
家庭のオーブンで作るカルニタス(メキシコ式)
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カルニタスは、豚肉を豚の脂(ラード)でじっくり煮て、最後に表面をカリッと揚げるメキシコの豚肉料理です。刻んでトルティーヤで包めば、メキシコでいちばん定番のタコスのひとつになります。
本場では銅の大鍋に大量のラードを沸かし、屋台で一日中煮込みます。家庭ではダッチオーブンとオーブンを使えば、同じ「外はカリッと、中はしっとり」に仕上がります。
本場のカルニタスとは
カルニタス(carnitas)はスペイン語で「小さな肉」という意味です。発祥はメキシコ中西部のミチョアカン州で、キロガやウルアパンの街道沿いに並ぶカルニタスの屋台は特によく知られています。
歴史をさかのぼると、1845年のメキシコの料理書には、カルニタスがフランスの「トゥール風チチャロン」の庶民的な呼び名として登場します。豚肉を脂で煮るフランスの料理が、メキシコで独自に発展したと考えられています。
銅の大鍋「カソ」とラード
本場のカルニタスは、「カソ(cazo)」と呼ばれる銅の大鍋で作ります。肉と同じくらいの量のラードを入れ、豚肉を大きなかたまりのままじっくり煮ます。
使う部位は肩だけではありません。ロース、もも、皮(クエリート)、内臓など、豚一頭のさまざまな部位を一緒に煮て、注文に応じて好きな部位を刻んでもらうのが屋台の楽しみです。
味つけは店や地域によって違います。ウルアパン周辺の素朴な作り方は、豚肉とラードと塩と水だけです。オレンジや牛乳、ハーブを加えるのも伝統的な作り方とされています。一方で、コーラやビール、練乳を入れるのは比較的新しいアレンジだという見方もあります。
食べ方
煮上がった肉は包丁で刻み、温めたコーントルティーヤにのせます。みじん切りの玉ねぎとシラントロ(パクチー)、サルサをのせて、ライムを搾るのが定番です。サルサは、トマティーヨ(緑のトマト)で作る緑のサルサ・ベルデや、焼いたトマトと唐辛子で作る赤いサルサ・ロハがよく使われます。刻んだトマト、玉ねぎ、シラントロ、青唐辛子で作るフレッシュなピコ・デ・ガヨ(赤・白・緑がメキシコ国旗の色に見えることから「サルサ・メヒカーナ」とも呼ばれます)や、ワカモレ、唐辛子と野菜の酢漬け(チレス・エン・ビナグレ)を添えるのも定番です。

カルニタスのレシピ:材料(4〜6人分)
豚肉と下味
煮る
牛乳とコーラはどちらも入れなくても作れます。コーラは、メキシコで売られているサトウキビ糖の瓶入り「メキシカン・コーク」が本場の味に近いですが、日本の普通のコーラでも大丈夫です。
ラードの量は本場にならって肉と同じ重さにしています。煮終わったラードは濾して冷蔵庫で保存すれば、豚の旨みが移った「再利用ラード」として次のカルニタスや炒め物に使えます。
タコスにする
道具
作り方
下味をつける
豚肉を5cm角に切り、塩10gをまぶして冷蔵庫で1時間〜一晩おく。オレンジは皮を幅2cmほどにむき、果汁を搾っておく。
ラードを溶かす
オーブンを150℃に予熱する。ダッチオーブンにラード1kgを入れ、中火にかけて溶かす。
ラードで煮る
豚肉の水けをふいて入れ、オレンジの皮、にんにく、ローリエも加える。ラードが静かに泡立つくらいの火加減で、ときどき上下を返しながら20分煮る。
水分を加える
水200ml、オレンジ果汁、好みで牛乳50mlとコーラ100mlを、はねないように鍋のふちから少しずつ加える。
オーブンで煮る
ふたをせずにオーブンに入れ、150℃で2時間〜2時間半煮る。1時間ごとに肉の上下を返す。竹串がすっと通れば煮上がり。
表面をカリッとさせる
水分が飛ぶと泡が細かく静かになり、肉の表面が色づき始める。焼き色が薄いときは、オーブンを200℃に上げて15〜20分、こんがりするまで加熱する。
刻む
穴あきおたまで肉を取り出して油を切り、5分休ませる。包丁で粗く刻み、カリカリの部分としっとりした部分を混ぜる。
タコスにする
コーントルティーヤをフライパンで片面30秒ずつ温め、カルニタス、玉ねぎ、シラントロ、サルサをのせてライムを搾る。
※熱いラードは非常に高温になります。水分を加えるときと、オーブンから出し入れするときはやけどに注意してください。

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水が温度にブレーキをかける
カルニタスは、豚肉を脂に沈めて低い温度で煮る「コンフィ」という調理法の一種です。ラードで煮ているのに、最初から揚げ物のようにカリカリにはなりません。その理由は水です。
手順4で水やオレンジ果汁を加えると、鍋の中に水分がある間は、ラードの温度はおよそ100℃から上がりにくくなります。水が沸騰して蒸発するときに、熱を奪い続けるからです。この間に、肉はゆっくり火が通って柔らかくなります。
水分がすべて蒸発すると、ブレーキがなくなります。ラードの温度は一気に130〜150℃ほどまで上がり、ここで初めて表面が揚がってカリッとします。焼き色と香ばしさをつけるメイラード反応が勢いよく進むのは、おおむね120℃を超えてからです。
つまりカルニタスは、「水で煮る段階」と「油で揚げる段階」が、水の蒸発をきっかけに自然に切り替わる料理なのです。手順6で泡が静かになるのは、水分がなくなって揚げる段階に入った合図です。
脂で肉汁を閉じ込めているわけではない
「ラードで煮るから肉汁が閉じ込められる」と説明されることがありますが、脂の分子は肉の細胞の中には入り込めません。ラードの役割は、肉の表面から水分が蒸発するのを防ぎ、鍋全体にむらなく熱を伝えることです。
中まで柔らかくなるのは、肉のコラーゲンが70℃を超えたあたりから少しずつゼラチンに変わるためです。この仕組みは、プルドポークの記事と、コラーゲンとゼラチンの解説記事で詳しく解説しています。
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オレンジ、牛乳、コーラの役割
オレンジの皮には、リモネンなどの香り成分が含まれています。この香りが、豚の脂のこってり感を軽くしてくれます。
牛乳を入れるのは、焼き色をつけやすくするためです。牛乳に含まれる乳糖とたんぱく質は、加熱するとメイラード反応を起こして色づきます。オレンジ果汁の糖分も同じように焼き色の元になります。
コーラを入れる理由も、主にこの焼き色です。コーラにはたっぷりの砂糖が含まれていて、水分が飛んだあとの高温のラードの中で、糖分がメイラード反応とカラメル化を進めます。表面が濃い色にカリッと仕上がり、ほんのり甘い照りがつきます。
「コーラの酸で肉が柔らかくなる」と説明されることもありますが、酸が効くのは肉の表面だけです。中まで柔らかくなるのは、長時間の加熱でコラーゲンがゼラチンに変わるためです。
焼き色をつけるメイラード反応とカラメル化は、こちらの記事で詳しく解説しています。
メイラード反応とカラメル化:焼き色と香りの正体焼いた肉や玉ねぎが茶色く香ばしくなる理由を、メイラード反応とカラメル化の違いから解説します。焼き色は表面が乾いてからつく仕組み、焦げとの境目、焼き付けで肉汁は閉じ込められない理由、BBQのバークの正体が分かります。
本場との違い
- 鍋:本場は熱の伝わりが良い銅のカソを使います。家庭版は、熱をためこんで温度が安定する鋳鉄のダッチオーブンにしています。
- 火:本場は直火で煮ます。家庭版はオーブンに入れることで、鍋全体を均一に温め、焦げつきを防いでいます。
- 部位:本場はさまざまな部位を一緒に煮ますが、家庭版は手に入りやすい豚肩ロースだけにしています。
- ラードの量:本場は大鍋いっぱいのラードで煮ます。家庭版は肉と同じ重さにして、肉が半分以上つかる量にしています。
アメリカ式のカルニタスとの違い
アメリカの家庭では、ラードを使わずにオレンジ果汁とスープで蒸し煮にし、ほぐしてからオーブンの上火で焼き目をつける作り方が広まっています。同じ名前でも作り方も仕上がりもかなり違うので、別の記事で紹介しています。
家庭のオーブンで作るカルニタス(アメリカ式)アメリカの家庭で広まったカルニタスを、ラードを使わずに家庭のオーブンで。豚肩ロースをオレンジやスパイス、コーラと160℃で蒸し煮にし、ほぐして上火でカリッと焼きます。煮てから焼く理由、コーラの砂糖とメイラード反応を料理科学で解説します。
保存
- 冷蔵:刻んだ肉を保存容器に入れて3日程度
- 冷凍:小分けにして保存袋に入れて1か月程度。食べるときはフライパンで焼き直すと、カリッとした食感が戻ります
出典
- Wikipedia「Carnitas」
- Maricruz Avalos「Authentic Carnitas Recipe」
- My Slice of Mexico「Pan-Fried Carnitas」
- La Opinión「El paso a paso para preparar carnitas caseras al estilo Michoacán」
- Food Republic「Coca-Cola, Orange Juice, And Milk Are The Unlikely Combo You Need For Carnitas」
- Absurdly Optimized「Carnitas from first principles」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。