが時間とともにかたくなるのと同じ現象です。冷めたコーントルティーヤがゴムのように、あるいはぼそぼそになるのはこのためです。老化は冷蔵庫くらいの温度でいちばん速く進むので、冷蔵庫から出したトルティーヤは特に割れやすくなっています。

老化したでんぷんは、60℃くらいまで温めると、並び直した構造がある程度ほどけて、やわらかさが戻ります。手順6でトルティーヤを温めてから巻くのはこのためです。テキサスの店では、トルティーヤを熱い油にさっとくぐらせてやわらかくします。油をまとわせると、巻いても割れにくくなるうえ、表面に膜ができて、ソースの中で崩れたりべちゃっとしたりしにくくなります。この記事では、たっぷりの油で揚げるかわりに、耐熱皿で油をからめてオーブンで温めます。油はねがなく、温めた皿でそのまま焼けます。

冷めたトルティーヤが割れる理由と、エンチラーダやタコスなどトルティーヤ料理の名前の見分け方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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本場との違い

  • チーズ:テキサスの店や家庭では、プロセスチーズのベルビータやアメリカンチーズ、コルビーやコルビージャック、マイルドなチェダーなどを使います。日本では手に入りやすいチェダーと、とろけるスライスチーズを合わせて、同じ方向の溶け方にしています。
  • チリパウダー:テキサスではゲブハートのような地元のブランドが好まれます。日本で手に入るアメリカ式のチリパウダーでも、同じ方向の味になります。
  • トルティーヤ:本場の店では、作りたてのコーントルティーヤを熱い油にくぐらせます。家庭版では冷凍のコーントルティーヤを使い、耐熱皿で油をからめてオーブンで温めます。
  • ソース:チリグレイビーのほか、ひき肉入りのチリコンカンや、アンチョを戻して作るソースをかける店や家庭もあります。

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食べ方

テキサスの店のように、メキシカンライスとリフライドビーンズを添えて、コンビネーション・プレートにするのが定番です。熱々のチーズとチリグレイビーに、生の玉ねぎのシャキッとした辛みと、ハラペーニョの酸味がよく合います。

エンチラーダ2本に、メキシカンライス、チーズをのせたリフライドビーンズ、レタスとトマトを盛ったコンビネーション・プレート

  • チリコンカンをかける:チリグレイビーのかわりにテキサス式のチリコンカンをかけると、ダン・ジェンキンスの言う「本物のテックスメックス」になります。
  • ケソと一緒に:前菜にケソとトルティーヤチップス(Amazon|楽天)を出せば、テックスメックス店の食卓になります。

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保存

  • チリグレイビー:冷蔵で3〜4日程度。冷めるとでんぷんが固まってぽってりするので、水を少し足して温め直す
  • 焼いたエンチラーダ:冷蔵で2日程度。耐熱皿ごとアルミホイルをかぶせて180℃のオーブンで15〜20分温める。トルティーヤがソースを吸ってやわらかくなるので、焼きたてがいちばんおいしく食べられます

もっと知りたい人へ

でんぷんの糊化や、チーズが溶ける仕組みを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。