
家庭のオーブンで作るスマザード・ブリトー
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スマザード・ブリトーは、大きな小麦粉のトルティーヤで牛肉の煮込みと豆、ご飯を巻き、上から赤いチリソースと溶けるチーズをたっぷりかけて焼き上げる、テキサスのテックスメックスの料理です。「スマザード(smothered)」は英語で「覆いかぶせた」という意味で、手では持たず、ナイフとフォークで食べます。
具を巻いて、ソースとチーズをかけて焼くだけなので、家庭のオーブンでも本場の見た目と味にかなり近づけます。きれいに仕上げるコツは、トルティーヤを温めてから巻くことと、チーズの表面をしっかり焼くことです。
本場のスマザード・ブリトーとは
ブリトー(burrito)は、スペイン語で「小さなロバ」という意味です。名前の由来ははっきりせず、たくさんの具を包んだ姿を、荷物を背負ったロバに見立てたという説などがあります。
メキシコ北部のブリトーとの違い
ブリトーは、テキサス州エルパソと国境をはさんで向かい合う、メキシコ北部の町シウダー・フアレスで形になった料理です。今もシウダー・フアレスでは、食堂や道ばたの屋台でブリトーが売られています。
本場メキシコ北部のブリトーは、小さめで細く、具は肉や豆、ジャガイモなど1〜2種類だけのシンプルなものが一般的です。ソースはかけず、手で持って食べます。このメキシコ北部のブリトーは、別の記事で紹介します。
アメリカでは、1930年代にロサンゼルスのメキシコ料理店「エル・チョロ」のメニューにブリトーが載ったのが早い例とされています。そこから各地で、アメリカらしい大きなブリトーが生まれていきました。
サンフランシスコのミッション・ブリトーとの違い
アメリカのブリトーでもう一つ有名なのが、サンフランシスコのミッション地区で1960〜70年代に広まった「ミッション・ブリトー」です。蒸し器の上に並んだ具を流れ作業で巻き、アルミホイルで包んで手で持って食べる、巨大なブリトーです。中身はグリルした牛肉に、ご飯、粒のままの豆、サワークリーム、ワカモレなどを入れます。ミッション・ブリトーも別の記事で扱います。
これに対してテキサスのスマザード・ブリトーは、ソースとチーズで外側を覆って焼くのが特徴です。英語では「ウェット・ブリトー(濡れたブリトー)」「エンチラーダ・スタイル」とも呼ばれ、スペイン語では「モハード(濡れた)」とも呼ばれます。
テックスメックスの魂、チリグレイビー
テキサスのスマザード・ブリトーにかけるソースは、多くの場合「チリグレイビー」です。油で小麦粉を炒めたルーに、チリパウダーとクミンを加え、スープでのばした茶色がかった赤いソースで、肉は入りません。アメリカ南部の肉料理にかける「グレイビー」と、メキシコの唐辛子のソースを合わせたような味です。
チリグレイビーは、サンアントニオなどのメキシコ料理店で生まれたとされ、1890年代にはすでにテキサスの新聞に名前が出てきます。料理研究家のロブ・ウォルシュはこのソースを「テックスメックスの本質」と呼んでいます。エンチラーダにかけるのと同じソースです。
スマザード・ブリトーのレシピ:材料(4本・4人分)
牛肉の煮込み(カルネ・ギサーダ)
カルネ・ギサーダはスペイン語で「煮込んだ肉」という意味で、テキサスでは小麦粉のトルティーヤで包んで食べる定番の具です。家庭ごとに作り方が違い、青唐辛子とトマトで煮るもの、乾燥唐辛子で煮るものなどがあります。
チリグレイビー
チリパウダーは、唐辛子にクミンやオレガノ、にんにくなどを混ぜたアメリカのミックススパイスです。一味唐辛子とは別物なので、必ず「チリパウダー」を使ってください。
リフライドビーンズ
メキシカンライス
巻く・焼く
仕上げ(好みで)
- シラントロ(パクチー)みじん切り大さじ2
- 玉ねぎ(みじん切り)大さじ2
- サワークリーム、ワカモレ、ピコ・デ・ガヨ
テキサスの店では、テックスメックスの定番の黄色いチーズ(チェダー系)をのせて焼きます。モントレージャックは、くせがなくよく溶ける白いチーズです。手に入らなければ、チェダーだけでもかまいません。
道具
- ダッチオーブン(ふたができ、オーブンに入れられる厚手の鍋)(Amazon|楽天)
- 耐熱皿(23×33cm程度。4本が並ぶ大きさ)
- チーズおろし:4面のものの、粗いおろし目を使います(Amazon|楽天)
- 鍋(チリグレイビーとご飯用)
作り方
肉を切って塩をする
牛肉を2〜3cm角に切り、塩6gをまぶす。オーブンを160℃に予熱する。
焼き付ける
ダッチオーブンにサラダ油を中火〜強火で熱し、牛肉を重ならないように並べて、表面に濃い焼き色がつくまで5〜8分焼く。多ければ2回に分ける。肉をいったん取り出す。
香味野菜を炒める
中火にして玉ねぎとハラペーニョを5〜8分炒め、にんにくを加えて1分炒める。クミン、チリパウダー、オレガノを加えて30秒ほど炒める。
オーブンで煮込む
肉を戻し、トマト缶と水を加えて、鍋底の焼き付いたうまみをこそげ取る。沸騰したらふたをして、160℃のオーブンで2時間〜2時間30分、肉がフォークでほぐれるやわらかさになるまで煮込む。
煮汁を分ける
肉を取り出して、フォークで粗くほぐす。煮汁は水を足して480mlにする(チリグレイビーに使う)。
メキシカンライスを炊く
煮込んでいる間に、鍋にサラダ油を中火で熱し、米を洗わずに入れて3〜5分、薄く色づくまで炒める。玉ねぎとにんにくを加えて1分炒め、トマト缶、水、塩を加える。沸騰したらふたをして弱火で15〜18分炊き、火を止めて10分蒸らす。
チリグレイビーを作る
鍋にラードを中火で溶かし、薄力粉を加えて泡立て器で混ぜながら、薄く色づいて香ばしい香りがするまで1〜2分炒める。スパイスと塩を加えて混ぜ、5の煮汁を少しずつ加えて、だまがないように混ぜる。とろみがつくまで3〜5分混ぜ、弱火で10〜15分煮る。かたすぎたら水でのばす。
豆を温める
リフライドビーンズを小鍋で温め、かたければ水を大さじ1〜2加えてのばす。
チーズを削り、オーブンを上げる
チェダーとモントレージャックを粗く削って混ぜる。オーブンを200〜220℃に予熱する。
トルティーヤを温める
トルティーヤを1枚ずつ、何もひかないフライパンで中火で片面15〜20秒ずつ温める。電子レンジなら、4枚重ねて濡らしたキッチンペーパーで包み、ラップをして30〜40秒温める。温めたら乾かないように布巾で包んでおく。
巻く
耐熱皿の底にチリグレイビーをお玉1杯ほど薄く広げる。トルティーヤの中央より手前に、リフライドビーンズ、ご飯、牛肉を横長にのせ(1本あたり合わせて200g程度)、チーズを少し散らす。手前をかぶせ、左右を内側に折りたたみ、向こう側へきつめに巻く。巻き終わりを下にして耐熱皿に並べる。
ソースとチーズをかける
残りのチリグレイビーをブリトーの上にかけ、残りのチーズを全体に散らす。トルティーヤの両端は、ソースをかけずに少し出しておく。
焼く
200〜220℃のオーブンの上段で15〜20分、チーズが溶けてふつふつと泡立ち、ところどころに焼き色がつくまで焼く。
仕上げる
好みでシラントロと玉ねぎを散らし、サワークリームやワカモレ、ピコ・デ・ガヨを添える。
料理科学:ソースとチーズの焼き色、破れないトルティーヤ
焼き色はチーズの表面で生まれる
スマザード・ブリトーのおいしさは、ソースの上で溶けたチーズの、香ばしい焼き色にあります。この焼き色と香りは、たんぱく質のもとになるアミノ酸と糖が熱で反応する「メイラード反応」によるものです。パンの皮が茶色くなるのも同じ反応です。

メイラード反応が盛んに進むのは、おおよそ140〜165℃あたりからです。ところが、水分がある場所の温度は、水が蒸発しきるまで沸点の100℃前後で止まってしまいます。チリグレイビーは水分の多いソースなので、ソースの中は100℃を超えにくく、焼き色はつきません。
焼き色がつくのは、チーズが空気に触れている表面です。チーズの研究でも、焼き色はチーズと空気の境目で起きるメイラード反応だとされています。オーブンの熱で表面の水分が飛ぶと、温度は100℃を超えて上がっていきます。手順12でソースを先にかけ、チーズを最後に上へ散らすのはこのためです。チーズの上からソースをかけると、チーズが水分に覆われて焼き色がつきにくくなります。
高めの温度で短く焼く理由
手順13で200〜220℃の高めの温度にして、オーブンの上段で焼くのも、チーズの表面を早く乾かして温度を上げるためです。具はすでに温かいので、長く焼く必要はありません。低い温度で長く焼くと、表面に焼き色がつく前にソースの水分がトルティーヤに染み込んで、生地がべちゃっとしてしまいます。
熱風で一気に加熱するオーブンほどチーズに焼き色がつきやすいことも、研究で知られています。ただし焼きすぎると、メイラード反応の先で焦げて苦くなります。ところどころが茶色になったら焼き上がりです。
ソースをかけずに少し出しておいたトルティーヤの両端は、水分がないぶん温度が上がりやすく、パリッと香ばしく焼けます。ソースを吸ったやわらかい部分との食感の違いも、スマザード・ブリトーの楽しみです。
焼き色が生まれるメイラード反応と、焦げとの境目は、こちらの記事で詳しく解説しています。
メイラード反応とカラメル化:焼き色と香りの正体焼いた肉や玉ねぎが茶色く香ばしくなる理由を、メイラード反応とカラメル化の違いから解説します。焼き色は表面が乾いてからつく仕組み、焦げとの境目、焼き付けで肉汁は閉じ込められない理由、BBQのバークの正体が分かります。
トルティーヤは温めると破れにくくなる
小麦粉のトルティーヤが大きな具を包んでも破れないのは、「グルテン」のおかげです。グルテンは、小麦粉に水を加えてこねるとできるたんぱく質の網で、生地に弾力と伸びを与えます。トウモロコシのトルティーヤにはグルテンがないので、大きな具を巻くのには向きません。
ところが、袋から出したばかりの冷たいトルティーヤを巻こうとすると、ひびが入ったり破れたりします。原因は生地の中のでんぷんです。焼いたときにやわらかくなったでんぷんは、冷めて時間がたつと、分子が並び直して結晶のように固まっていきます。これを「でんぷんの老化」といい、パンが時間とともにかたくなるのと同じ現象です。テキサスA&M大学の研究でも、トルティーヤを保存するとでんぷんが固まって生地がかたくなり、グルテンの網がしなやかさを支えている、と説明されています。
老化したでんぷんは、もう一度温めると、固まった構造がほどけて水分を抱え直し、やわらかさが戻ります。手順10でトルティーヤを温めてから巻くのはこのためです。温めたトルティーヤを布巾で包んでおくのは、冷めて再びかたくなるのと、表面が乾いて割れやすくなるのを防ぐためです。フライパンで温めすぎると、逆に水分が飛んでパリパリになるので、片面15〜20秒ほどにとどめてください。
トルティーヤが冷めると割れる理由と、ブリトーやエンチラーダなどトルティーヤ料理の名前の違いは、こちらの記事で詳しく解説しています。
タコス、エンチラーダ、チラキレス…トルティーヤ料理の名前の見分け方タコス、エンチラーダ、トスターダ、フラウタ、チラキレス。メキシコのトルティーヤ料理の名前は、具ではなく、たたむ・ソースにくぐらせる・揚げる・割るという加工で決まります。名前の見分け方と、冷めたトルティーヤが割れる理由を料理科学で解説します。
小麦粉のトルティーヤのグルテンや、メキシコとテキサスのブリトーの違いは、テックスメックスとメキシコ料理の違いの記事で詳しく解説しています。
テックスメックスとメキシコ料理は何が違う?同じ名前で別物の料理たちテックスメックスとメキシコ料理は何が違うのか。テハーノの料理から育った歴史、黄色いチーズやクミン、小麦粉トルティーヤなど材料の違い、ブリトーやエンチラーダなど同じ名前で別物の料理を、プロセスチーズやグルテンの料理科学も交えて整理します。
本場との違い
- トルティーヤの大きさ:日本で手に入りやすい10インチ(約25cm)の小麦粉トルティーヤに合わせて、1本あたりの具の量を調整しています。
- チリパウダー:テキサスでは、ゲブハートのような古くからある地元ブランドのチリパウダーが好まれます。日本で手に入るアメリカ製のチリパウダーで、同じ方向の味になります。
- 具:牛肉の煮込みのほか、ひき肉、チキン、カルニタスなどを巻く店もあります。豆とチーズだけの素朴なブリトーも定番です。
- チーズ:テキサスでは、黄色いチェダー系のチーズや、チェダーとジャックの中間のようなコルビージャックがよく使われます。
食べ方
お皿にのせて、ナイフとフォークで食べます。メキシカンライスやリフライドビーンズを横に添えれば、テキサスのテックスメックス店のような「プレート」になります。冷たいサワークリームやワカモレ、さっぱりしたピコ・デ・ガヨが、熱々のチーズとソースによく合います。
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保存
- 牛肉の煮込み:冷蔵で3日程度。冷凍なら1ヶ月程度
- チリグレイビー:冷蔵で3〜4日程度。冷めると固まるので、水を足して温め直す
- 焼いたブリトー:冷蔵で2日程度。耐熱皿ごとアルミホイルをかぶせて180℃のオーブンで15〜20分温め、ホイルを外して数分焼くと、表面が再び香ばしくなります
もっと知りたい人へ
メイラード反応やでんぷんの老化など、料理の中で起きていることを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
テックスメックスやメキシコ料理を本場の作り方で学びたい人には、こちらもおすすめです。
Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)
出典
- Wikipedia「Burrito」
- Wikipedia「Flour tortilla」
- Barry Popik「Chili Gravy (Chile Gravy)」
- Homesick Texan「Cheese enchiladas: the essence of Tex-Mex」
- Homesick Texan「Carne guisada, Tex-Mex stew」
- Texas Monthly「Carne Guisada」
- Kevin Is Cooking「Tex-Mex Wet Burrito (Burrito Mojado)」
- Wikipedia「Maillard reaction」
- America's Test Kitchen「The Maillard Reaction in Reducing Sauces」
- University of Wisconsin(MINDS@UW)「Strategies to Control Blistering and Browning in Low-Moisture Part-Skim Mozzarella Cheese Baked on Pizza」
- Texas A&M University「Roles of carbohydrates and proteins in the staling of wheat flour tortilla」
- Tasting Table「The Scientific Reason Bread Gets Hard As It Stales」
- Wikipedia「Gluten」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。