
本場ケサディーヤのレシピ
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ケサディーヤは、トルティーヤに具をのせて二つ折りにし、鉄板で焼いたメキシコの軽食です。メキシコでは屋台でも家庭でも毎日のように作られ、コーントルティーヤに糸を引くオアハカチーズと香草のエパソーテをはさんだものが定番です。キノコやカボチャの花、トウモロコシに生えるキノコの一種「ウィトラコチェ」など、具の種類もたくさんあります。
日本でケサディーヤというと、小麦粉のトルティーヤ2枚でチーズをはさみ、ピザのように切り分けるアメリカ式を思い浮かべる人が多いかもしれません。本場の焼き方はもっと簡単で、コマルと呼ばれる鉄板の代わりに鋳鉄のスキレットがあれば、家庭でも同じように焼けます。チーズがよく伸びる理由と、トルティーヤを香ばしく焼くコツにも、ちゃんと科学の裏付けがあります。
本場のケサディーヤとは
ケサディーヤ(quesadilla)は、スペイン語の「ケサーダ(quesada)」に、「小さな」を表す語尾がついた言葉です。メキシコの言葉の辞書を作っているメキシコ言語アカデミーによると、ケサーダはもともとヨーロッパの、チーズと生地で作るお菓子の名前でした。料理としてのケサディーヤは、スペインの植民地だった時代のメキシコで生まれ、形を変えながら今に伝わっていると考えられています。
コマルで焼くのが基本
メキシコ中部と南部のケサディーヤは、コーントルティーヤをコマル(丸く平たい鉄板)で温め、具をのせて二つ折りにし、中のチーズが溶けるまで焼いて作ります。油で揚げる「ケサディーヤ・フリタ(揚げケサディーヤ)」もあり、こちらは金色にカリッと揚がるまで揚げます。
いちばんの定番の具は、オアハカチーズです。メキシコ南部のオアハカ州で生まれた白いチーズで、地元では「ケシージョ」とも呼ばれます。熱いお湯の中でチーズのもとを練って長いひも状に伸ばし、毛糸玉のように巻いて作ります。イタリアのモッツァレラと同じ「パスタ・フィラータ(糸状に伸ばしたチーズ)」の仲間で、溶かすとよく糸を引きます。
チーズと一緒にはさむことが多いのが、エパソーテという香草です。メキシコ原産の草で、オレガノやアニスに似た、それよりずっと強い独特の香りがあります。黒豆の煮込みにも欠かせないハーブで、ケサディーヤにも葉を数枚入れて香りをつけます。
具のバリエーション
ケサディーヤの具は、チーズだけではありません。
- キノコ(オンゴス):唐辛子やエパソーテと炒めたキノコ
- カボチャの花(フロール・デ・カラバサ):オアハカチーズと合わせるのが定番です
- ウィトラコチェ:トウモロコシの粒にできるキノコ(黒穂病菌)。火を通すと黒くなり、キノコのような甘く土っぽい風味が出ます。メキシコではごちそうとされ、ふつうのトウモロコシより高い値段で売られています
- チチャロン:豚肉や豚の皮を使った具
- ティンガ:鶏肉や牛肉の煮込み
- じゃがいもとチョリソ
北部では、小麦粉のトルティーヤにチワワチーズなどをはさむことが多くなります。
メキシコシティの論争「チーズの入らないケサディーヤ」
「ケサディーヤ」という名前は「チーズ(queso)」から来ています。ところがメキシコの首都メキシコシティでは、チーズの入っていないケサディーヤが普通に売られています。屋台で「ティンガのケサディーヤ」を頼むと、チーズは入っていません。チーズを入れたいときは「コン・ケソ(チーズ入りで)」と頼みます。
ほかの州では、ケサディーヤといえばチーズ入りが当たり前です。チーズの入らないものは「ドブラーダ(折ったもの)」と呼びます。メキシコシティでは「ケサディーヤ・デ・ケソ(チーズのケサディーヤ)」という言い方も普通にありますが、地方の人から見ると「チーズのチーズ包み」と同じ言葉を重ねているように聞こえます。このため、ケサディーヤにチーズは必須かどうかは、メキシコで何度もくり返されてきた論争になっています。
辞書はどちらの味方でしょうか。スペイン王立アカデミーの辞書は、ケサディーヤを「チーズまたはほかの材料をはさんだトルティーヤ」と定義しています。メキシコ言語アカデミーも「チーズまたはほかの食べ物をはさみ、揚げるかコマルで焼いたもの」としたうえで、「ケサディーヤ・デ・ケソ」は地方では言葉の重複になることもあるが、メキシコシティではそうではない、と答えています。チーズなしのケサディーヤは、少なくとも首都では正しい言葉づかいということです。
アメリカ式との違い
アメリカ南西部のケサディーヤは、小麦粉のトルティーヤにモントレージャックやチェダーをはさんで焼く、グリルドチーズサンドイッチに近い料理です。トルティーヤ2枚ではさみ、放射状に切り分けて出すことも多くあります。
メキシコでは、小麦粉のトルティーヤ2枚にハムとチーズをはさんだものは「シンクロニサーダ」という別の料理です。アメリカでよく見る、具をはさんで鉄板で押し焼きにしたものは、メキシコでは「グリンガ」と呼ばれます。コーントルティーヤを1枚で二つ折りにするのが、メキシコ中部の本場のケサディーヤです。
ケサディーヤのレシピ:材料(2人分・6枚)
チーズとエパソーテの定番と、キノコの2種類を3枚ずつ作ります。
共通
作り方A:チーズとエパソーテ(3枚分)
- オアハカチーズ100〜120g
- エパソーテ(乾燥)(楽天)海外からの取り寄せのため高価です小さじ1/2
オアハカチーズが手に入らないときは、モッツァレラチーズで代用します(Amazon|楽天)。袋に水と一緒に入ったフレッシュタイプは水分が多いので、手で細かく裂いてからキッチンペーパーで水けをよくふいてください。
エパソーテの生の葉が手に入れば、1枚に2〜3枚ずつはさみます。乾燥のものは香りが強いので、入れすぎないようにします。
作り方B:キノコ(3枚分)
キノコは本場でもマッシュルームやヒラタケなど、手に入るものを使います。エパソーテがないときは、シラントロ(パクチー)のみじん切り大さじ2を、キノコを炒め終わったあとに混ぜます。
仕上げ・添えるもの
- サルサ(サルサ・ロハ、サルサ・ベルデなど)適量
- ワカモレ好みで
ウィトラコチェで作りたいときは、メキシコ産の缶詰が通販で手に入ります(楽天。海外からの取り寄せのため高価です)。玉ねぎと一緒に炒めて、作り方Bのキノコと同じようにはさみます。
道具
- 鋳鉄のスキレット:本場のコマルの代わりです。厚い鉄は熱をためこむので、トルティーヤをのせても温度が下がりにくく、むらなく焼き色がつきます(Amazon|楽天)
- フライ返し
- 小さめのフライパン(作り方Bのキノコを炒める用)
作り方
作り方B:キノコの具を先に作る
キノコを切る
キノコは石づきを取り、5mm厚さに切る。ハラペーニョはへたと種のまわりの白いわたを取り、薄切りにする。
蒸し炒めにする
フライパンにラードを中火で熱し、キノコ、ハラペーニョ、エパソーテを入れて混ぜ、ふたをする。ときどき混ぜながら、キノコから水分がたっぷり出るまで4〜5分加熱する。
水分を飛ばす
ふたを取り、汁けがなくなるまで3分ほど炒める。塩で味をととのえる。具に水分が残っていると、トルティーヤが湿って破れやすくなります。
焼く(A・B共通)
チーズを裂く
オアハカチーズは、巻いてあるひもをほどき、細く裂いておく。
スキレットを温める
鋳鉄のスキレットを中火で3〜5分温める。油はひかない。
トルティーヤを温める
トルティーヤを1枚のせ、20〜30秒温めて裏返す。やわらかくなればよい。
具をのせる
トルティーヤの片側半分に、縁を1cmほどあけてチーズを広げる。作り方Aはエパソーテを散らし、作り方Bはチーズの上にキノコの具を大さじ3ほどのせる。
二つ折りにする
チーズが溶けはじめたら、具のない側を持ち上げて二つ折りにし、フライ返しで軽く押さえる。
焼く
ときどき裏返しながら、チーズが完全に溶けてトルティーヤに香ばしい焼き色がつくまで、合わせて3〜5分焼く。焦げそうなら弱めの中火にする。
熱いうちに出す
焼けたものから皿に移す。まとめて出すときは、清潔なふきんで包んで保温する。サルサを添える。
スキレットが大きければ、2枚ずつ並べて焼けます。
料理科学:チーズの糸とトルティーヤの焼き色
チーズが糸を引くのは、カゼインの繊維が並んでいるから
チーズは、牛乳のたんぱく質「カゼイン」がつながり合った網の中に、脂肪と水分が閉じこめられたものです。この網をつなぎとめる役目をしているのがカルシウムです。

オアハカチーズやモッツァレラのようなパスタ・フィラータのチーズは、作る途中で、乳酸菌の働きでチーズのもとを酸っぱくします。pH5.0〜5.3前後まで酸性になると、カルシウムの一部が溶け出してカゼインの網がゆるみ、熱いお湯の中で練ると、ちぎれずに伸びるようになります。こうして練って引き伸ばすうちに、カゼインが同じ向きにそろった長い繊維になります。
この繊維がそろっているので、溶かしたときにカゼインの繊維どうしがちぎれずにすべり合い、長い糸になります。チェダーのように練って伸ばさずに作るチーズは、網がこまかく詰まったままなので、溶けても糸を引かず、なめらかに広がります。本場のケサディーヤにオアハカチーズが欠かせないのは、この糸を引く食感のためです。
熱すぎても、冷めても糸は切れる
チーズがいちばんよく伸びるのは、溶けたチーズがだいたい55〜65℃のときです。それより冷めると網がかたくなって伸びなくなり、熱しすぎると網がくずれて縮み、脂が分離してしまいます。
手順5で強火ではなく中火にするのはこのためです。強火で一気に焼くと、トルティーヤが焦げるうえ、外側のチーズが熱くなりすぎて油が出ます。中火でときどき裏返しながら焼くと、トルティーヤが焼けるあいだに中のチーズがちょうどよく溶けます。焼けたらすぐに食べるのも、チーズが冷めて糸を引かなくなる前に食べるためです。
チーズの水分も伸びに関係します。水分はカゼインの繊維がすべるための潤滑油の役目をしていて、少なすぎると糸がかたく切れやすくなります。熟成が進んだチーズは、酵素でたんぱく質が分解されているため、溶けやすいかわりに糸が短くなります。代用にはパルメザンのような熟成チーズではなく、若いモッツァレラが向いています。
同じようにオアハカチーズを熱々に溶かして糸を引かせる、ケソ・フンディードの作り方も紹介しています。
家庭のオーブンで作るケソ・フンディードメキシコ北部のケソ・フンディードを、小さな鋳鉄スキレットと家庭のオーブンで。溶けるチーズに手作りの簡易チョリソをのせて焼き、小麦粉のトルティーヤに巻いて食べます。チーズが糸を引く仕組みや油が分離する理由を料理科学で解説します。
トルティーヤの香ばしさはメイラード反応
焼いたトルティーヤの香ばしい焼き色は、アミノ酸と糖が反応する「メイラード反応」によるものです。この反応は、食品の表面が140〜165℃くらいになると急速に進みます。焼いたトルティーヤのクラッカーのような香りも、この反応でできる香りの成分のひとつです。
メイラード反応が進むには、表面の水分が飛んで、温度が100℃を超えて上がる必要があります。手順5で油をひかずにスキレットを温めるのは、乾いた熱い鉄にトルティーヤを直接当てて、表面をしっかり熱くするためです。手順3でキノコの汁けを飛ばすのも、具の水分でトルティーヤが蒸されて焼き色がつかなくなるのを防ぐためです。
鋳鉄のスキレットは厚くて重いので熱をたくさんためこみ、冷たいトルティーヤをのせても温度が下がりにくくなります。本場のコマルも同じで、厚い鉄板や素焼きの板が熱を安定させています。
冷たいトルティーヤが割れるのは、でんぷんがかたくなるから
冷蔵庫から出したばかりのコーントルティーヤを折ると、ひびが入って割れてしまいます。トルティーヤの主な成分はでんぷんで、時間がたつとでんぷんの分子が並び直して結晶のようにかたまり、しなやかさがなくなります(でんぷんの老化)。パンが冷蔵庫で早くかたくなるのと同じ現象です。
パンは60℃くらいまで温めると、ある程度やわらかさが戻ります。トルティーヤも同じで、手順6で具をのせる前に一度温めてやわらかくしておくと、折っても割れにくくなります。
トルティーヤが割れる理由と温め直し方、ケサディーヤとほかのトルティーヤ料理の名前の違いは、こちらの記事で詳しく解説しています。
タコス、エンチラーダ、チラキレス…トルティーヤ料理の名前の見分け方タコス、エンチラーダ、トスターダ、フラウタ、チラキレス。メキシコのトルティーヤ料理の名前は、具ではなく、たたむ・ソースにくぐらせる・揚げる・割るという加工で決まります。名前の見分け方と、冷めたトルティーヤが割れる理由を料理科学で解説します。
本場との違い
- チーズ:本場はオアハカチーズ(ケシージョ)を使います。日本では手に入りにくいので、同じパスタ・フィラータの仲間のモッツァレラで代用できます。オアハカチーズは若いモントレージャックに似た、やさしい乳の味です。モッツァレラはそれより淡白で、フレッシュタイプは水分が多く、糸が短めになります。
- エパソーテ:本場では生の葉を使います。日本では生の葉はほとんど手に入らないので、乾燥のものを使います。乾燥しても独特の香りは残ります。手に入らなければ、シラントロ(パクチー)で代用できますが、香りはまったく別のものです。
- トルティーヤ:本場では、トウモロコシを石灰水で煮て挽いた生地「マサ」から、その場でトルティーヤを焼きます。日本では市販のコーントルティーヤを使います。
- 唐辛子:本場のキノコのケサディーヤには、ハラペーニョより細くて辛いセラーノという青唐辛子もよく使われます。日本では手に入りにくいので、ハラペーニョを使っています。
- コマル:本場の鉄板の代わりに、同じように熱をためこむ鋳鉄のスキレットで焼きます。
マサから焼くコーントルティーヤの作り方と、トウモロコシを石灰水で煮るニシュタマルの仕組みも紹介しています。
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食べ方
メキシコでは、焼きたてのケサディーヤを開いて、好きなサルサをかけて食べます。辛いサルサ・ロハ、さわやかなサルサ・ベルデ、ワカモレなど、何種類か用意して食卓で選ぶのが楽しい食べ方です。
メキシコシティ風に、作り方Bのキノコをチーズなしではさんで焼くと、首都の屋台で頼む「チーズの入らないケサディーヤ」になります。チーズがないぶんキノコとエパソーテの香りがはっきりして、サルサがよく合います。
ケサディーヤに添えるサルサとワカモレの作り方も紹介しています。
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保存
- 焼いたケサディーヤは、焼きたてがいちばんおいしく、時間がたつとチーズがかたまりトルティーヤもかたくなります。残ったものは冷蔵で翌日までに食べ、油をひかないスキレットで中火で両面を温め直してください。
- 作り方Bのキノコの具:冷蔵で2日程度
- コーントルティーヤ:開封後は乾かないように袋の口を閉じて冷蔵し、袋の表示の期限内に使います。冷凍もできます。
もっと知りたい人へ
チーズが溶けて伸びる仕組みや、メイラード反応、でんぷんの老化など、食材の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
メキシコ各地のケサディーヤやサルサを、本場の作り方で知りたい人には、リック・ベイレスの本もおすすめです。
Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)
出典
- Wikipedia「Quesadilla」
- Uno TV「¿Las quesadillas deben de llevar queso o no?」
- Chilango「Quesadillas sin queso: las pruebas」
- Wikipedia「Oaxaca cheese」
- Wikipedia「Dysphania ambrosioides」
- Wikipedia「Huitlacoche」
- Food Network「Cheese and Mushroom Quesadillas (Quesadillas de Queso y Hongos)」Rick Bayless
- Cheese Scientist「Why Mozzarella Is So Stretchy」
- Food Technology and Biotechnology「Mozzarella Cheese Stretching: A Review」
- Wikipedia「Maillard reaction」
- Masienda「Nixtamal Guide」
- Cereal Chemistry「Starch Characterization of Nixtamalized Corn Flour」Gomez, Waniska, Rooney(1991)
- Wikipedia「Staling」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。