木のまな板に、緑や赤の生の唐辛子と、しわの寄った赤黒い乾燥唐辛子を1本ずつ組にして4組並べた様子
食文化と料理の名前

ハラペーニョがチポトレになる:生と乾燥で名前が変わるメキシコの唐辛子

地域
メキシコ
公開

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メキシコ料理のレシピを読んでいると、アンチョ、グアヒージョ、パシージャ、チポトレと、知らない唐辛子の名前が次々に出てきます。ところが、生の唐辛子の売り場で同じ名前を探しても見つかりません。並んでいるのは、ハラペーニョやポブラノといった別の名前の唐辛子です。

じつは、チポトレはハラペーニョを燻して乾かしたもの、アンチョはポブラノを乾かしたものです。メキシコでは、同じ唐辛子でも生のときと乾燥させたときで名前が変わります。乾かすと、味も香りも色も、別の食材と呼べるほど変わるからです。

生と乾燥で名前が変わる理由

メキシコは、唐辛子(カプシカム・アヌーム種)が生まれ、栽培されるようになった中心地のひとつです。栽培されている唐辛子の種類の多さは世界一とされています。

その唐辛子を、メキシコの台所では「生で使うもの」と「乾かして使うもの」に分けて考えます。生の唐辛子は、青くさい香りとみずみずしい辛さを、サルサや酢漬けに加えます。乾燥唐辛子は、焼いて戻し、ペーストにして、煮込みやソースの味と色の土台にします。使い方がまったく違うので、乾かしたものには別の名前が付いています。

メキシコの研究者が書いた論文でも、よく知られた唐辛子の種類として「ハラペーニョ、アンチョ、グアヒージョ、パシージャ」が並べられています。アンチョやグアヒージョは乾燥させたときの名前ですが、それがそのまま唐辛子の種類の名前として通用しているのです。

4つのペア:生の名前と乾燥の名前

ハラペーニョ → チポトレ(モリータとメコ)

チポトレは、赤く熟したハラペーニョを燻製にして乾かしたものです。名前は、アステカの人々の言葉ナワトル語の「チルポクトリ(燻した唐辛子)」から来ています。メキシコでは昔から、屋外の窯で薪の煙に当てながら乾かして作られてきました。今は、生産者が使う業務用の燻製機でも作られています。

チポトレには、大きく2つのタイプがあります。

  • モリータ:「小さな桑の実」という意味。赤紫がかった暗い色で、燻す時間が短めです。料理家リック・ベイレスは「赤いチポトレ(別名チレ・モリータ)」と呼んでいます
  • メコ:灰色がかった黄褐色で、表面が粉をふいたように見えます。モリータより大きく、煙の香りが強いとされます。主にメキシコ国内で使われます

燻して乾かしたチポトレを、トマトを使ったソースで煮て缶詰にしたものが「チポトレ・エン・アドボ」です。日本では、乾燥のチポトレよりこの缶詰や粉のほうが手に入りやすいです。

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チポトレの燻した香りを主役にした料理が、鶏肉を煮込むティンガです。作り方はこちらで紹介しています。

本場ティンガ・デ・ポジョのレシピメキシコ中部プエブラ生まれのティンガ・デ・ポジョを家庭で。ゆでてほぐした鶏むね肉を、玉ねぎとトマト、チポトレ・エン・アドボで煮込み、トスターダにのせます。チポトレの燻香の正体と油に移る理由、炒めた玉ねぎが甘くなる理由を料理科学で解説します。

ポブラノ → アンチョ(とムラート)

ポブラノは、肉厚で大きな緑の唐辛子です。熟して赤くなったものを乾かすと、しわの寄った赤黒い「アンチョ」になります。アンチョはスペイン語で「幅が広い」という意味です。辛さはおだやかで、干しぶどうのような甘い香りがあります。

アンチョとよく似た乾燥唐辛子に「ムラート」があります。ニューメキシコ州立大学の唐辛子研究所は、ムラートを「アンチョに似ているが、熟すと茶色になるもの」と説明しています。アンチョより色が濃く、甘みが強いとされます。アメリカの青果売り場で「ポブラノ」として売られているのは、アンチョかムラートになる唐辛子の、生の緑の実です。

メキシコ料理の料理家ザレラ・マルティネスは、アンチョを「自分の料理でいちばん大事な唐辛子のひとつ」と書き、ムラートとはほぼ置き換えて使えるとしています。

アンチョは、テキサスのチリコンカンの味の土台です。作り方はこちら。

家庭のオーブンで作るテキサス式チリコンカン豆を入れないテキサス式の本場のチリコンカンを、家庭のオーブンで。角切りの牛肩ロースをアンチョとグアヒージョのソースで、150℃のオーブンで煮込みます。唐辛子を焼く理由、赤い色が脂に溶ける理由、肉が柔らかくなる仕組みを料理科学で解説します。

チラカ → パシージャ

チラカは、細長く濃い緑の唐辛子です。メキシコの地元で栽培され、国内での需要が高い唐辛子です。乾かすと、黒に近い色の、しわだらけの「パシージャ」になります。パシージャは「小さな干しぶどう」という意味で、黒く縮れた皮の見た目から付いた名前です。辛さはおだやかなものから辛いものまであり、深みのある味です。

南部のオアハカ州には、パシージャを燻した「パシージャ・デ・オアハカ」があり、有名な黒いモレ(モレ・ネグロ)に使われます。

ミラソル → グアヒージョ

ミラソルはスペイン語で「太陽を見る」という意味です。実が上を向き、太陽を指すように付くことから、この名前があります。ミラソルを乾かしたものが「グアヒージョ」です。

グアヒージョは長さ10cmほどで、表面はなめらかでつやのある赤い色です。主にアグアスカリエンテス州、ドゥランゴ州、サカテカス州で栽培されています。辛さはおだやかで、アンチョと並んで、サルサやモレ、アドボなどの煮込みに色と風味を付けるのに使われます。

グアヒージョとアンチョを組み合わせる料理には、ビリアやアル・パストールがあります。

家庭のオーブンで作るビリア(ケサビリアタコス)メキシコ・ハリスコ州生まれ、ティフアナ式の牛肉のビリアを家庭のオーブンで。唐辛子のアドボに漬けた牛すね肉をダッチオーブンで3時間煮込み、ケサビリアタコスにします。ゼラチンのコク、オーブンで焦げつかない理由、赤い脂の正体を料理科学で解説します。 家庭のオーブンで作るタコス・アル・パストールメキシコシティの屋台の定番タコス・アル・パストールを家庭のオーブンで。唐辛子とアチョーテに漬けた薄切り豚肉を型に重ねて焼き、削いでスキレットで焼き付けます。パイナップルの酵素、唐辛子の焙煎、メイラード反応を料理科学で解説します。

名前が変わらない唐辛子と、呼び名の混乱

チレ・デ・アルボルは乾いても同じ名前

すべての唐辛子の名前が変わるわけではありません。細長く真っ赤な「チレ・デ・アルボル」は、生でも乾燥でも粉でも同じ名前で売られています。アルボルはスペイン語で「木」の意味です。乾かしても赤い色があせないので、リースの飾りにも使われます。

辛さはかなり強く、ベイレスはアルボルのサルサに、辛くないグアヒージョを加えて辛さをやわらげています。

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アルボルを焼いて使うサルサ・ロハの作り方はこちら。

本場サルサ・ロハのレシピメキシコの焼いた赤いサルサ、サルサ・ロハを家庭で。トマト、玉ねぎ、にんにく、チレ・デ・アルボルを鉄のフライパンや魚焼きグリルで焦げ目がつくまで焼き、すりつぶします。メイラード反応とカラメル化、焦げと苦みの関係を料理科学で解説します。

アメリカでは、ポブラノが「パシージャ」と呼ばれる

名前の混乱もあります。アメリカでは、生産者や青果店がポブラノを「パシージャ」と呼んで売ることがあります。唐辛子の本を多く書いているデイブ・デウィットは、カリフォルニアの青果業界がポブラノをパシージャと呼んでいることを、はっきり誤りだと書いています。本来のパシージャは、チラカを乾かしたものです。アメリカのレシピで「生のパシージャ」とあれば、ポブラノのことだと考えてよいでしょう。

メキシコの中でも、地方で名前が違う

メキシコの中でも、同じ唐辛子の呼び名は地方で変わります。グアヒージョを例にすると、次のような呼び名があります。

  • ハリスコ州:乾燥したものも「チレ・ミラソル」と呼ぶ
  • メキシコシティ:「グアヒージョ・ケ・ノ・ピカ(辛くないグアヒージョ)」
  • サン・ルイス・ポトシ州:「チレ・トレス・ベナス」
  • コリマ州:「クアチャレロ」

レシピや売り場で知らない名前に出会ったら、生の名前なのか乾燥の名前なのか、どの地方の呼び名なのかを確かめると、正体が分かりやすくなります。

乾燥で味と色が変わる科学

水が抜けて、メイラード反応で褐色になる

唐辛子を乾かすと、果肉の水分が抜けて、糖やアミノ酸が残った果肉の中に詰まった状態になります。糖とアミノ酸は、熱が加わると反応して、褐色の色素と香ばしい香りの成分を作ります。パンの焼き色や焼いた肉の香りと同じ「メイラード反応」です。

赤いハラペーニョを55〜85℃で乾かしたメキシコの研究では、乾いた唐辛子に茶色が現れました。研究者たちは、その原因として、メイラード反応による物質の生成と、赤い色素のカロテノイドが分解されることを挙げています。生の赤い唐辛子が、乾くと赤黒いアンチョや茶色いチポトレになるのはこのためです。色と一緒に、香りも生の青くさい香りとは違う、甘く深い香りに変わります。

メイラード反応については、こちらの記事で詳しく解説しています。

メイラード反応とカラメル化:焼き色と香りの正体焼いた肉や玉ねぎが茶色く香ばしくなる理由を、メイラード反応とカラメル化の違いから解説します。焼き色は表面が乾いてからつく仕組み、焦げとの境目、焼き付けで肉汁は閉じ込められない理由、BBQのバークの正体が分かります。

赤い色素は水ではなく油に溶ける

唐辛子の赤い色のもとは、主に「カプサンチン」という色素です。にんじんのオレンジ色と同じカロテノイドの仲間です。カロテノイドは脂になじみやすい性質(脂溶性)があり、水には溶けにくく、油や脂に溶けます。カロテノイドを含む野菜を油で調理すると、体への吸収もよくなります。

チリコンカンやビリアを煮込むと、表面に赤い脂が浮きます。これは唐辛子の赤い色素が、肉の脂に溶け出したものです。乾燥唐辛子のペーストを脂と一緒に煮ると、色が料理全体に行き渡ります。

乾燥唐辛子で作るチリグレイビーをかける、テックスメックスのエンチラーダもどうぞ。

家庭のオーブンで作るテックスメックス・エンチラーダテックスメックスの定番、チーズ・エンチラーダを家庭のオーブンで。コーントルティーヤにチーズと玉ねぎを巻き、チリグレイビーをかけて焼きます。ルーでとろみがつく理由、プロセスチーズが分離しない理由、トルティーヤを温める理由を料理科学で解説します。

唐辛子の赤い色素が脂に溶け出すチョリソをのせた、ケソ・フンディードの作り方も紹介しています。

家庭のオーブンで作るケソ・フンディードメキシコ北部のケソ・フンディードを、小さな鋳鉄スキレットと家庭のオーブンで。溶けるチーズに手作りの簡易チョリソをのせて焼き、小麦粉のトルティーヤに巻いて食べます。チーズが糸を引く仕組みや油が分離する理由を料理科学で解説します。

燻製の香り:チポトレの煙の正体

チポトレの香りのもとは、薪の煙です。木を燃やすと、木の成分のひとつリグニンが熱で分解されて、香りの成分がいくつもできます。そのうち、グアイアコールは「燻した味」に、シリンゴールは「燻した香り」に、いちばん大きく関わる成分とされています。どちらもフェノール類と呼ばれる仲間です。木のセルロースなどが分解されてできる成分は、燻製の色のもとになります。

チポトレを作るときは、熟したハラペーニョを、この煙に当てながら乾かします。乾かす熱に加えて煙の成分が付くことで、チポトレの茶色い色と、燻した香りが生まれます。先ほどの研究でも、木を燃やして出る成分が、チポトレの色に影響すると考えられています。

炭火で焼く料理の燻した香りを家庭で足したいとき、チポトレの缶詰や粉が役に立つのはこのためです。

焙煎と戻し方:香りを立てて、苦くしない

焙煎で香りが立つ理由と、焦げやすい理由

乾燥唐辛子は、使う前に鉄板やフライパンで軽く焼きます(焙煎)。生の唐辛子を焼くと味が深まるのと同じように、乾燥唐辛子も焼くと香りがよくなります。表面でメイラード反応が進み、香ばしい香りの成分が増えるからです。メイラード反応は、140〜165℃あたりで速く進みます。

ただし、乾燥唐辛子はとても焦げやすい食材です。水分の多い食材は、水が蒸発している間は表面の温度が100℃ほどで止まります。乾燥唐辛子には水がほとんどないので、熱い鉄板にのせると、すぐに温度が上がって焦げてしまいます。アメリカの料理研究機関アメリカズ・テスト・キッチンも、フライパンで焼くと唐辛子を焦がしやすく、苦みが出ると注意しています。ベイレスも、うっすら煙が出るくらいなら大丈夫だが、それ以上は焦げて苦くなると書いています。

丸い鉄板で焼いている乾燥唐辛子と、横の器に盛った焼く前の乾燥唐辛子

焼き方の目安は次のとおりです。

  • 鉄板やフライパンで焼く:中火からやや強めの中火で熱し、へたと種を取って平らに開いた唐辛子を、皮を上にしてのせます。フライ返しで数秒ずつ押し付け、かすかにパチパチと音がしたら裏返します。下の面がまだらに薄茶色になれば十分です(Amazon|楽天)
  • 小さな唐辛子:モリータは乾いたフライパンで香りが立つまで30〜45秒、アルボルは混ぜながら香りが立ち、ところどころ色が濃くなるまで1分ほど焼きます
  • オーブンで焼く:天板に並べ、175〜180℃のオーブンで香りが立って少し膨らむまで5〜7分。まとめて焼けて、焦がしにくい方法です

辛さは種ではなく、白いわた(胎座)にある

焼く前にへたと種を取るとき、辛さを調整できます。唐辛子の辛さのもとはカプサイシンという成分です。カプサイシンを作る腺は、種が付いている中心の白いわた(胎座=たいざ)に沿って並んでいます。種そのものはカプサイシンを作りません。「辛さは種にある」とよく言われますが、辛さを抑えたいときは、種だけでなく白いわたも取り除きます。

カプサイシンは水に溶けにくい成分です。辛すぎるときに水やビールを飲んでもあまり効かず、脂の多い食べ物や乳製品のほうが効きます。

生のハバネロのわたを取って辛さを調整する、ジャマイカのジャークチキンもどうぞ。

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家庭のオーブンで作るジャークチキンジャマイカ名物のジャークチキンを家庭のオーブンで。ハバネロとオールスパイスのマリネに漬けた骨付きもも肉を200℃で焼き、中心温度75℃以上を確かめます。辛さのもとカプサイシンが油に溶ける理由やマリネの働きを料理科学で解説します。

戻し方

焼いた唐辛子はボウルに入れ、かぶるくらいの熱い湯(給湯器の湯くらい)を注ぎます。浮いてくるので小皿をのせて沈め、ときどき混ぜて、20〜30分おいてやわらかくします。ベイレスのチリのレシピでは、戻した湯は捨てています。

焼いて戻したグアヒージョで赤いサルサを作る、チラキレスの作り方も紹介しています。

本場チラキレスのレシピメキシコの定番の朝ごはんチラキレスを、市販のトルティーヤとスキレットひとつで。乾かしたトルティーヤを揚げて赤いサルサで煮て、目玉焼きをのせます。乾かすと油を吸いにくい理由と、トトポがサルサを吸ってしんなりする仕組みを料理科学で解説します。

まとめ

  • メキシコの唐辛子は、生と乾燥で名前が変わる:ハラペーニョ→チポトレ、ポブラノ→アンチョ(ムラート)、チラカ→パシージャ、ミラソル→グアヒージョ
  • チレ・デ・アルボルのように名前が変わらないものや、アメリカでポブラノを「パシージャ」と呼ぶような混乱もある
  • 乾かすと糖とアミノ酸のメイラード反応で褐色になり、香りが深くなる。赤い色素のカロテノイドは油に溶ける
  • チポトレの燻した香りは、木のリグニンが分解してできるグアイアコールやシリンゴールによる
  • 焙煎は短時間で。焦がすと苦くなる。辛さを抑えるなら種より白いわたを取る

もっと知りたい人へ

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出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。