
本場チラキレスのレシピ
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チラキレスは、三角に切って揚げたコーントルティーヤを赤や緑のサルサで煮て、クレマ(メキシコの発酵クリーム)と白いチーズ、玉ねぎをのせたメキシコの朝ごはんです。半熟の目玉焼きをのせ、黄身をサルサにからめて食べるのが定番です。縁はまだカリッと、中はサルサを吸ってしんなりした食感が魅力です。
もとは、古くなって硬くなったトルティーヤを無駄にしないための家庭料理です。揚げたトルティーヤがサルサを吸う時間を見極めれば、市販のトルティーヤとスキレットひとつで、本場の食感に仕上がります。
本場のチラキレスとは
チラキレス(chilaquiles)は、揚げたトルティーヤをサルサで煮た料理です。三角に切って揚げたトルティーヤは「トトポ」と呼ばれ、チップスとして食べるトトポを辛いサルサで煮たものがチラキレスです。
赤いサルサで作るものを「チラキレス・ロホス(赤)」、トマティーヨという酸っぱい緑の実のサルサで作るものを「チラキレス・ベルデス(緑)」と呼びます。1皿に赤と緑を半分ずつ盛る「チラキレス・ディボルシアドス(離婚したチラキレス)」もあります。仕上げにはクレマ、くずした白いチーズ、薄切りの玉ねぎをのせ、リフライドビーンズや卵、ワカモレを添えます。
名前の由来
チラキレスという名前は、メキシコ中央部の先住民の言葉、ナワトル語から来ていると考えられています。由来には2つの説があります。
- 「チレに浸したもの」説:ナワトル語の研究者アンヘル・マリア・ガリバイの説です。「チリ(chīlli=唐辛子)」と、食べ物を浸したり沈めたりすることを表す言葉を合わせたもので、トトポを「チレ(唐辛子)に浸したもの」という意味になります。
- 「唐辛子の汁と草」説:「チラトル(chīlātl=唐辛子の汁)」と「キリトル(quilitl=食べられる草)」を合わせた言葉とする説です。
スペイン語版のウィキペディアでは、ガリバイの説のほうが支持されているとしています。
19世紀のレシピ本にも登場
文字に残る最も古い記録は、1821年のレシピ本『アルテ・ヌエボ・デ・コシーナ・イ・レポステリア(料理と菓子の新しい技法)』です。1831年の『エル・コシネロ・メヒカノ(メキシコの料理人)』には4種類のレシピがのり、白いチラキレス、赤いチラキレス、ハリスコ州グアダラハラ風のチラキレスが紹介されています。この本は、チラキレスを修道院の台所で生まれた料理としていますが、本当の起源ははっきりしていません。
朝ごはんの定番と地域の違い
チラキレスは朝ごはんや、朝と昼の間にとる軽い食事「アルムエルソ」の定番です。2020年の調査では、メキシコの人々にいちばん人気の朝ごはんだったといいます。二日酔いの朝に食べるとよいともいわれます。
食感は地域で違います。メキシコ中央部では、食べる直前にサルサを合わせ、トトポのカリッとした食感を残します。グアダラハラでは、土鍋でサルサと煮込み続け、ポレンタのようにもったりとやわらかいチラキレスにします。メキシコシティには、チラキレスをパンにはさんだ屋台の「トルタ・デ・チラキレス」もあります。
チラキレスのレシピ:材料(2人分・直径26cmのスキレット1つ分)
トトポ(揚げたトルティーヤ)
市販のトルティーヤチップスで作ることもできます。その場合は、厚めでしっかりしたチップスを約120g用意します(Amazon|楽天)。
サルサ・ロハ(チラキレス用の赤いサルサ)
チレ・グアヒージョは、メキシコでよく使われる赤い乾燥唐辛子です。辛さはおだやかで、サルサを赤く色づけます。辛さは、アルボルの本数で調整します。
のせるもの
クレマは、サワークリームより脂肪がやや多く、ゆるくて流れるくらいのやわらかさで、酸味がおだやかなクリームです。日本では手に入りにくいので、サワークリームを牛乳でゆるめて代わりにします。生クリームを少し混ぜると、さらにクレマに近づきます。
ケソ・フレスコは、メキシコの白いフレッシュチーズです。塩けがおだやかで、温めても溶けずにやわらかくなるだけです。日本では手に入りにくいので、くずして使えるフェタチーズで代わりにします。フェタは塩けが強いので、少なめにのせてください。塩けを抑えたいときは、粒の残ったカッテージチーズでもかまいません。
サルサ・ベルデで作る場合(チラキレス・ベルデス)
道具
- 鋳鉄のスキレット(直径26cm前後):トトポを揚げ、サルサと合わせてそのまま食卓に出します。鋳鉄は冷めにくいので、最後までサルサが温かいまま食べられます(Amazon|楽天)
- 揚げ物用温度計:浅い油は温度が上がりやすく、下がりやすいので、温度を測りながら揚げます(Amazon|楽天)
- 鍋(直径18〜20cm):サルサを煮詰めます
- ミキサー(Amazon|楽天)
- 網、またはキッチンペーパーを敷いたバット
- 小さめのフライパン(目玉焼き用)
作り方
トルティーヤを乾かす
冷凍のトルティーヤは解凍する。1枚を6等分の三角に切り、網やざるに重ならないように広げる。ラップをせずに室温で2〜3時間、できれば一晩おいて、表面を乾かす。前の日に残ったトルティーヤを使うのが本場のやり方です。
唐辛子を戻す
グアヒージョのへたと種を取り、平らに開く。鍋を中火で熱し、へらで押しつけながら片面5〜10秒ずつ、香りが立って色が少し変わるまで焼く。熱い湯をかぶるくらい注ぎ、皿をのせて沈め、20〜30分おいて戻す。
野菜を焼く
スキレットを中火で熱し、油をひかずにトマト、玉ねぎ、皮付きのにんにくを並べる。ときどき転がしながら、トマトの皮が黒く焦げてやわらかくなるまで15〜20分焼く。にんにくと玉ねぎは焦げ目がついたら先に取り出す。アルボルを使うときは、最後に弱火で20〜30秒だけ焼く。
ミキサーにかける
にんにくの皮をむく。戻したグアヒージョの水けをきり、トマト(皮ごと)、玉ねぎ、にんにく、アルボル、塩小さじ1/2と一緒にミキサーでなめらかになるまで攪拌する。グアヒージョの皮が気になるときは、こし器でこす。
サルサを煮詰める
鍋にサラダ油大さじ1を中火で熱し、サルサを1滴落としてジュッと音がしたら、全部を一度に入れる。はねるので注意する。混ぜながら5〜8分、色が濃くなり、ぽってりするまで煮詰める。鶏のスープを加えて2〜3分煮て、塩で味を調える。全部で約500mlになる。
のせるものを準備する
サワークリームと牛乳を混ぜてクレマの代わりを作る。玉ねぎを薄切りにし、フェタをくずし、シラントロを刻む。チラキレスは仕上げたらすぐに食べるので、全部を手元にそろえておく。
トトポを揚げる
スキレットを洗って水けをふき、揚げ油を深さ1〜1.5cm入れて175〜185℃に熱する。トルティーヤを重ならないように半量ずつ入れ、ときどき返しながら2〜3分、泡がほとんど出なくなり、カリッとするまで揚げる。網かキッチンペーパーの上にすぐに取り出して油をきる。
目玉焼きを焼く
小さめのフライパンにサラダ油小さじ2を中火で熱し、卵を割り入れる。白身の縁がカリッとして、黄身が半熟のうちに火を止める(2〜3分)。
サルサとトトポを合わせる
スキレットの油を耐熱の容器に移し、スキレットにサルサを入れて中火にかける。全体がぐつぐつと煮立ったら、トトポを加えてへらで手早く返し、全体にサルサをからめる。火を止めて1〜3分おき、好みのやわらかさにする。
盛りつける
クレマをかけ、フェタ、玉ねぎ、シラントロを散らし、目玉焼きをのせる。好みでアボカドを添える。スキレットごと食卓に出し、すぐに食べる。
トマティーヨ、ハラペーニョ、玉ねぎ、にんにく、シラントロ、塩をミキサーにかけ、少し粒が残る程度まで攪拌します。鍋にサラダ油大さじ1を中火で熱し、ソースを入れて5分ほど混ぜながら煮詰め、鶏のスープを加えて2〜3分煮ます。あとは手順6〜10と同じです。目玉焼きの代わりに、ゆでて裂いた鶏肉をのせることもあります。
料理科学:カリッとしんなりを両立させる
少し乾いたトルティーヤのほうがカリッと揚がる
手順1でトルティーヤを乾かすのは、トトポが油を吸いすぎないようにするためです。トルティーヤを熱い油に入れると、中の水分が水蒸気になって外に抜けていきます。揚げ物の油は、水が抜けたあとにできたすき間に入り込むと考えられています。もともと水分の多いトルティーヤほど、抜ける水が多く、そのぶん油が入るすき間も多くなります。
トルティーヤチップスの研究でも、揚げる前の水分が多いほど、揚げ上がりの油の量が多くなりました。別の研究では、揚げる前に天日で乾かしたチップスは、乾かさなかったチップスより油の量がはっきり少なくなりました。乾かした生地は揚げる前には締まっていて、揚げると大きく膨らみました。料理家リック・ベイレスも、湿ったトルティーヤは油をたくさん吸うので、揚げる前に広げて乾かすように勧めています。古くなったトルティーヤでチラキレスを作る本場のやり方は、理にかなっているのです。
揚げている間の泡は、トルティーヤから抜け出す水蒸気です。泡がほとんど出なくなったら、水分が抜けてカリッとした合図です。また、チップスの研究では、揚げている間に吸う油は最終的な油の2割ほどで、油から引き上げて冷める間にも多くの油が入りました。手順7で、揚げたらすぐに網やキッチンペーパーの上に取り出すのはこのためです。

トトポがサルサを吸ってしんなりするまで
揚げたトトポがカリッとしているのは、水分がほとんどなくなり、でんぷんがガラスのように硬くもろい状態になっているからです。ここに水が入り込むと、水がでんぷんの分子のすき間に入って動きやすくし、ガラスのような状態からやわらかいゴムのような状態に変えます。食品の研究でも、水分が増えるにつれて、ある点を境にカリッとした食感が急に失われることが確かめられています。
チラキレスは、この変化を料理に使っています。熱いサルサの中では、トトポはどんどん水分を吸います。ベイレスのレシピでは、煮立ったサルサにトトポを入れて火を止め、1分半〜4分で好みのやわらかさにしています。厚いトトポほど芯まで水が届くのに時間がかかるので、しんなりするのがゆっくりです。薄い高級なチップスは煮るとすぐに崩れるので、チラキレスには安くて厚めのチップスのほうが向いているといわれます。
カリッと感を残すタイミング
チラキレスの食感は、トトポをサルサに入れてからの時間で決まります。手順9でサルサをしっかり煮立たせてからトトポを入れるのは、短い時間で表面全体にサルサを行きわたらせるためです。
- カリッと残すなら:サルサをからめたら1分ほどで盛りつけます。メキシコ中央部の食べ方で、チップスにサルサをつけて食べる感覚に近くなります。
- 縁はカリッと、中はしんなり:火を止めて2〜3分おきます。重なった内側のトトポから先にしんなりし、上や縁のトトポにはカリッとした部分が残ります。
- とろりとなじませるなら:弱火でさらに数分煮ます。グアダラハラ風や、メキシコシティの屋台のトルタ・デ・チラキレスに近い、やわらかくまとまった食感になります。
盛りつけたあとも、トトポはサルサを吸い続けます。チラキレスを作りおきせず、仕上げたらすぐに食べるのはこのためです。ベイレスは、トトポが少しやわらかくなったところで溶けるチーズを混ぜる作り方も紹介しています。チーズがトトポを覆うので、しんなりするのが遅くなります。
本場との違い
- トルティーヤ:本場では、トルティーヤ屋さんで買って前の日に残ったトルティーヤを使います。日本では冷凍の市販品を解凍し、切って乾かすことで、古いトルティーヤと同じ状態を作ります。
- クレマ:日本ではメキシコのクレマが手に入りにくいので、サワークリームを牛乳でゆるめて代わりにしています。サワークリームはクレマより酸味が強く、かためです。
- ケソ・フレスコ:フェタチーズで代わりにしています。フェタのほうが塩けが強く、ケソ・フレスコはもっとおだやかな味のチーズです。
- ハーブ:本場では、サルサにエパソーテというメキシコのハーブを入れることもあります。日本では手に入りにくいので、シラントロ(パクチー)を使っています。
食べ方
いちばんのおすすめは、半熟の目玉焼きをくずし、黄身とクレマをサルサにからめながら、カリッとした縁としんなりした中を一緒に食べる食べ方です。
- リフライドビーンズを添えて:メキシコでは、チラキレスに豆を添えるのが定番です(Amazon|楽天)。
- 鶏肉をのせて:ゆでて裂いた鶏肉をサルサに混ぜたり、のせたりすると、しっかりした食事になります。
- ディボルシアドス:赤と緑のサルサを両方作り、1皿に半分ずつ盛れば、2つの味を食べ比べられます。
チラキレスに使えるサルサ・ロハとサルサ・ベルデの作り方も紹介しています。サルサ・ロハの記事の作り方で作り、グアヒージョを加えずに作ってもおいしいチラキレスになります。
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保存
- サルサ:清潔な保存容器に入れて冷蔵で4〜5日程度。小分けにして冷凍すれば1か月程度
- トトポ:冷めてから密閉容器や保存袋に入れて、常温で2〜3日程度
- 仕上げたチラキレス:時間がたつとトトポがやわらかくなりすぎるので、作りおきはせず、すぐに食べきるのがおすすめ。残ったときは冷蔵で翌日までに食べ、グアダラハラ風のやわらかいチラキレスとして温め直します
もっと知りたい人へ
揚げ物が油を吸う仕組みや、でんぷんが水で変わる仕組みを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
メキシコの家庭料理とサルサを本場の作り方で知りたい人には、リック・ベイレスの本もおすすめです。
Rick Bayless's Mexican Kitchen(Amazon)
出典
- Wikipedia「Chilaquiles」
- Wikipedia(スペイン語)「Chilaquiles」
- TV Azteca「Por qué los chilaquiles tienen ese nombre; el origen es más curioso de lo que crees」
- Rick Bayless「Chilaquiles Master Recipe」
- Tasting Table「This Simple Trick Will Prevent Soggy Chilaquiles」
- Tasting Table「Mexican Crema Vs Sour Cream: What's The Difference?」
- Wikipedia「Queso blanco」
- Moreira ほか「Factors affecting oil uptake in tortilla chips in deep-fat frying」Journal of Food Engineering 31巻(1997年)
- Lujan-Acosta、Moreira「Effects of Different Drying Processes on Oil Absorption and Microstructure of Tortilla Chips」Cereal Chemistry 74巻(1997年)
- Dana、Saguy「Review: Mechanism of oil uptake during deep-fat frying and the surfactant effect-theory and myth」Advances in Colloid and Interface Science(2006年)
- Castro-Prada ほか「Relationship between water activity, deformation speed, and crispness characterization」Journal of Texture Studies 40巻(2009年)
- BAKERpedia「Glass Transition」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。