ガラスの耐熱皿に並べ、緑のクリームソースと溶けたチーズにところどころ焼き色がついたエンチラーダ。端からほぐした鶏肉がのぞき、奥に玉ねぎの輪切り
タコスとメキシコ料理

家庭のオーブンで作るエンチラーダ・スイサ

地域
メキシコ(メキシコシティ)
分量
2〜3人分・6本
公開

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エンチラーダ・スイサは、ほぐした鶏肉をコーントルティーヤで巻き、トマティーヨの緑のソースとクリームをかけて、チーズをのせてオーブンで焼くメキシコシティの料理です。酸味のある緑のソースに、クリームのコクと、溶けて焦げ目のついたチーズが重なります。名前の「スイサ」はスペイン語で「スイス風」という意味です。

本場のレシピでも、仕上げはオーブンで焼きます。トマティーヨの缶詰と市販のコーントルティーヤを使い、トルティーヤを熱い油にさっとくぐらせる手順さえ守れば、家庭のオーブンでもソースを吸ってもくずれない、本場どおりのエンチラーダ・スイサが作れます。

本場のエンチラーダ・スイサとは

エンチラーダ(enchilada)は、メキシコのスペイン語の動詞「エンチラール(enchilar=唐辛子を加える)」から来た言葉で、「唐辛子をつけたもの」という意味です。屋台の食べ物だったころは、コーントルティーヤを唐辛子のソースにくぐらせただけで、具は入っていなかったといいます。1831年に出たメキシコ最初の料理書『エル・コシネロ・メヒカーノ』にも、すでにエンチラーダが出てきます。

今のメキシコでは、トルティーヤで具を巻くか折りたたみ、ソースをかけた料理をエンチラーダと呼びます。ソースの種類によって名前が変わり、赤い唐辛子のソースなら「エンチラーダ・ロハ(赤)」、トマティーヨのソースなら「エンチラーダ・ベルデ(緑)」です。エンチラーダ・スイサは、この緑のエンチラーダにクリームとチーズを加えた料理です。

サンボーンズで生まれたという説

エンチラーダ・スイサの生まれとしてよく知られているのが、メキシコシティのレストラン「サンボーンズ」です。料理雑誌『サブール』によると、1950年にサンボーンズの料理人が、緑のソースのエンチラーダにクリームを加えたのが始まりです。テキサスの雑誌『テキサス・マンスリー』も、これを「言い伝えによれば」として紹介しています。考えた料理人の名前は伝わっていません。

サンボーンズは、カリフォルニア出身のウォルター・サンボーンとフランク・サンボーンの兄弟が、1903年にメキシコシティで開いた薬局が始まりです。中でも有名なのが、旧市街にある「カサ・デ・ロス・アスレホス(タイルの家)」の店です。もとはオリサバ谷の伯爵家の屋敷で、建物の三方をプエブラ産の青と白のタイルが覆っています。サンボーンズ兄弟は1917年にこの屋敷を選び、改装して店を移しました。今は中庭がレストランになっていて、サンボーンズの本店にあたります。ここでも、エンチラーダ・スイサは定番の料理です。

「スイス風」という名前

なぜ「スイス風」なのかは、いくつかの説があります。

  • 乳製品をたっぷり使うから:スイスはチーズやクリームを多く使う料理で知られるので、クリームとチーズをのせた料理を「スイス風」と呼んだ、という説です。『テキサス・マンスリー』は、これをいちばん有力な説としています。
  • スイスの缶入りミルクから:アメリカの料理研究家ロブ・ウォルシュは、ネスレの缶入りミルク「ラ・レチェラ」のラベルにスイスの乳しぼりの娘が描かれていることに注目しています。ウォルシュが紹介するシェフの話では、ニカラグアでは缶入りのミルクはスイスから輸入される高級品でした。
  • スイス系の移民から:メキシコでクリームやチーズを作っていたスイスからの移民にちなむ、という説もあります。ただしウォルシュは、昔のメキシコにまとまったスイス移民があった記録は見つからない、と書いています。

のせるチーズ

本場では、メキシコ北部チワワ州の「ケソ・チワワ(チワワのチーズ)」をよくのせます。1921年に当時の大統領アルバロ・オブレゴンの招きでチワワ州に移り住んだメノナイト(キリスト教の一派)の人々が作り始めたチーズで、地元では「ケソ・メノニータ(メノナイトのチーズ)」とも呼ばれます。くせのない白っぽいチーズで、よく溶けて糸を引きます。

エンチラーダ・スイサのレシピ:材料(2〜3人分・6本)

鶏肉(ゆでてほぐす)

  • 鶏むね肉、または鶏もも肉(皮なし)400g
  • 水1L
  • 玉ねぎ1/4個(50g)
  • にんにく(皮をむいてつぶす)1片(5g)
  • ローリエ1枚
  • 塩小さじ1(6g)

トマティーヨのクリームソース

  • トマティーヨの缶詰(ホール)(Amazon|楽天)汁をきって450g
  • ハラペーニョ(生、または冷凍)(Amazon|楽天)1〜2本(15〜30g)
  • 白玉ねぎ(または玉ねぎ)1/4個(50g)
  • にんにく1片(5g)
  • シラントロ(パクチー)1/2束(10g)
  • サラダ油大さじ1(12g)
  • 鶏のゆで汁200ml
  • 生クリーム(乳脂肪分35%以上)150ml
  • 塩小さじ1/2〜1(3〜6g)

組み立て

  • コーントルティーヤ(直径15cm)(Amazon|楽天)6枚
  • サラダ油(トルティーヤをくぐらせる用)100ml
  • モントレージャックチーズ(Amazon|楽天)150g
  • または、モッツァレラのシュレッドチーズ(Amazon|楽天)150g

仕上げ

  • サワークリーム大さじ4(60g)
  • 白玉ねぎ(薄い輪切り)1/8個(25g)
  • シラントロ(パクチー)3〜4本(5g)

トマティーヨは、ホオズキの仲間の酸っぱい緑の実です。日本では生のものはほとんど売られていないので、メキシコ産などの缶詰を使います。缶詰はすでに加熱してあるので、そのままミキサーにかけられます。

メキシコでは、ソースに「クレマ」と呼ばれるメキシコのクリームを使います。サワークリームより水っぽく、注げるくらいのゆるさで、酸味は穏やかです。日本ではほとんど手に入らないので、ソースには乳脂肪分の高い生クリームを使い、仕上げにサワークリームをのせて酸味を補います。植物性のホイップクリームではなく、乳脂肪の生クリームを選んでください(理由は後で説明します)。

チーズは、本場のケソ・チワワに近い、くせがなくよく溶けるモントレージャックがおすすめです。手に入らなければ、モッツァレラのシュレッドチーズで作れます。半分ずつ混ぜてもかまいません。

道具

  • 鍋(直径18〜20cm):鶏肉をゆで、ソースを煮ます
  • ミキサー、またはハンディブレンダー:トマティーヨのソースをなめらかにします(Amazon|楽天)
  • 小さめのフライパン(直径20cm前後):トルティーヤを油にくぐらせます
  • トング
  • 耐熱皿(20×25cm前後のグラタン皿やガラスの耐熱皿):6本が1列か2列に並ぶ大きさ

作り方

  1. トルティーヤを解凍する

    冷凍のトルティーヤは、使う分を袋ごと冷蔵庫で半日ほど、または室温で30〜60分おいて解凍する。

  2. 鶏肉をゆでる

    鍋に水、玉ねぎ、にんにく、ローリエ、塩を入れて沸かし、鶏肉を入れる。再び沸いたらアクを取り、ふつふつと静かに煮立つくらいの弱火で、むね肉なら15〜20分、もも肉なら20〜25分ゆでる。火を止め、ゆで汁につけたまま15〜20分おいて冷ます。いちばん厚いところを切って、中まで白くなっていれば火が通っている。

  3. ほぐす

    鶏肉を取り出し、手かフォーク2本で細くほぐす。ゆで汁は200mlを取り分けておく。

  4. ソースの材料をミキサーにかける

    トマティーヨ、へたを取って粗く刻んだハラペーニョ、白玉ねぎ、にんにく、シラントロをミキサーに入れ、なめらかになるまで30秒〜1分攪拌する。辛さを控えたいときは、ハラペーニョの白いわたを取る。

  5. ソースを炒め煮にする

    鍋にサラダ油を中火〜強めの中火で熱し、ソースを1滴落としてジュッと音がしたら、ミキサーの中身を一気に入れる(はねるので注意)。混ぜながら5〜8分、少しとろみがついて色が濃くなるまで煮詰める。

  6. ゆで汁でのばす

    鶏のゆで汁200mlを加え、弱めの中火で5分煮る。

  7. クリームを加える

    弱火にして生クリームを加え、混ぜながら2〜3分温める。沸騰させない。塩で味を調える。とろみは、軽いクリームスープくらいが目安。

  8. 具を作る

    ほぐした鶏肉にソースを100mlほど加えて和える。オーブンを200〜220℃に予熱する。

  9. トルティーヤを油にくぐらせる

    小さめのフライパンにサラダ油100mlを入れて中火〜強めの中火で熱する。トルティーヤの端を入れるとすぐに細かい泡が出るくらい(約170〜180℃)になったら、トングでトルティーヤを1枚ずつ入れ、片面5〜10秒ずつ揚げる。カリッとさせず、やわらかく曲がるうちに取り出し、キッチンペーパーの上で油をきる。

  10. 巻く

    耐熱皿の底にソースを100mlほど広げる。トルティーヤに鶏肉を1/6量(約50g)ずつのせて巻き、巻き終わりを下にして皿に並べる。

  11. ソースとチーズをのせる

    残りのソースを、トルティーヤの端まで全体が隠れるようにかける。チーズを全体に散らす。

  12. 焼く

    オーブンの上段で12〜18分、ソースがふつふつと煮立ち、チーズが溶けてところどころに焼き色がつくまで焼く。焼き色がつかないときは、最後の2〜3分だけ温度を230〜250℃に上げるか、グリル機能を使う。

  13. 休ませて仕上げる

    オーブンから出して5分ほど休ませる。サワークリーム、白玉ねぎの輪切り、シラントロをのせ、熱いうちに取り分ける。

料理科学:トルティーヤ、クリーム、チーズ

トルティーヤを熱い油にさっとくぐらせる理由

冷たいコーントルティーヤをそのまま巻こうとすると、パリッと割れてしまいます。これは、トウモロコシのでんぷんの性質によるものです。焼きたてのトルティーヤのでんぷんは、水を含んでやわらかくふくらんだ状態です。冷めて時間がたつと、でんぷんの分子が少しずつ寄り集まって固まり、水を抱えられなくなります。これを「でんぷんの老化」と呼びます。メキシコの研究でも、トルティーヤは老化によって保存中に硬くなり、焼きたては簡単に巻けるのに、時間がたつと硬くもろくなって、巻くと割れると報告されています。

老化したでんぷんは、もう一度温めると、ある程度もとのやわらかさに戻ります。手順9で熱い油にくぐらせるのは、薄いトルティーヤを数秒で中まで温めて、やわらかく曲がるようにするためです。

油には、もうひとつの役目があります。油にくぐらせたトルティーヤは、表面に薄く油をまといます。この油の膜がソースの水分をはじくので、トルティーヤがソースを吸いすぎず、オーブンで焼いてもどろどろにくずれにくくなります。メキシコ料理のシェフも、エンチラーダのトルティーヤを先に油に通すのは、巻きやすくするためと、ソースの中でばらばらにならないようにするためだと説明しています。

ただし、長く揚げすぎるとトルティーヤが硬くなり、トスターダ(揚げたトルティーヤ)のようになって巻けません。片面数秒、やわらかいうちに引き上げるのがコツです。

手順11でトルティーヤの端までソースで覆うのも、同じ理由です。ソースがかかっていない部分は、オーブンの熱で乾いて硬くなります。

乳脂肪の多いクリームは、酸と加熱で分離しにくい

牛乳やクリームに酸を加えて温めると、白いかたまりが浮いて、ぼそぼそに分かれてしまうことがあります。これは、乳のたんぱく質の「カゼイン」が、酸性になると互いにくっつき合って固まるためです。温度が高いほど、この反応は速く進みます。トマティーヨは酸味の強い実なので、そのソースにクリームを加えて煮ると、分離が起こりやすい条件がそろいます。

ここで大事なのが、乳脂肪の量です。脂肪が多い乳製品ほど、分離しにくくなります。料理科学者のハロルド・マギーによると、乳脂肪の多いクリームでは、脂肪の粒の表面の膜が、主なたんぱく質の一部をつなぎとめるので、煮込んでも分離しにくいといいます。反対に、サワークリームはクリームより脂肪が少なく、たんぱく質が多いので、温めると分離しやすく、熱い料理には最後に加えるのがよいとされています。乳脂肪分が30%前後あるフランスのクレーム・フレッシュは、熱いソースに混ぜても分離しにくいクリームです。

この記事のレシピで、ソースには乳脂肪分の高い生クリームを使い、サワークリームを仕上げにのせるのはこのためです。それでも、酸と強い熱が重なると分離のおそれはあるので、手順7ではソースをいったん煮てから火を弱め、最後にクリームを加えて、沸騰させずに温めます。

チーズの溶け方と、ところどころの焦げ目

チーズの大部分は、カゼインがつながり合った網でできています。温めると、このカゼインの鎖がほぐれて、チーズ全体がやわらかくとろけ、からみ合って糸を引きます。本場のケソ・チワワは溶けやすさがモッツァレラに似ていて、味はくせのない白いチェダーやモントレージャックに近いチーズです。日本でモントレージャックやモッツァレラを使うのは、この溶け方と味が近いからです。

エンチラーダ・スイサの見た目の特徴である、白いチーズのところどころについた焦げ目にも理由があります。ニュージーランドの研究チームが、いろいろなチーズをのせたピザを焼き比べたところ、モッツァレラは弾力が強いため、チーズの中の水分が水蒸気になると、破れずに風船のようにふくらみました。モッツァレラは表面に浮く油が少ないので、ふくらんだ部分から水分が抜けて乾き、そこが焦げてまだらの焼き色になります。チェダーなど弾力の弱いチーズは、泡がすぐに破れてふくらまず、焼き色のつき方も違いました。

手順12でオーブンの上段を使い、焼き色が足りなければ最後だけ温度を上げるのは、ソースが煮立つ間にチーズの表面を乾かして、この焼き色をつけるためです。

チワワチーズのような溶けるチーズを焼く、ケソ・フンディードの作り方も紹介しています。

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本場との違い

  • チーズ:本場ではケソ・チワワをよくのせます。日本ではほとんど手に入らないので、溶け方と味が近いモントレージャックか、モッツァレラで作ります。
  • クリーム:本場ではメキシコのクレマを使います。日本では手に入りにくいので、ソースには乳脂肪分の高い生クリームを使い、クレマの酸味は仕上げのサワークリームで補います。
  • トマティーヨ:メキシコでは生のトマティーヨをゆでたり焼いたりしてソースにします。日本では生が手に入りにくいので、加熱済みの缶詰を使います。
  • 唐辛子:メキシコのレシピでは、ハラペーニョより細くて辛い青唐辛子「セラーノ」もよく使われます。日本で手に入りやすい生か冷凍のハラペーニョで作っています。

食べ方

耐熱皿から1人2本ずつ取り分け、皿に残ったソースもたっぷりかけて食べます。サワークリームの酸味と、白玉ねぎのシャキッとした辛みがよく合います。

白い皿に取り分けた焼き色のついたエンチラーダ2本と、添えたサワークリーム

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保存

  • 冷蔵:焼いたものは、ラップをして2日程度。トルティーヤがソースを吸ってやわらかくなるので、焼きたてがいちばんおいしく食べられます。温め直すときは、アルミホイルをかぶせて180℃のオーブンで15〜20分、または電子レンジで温めます
  • 冷凍:ほぐした鶏肉はゆで汁を少し加えて冷凍で1か月程度。クリームを加えたソースは、解凍すると分離しやすいので、冷凍するならクリームを加える前のソースにします

もっと知りたい人へ

クリームが分離する仕組みや、チーズが溶ける仕組みをはじめ、食材の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

本場メキシコの家庭料理とソースの作り方を知りたい人には、アメリカのメキシコ料理研究家リック・ベイレスの本もおすすめです。

Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。