器に盛った、角切りの牛肉が入った赤く濃いチリコンカンに、刻んだ玉ねぎとチェダーチーズをのせたもの。右にソルティンクラッカーとくし形のライム
テックスメックスとBBQ

家庭のオーブンで作るテキサス式チリコンカン

地域
アメリカ(テキサス州)
分量
4〜6人分
公開

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日本でチリコンカンというと、ひき肉と豆をトマトで煮込んだ料理を思い浮かべる人が多いと思います。ところが本場テキサスのチリコンカンには、豆が入っていません。角切りの牛肉を、乾燥唐辛子のソースでじっくり煮込んだ、赤くて濃厚な煮込み料理です。

テキサスではこの料理を「ボウル・オブ・レッド(赤い一杯)」と呼び、州の公式料理にも定めています。乾燥唐辛子さえ手に入れば、家庭のオーブンとダッチオーブンで本場の味が作れます。

本場のチリコンカンとは

チリコンカン(chili con carne)は、スペイン語で「肉入りの唐辛子」という意味です。アメリカでは略して「チリ」と呼ばれます。

サンアントニオの「チリ・クイーン」

チリの始まりは、テキサス州サンアントニオだとされています。19世紀の終わりごろ、サンアントニオの広場には夜になると屋台が並び、メキシコ系の女性たちが安くておいしい唐辛子の牛肉煮込みを売っていました。彼女たちは「チリ・クイーン」と呼ばれ、その名物料理が全米に知られるようになりました。

1894年には、テキサス州ニューブラウンフェルズの酒場の主人ウィリアム・ゲブハートが、メキシコから取り寄せたアンチョという乾燥唐辛子をひいて、世界で初めての市販のチリパウダーを作りました。チリパウダーのおかげで、家庭でも手軽にチリが作れるようになります。

1966年には、テキサスの作家フランク・X・トルバートがチリの歴史を書いた本『A Bowl of Red』を出版し、翌1967年にはテキサス州西部の町テルリングアで、最初のチリの料理コンテスト(チリ・クックオフ)が開かれました。チリ・クックオフは今もアメリカ各地で開かれています。1977年、チリコンカンはテキサス州の公式料理に定められました。

豆を入れるか入れないか

テキサスでは、「チリに豆を入れるべきか」がよく議論になります。初期のチリには豆が入っていなかったとされ、チリ・クックオフを主催する団体の一つは、公式の競技で豆を使うことを禁止しています。

一方、アメリカのほかの地域では豆入りのチリも一般的で、缶詰のチリにも豆入りが多くあります。日本で広まったのは、この豆入りでひき肉を使うタイプです。今回は、豆を入れないテキサス式で作ります。

チリコンカンのレシピ:材料(4〜6人分)

肉

  • 牛肩ロース(ブロック)(Amazon|楽天)1kg
  • 塩10g(肉の重さの1%)
  • ラード(またはサラダ油)(Amazon|楽天)大さじ2(26g)

チリソース

  • アンチョ(乾燥唐辛子)(Amazon|楽天)3本(約30g)
  • グアヒージョ(乾燥唐辛子)(Amazon|楽天)4本(約20g)
  • チレ・デ・アルボル(乾燥唐辛子、辛くしたい場合)(Amazon|楽天)1〜2本
  • 熱湯500ml
  • 玉ねぎ(みじん切り)1個(200g)
  • にんにく(みじん切り)4片(20g)
  • クミンパウダー(Amazon|楽天)小さじ2(4g)
  • オレガノ(乾燥)(Amazon|楽天)小さじ1(1g)
  • 牛のスープ(ブイヨンを溶かしたものでよい)500ml
  • マサ・ハリナ(トウモロコシの粉)(Amazon|楽天)大さじ2(15g)
  • りんご酢(または米酢)小さじ2(10ml)

アンチョは、完熟したポブラノという唐辛子を乾燥させたもので、辛さはおだやかで、干しぶどうのような甘い香りがあります。グアヒージョは、すっきりした酸味と鮮やかな赤い色が特徴の乾燥唐辛子です。この2つがチリの味と色の土台になります。

マサ・ハリナは、アルカリ処理したトウモロコシを粉にしたもので、トルティーヤの材料です。仕上げに加えてとろみをつけ、トウモロコシの香りを足します。

牛肩ロースは、アメリカで「チャック」と呼ばれる部位にあたります。筋と脂がほどよく入っていて、長く煮込むと柔らかくなります。

道具

  • 鋳鉄のダッチオーブン(ふた付き・オーブンに入れられる鍋)(Amazon|楽天)
  • フライパン(唐辛子を焼く用)
  • ミキサーまたはハンディブレンダー(Amazon|楽天)

作り方

  1. 肉に塩をする

    牛肉を2cm角に切り、塩10gをまぶして冷蔵庫で1時間〜一晩おく。

  2. 唐辛子を焼く

    唐辛子のへたと種を取り除き、平らに開く。何もひかないフライパンを中火で熱し、唐辛子を押しつけるようにして片面10〜15秒ずつ焼く。香りが立ち、少しふくらんで色が濃くなれば焼き上がり。黒く焦がさないように注意する。

  3. 唐辛子を戻す

    焼いた唐辛子をボウルに入れ、熱湯500mlを注いで皿などで押さえ、20〜30分おいて柔らかく戻す。

  4. オーブンを予熱する

    オーブンを150℃に予熱する。

  5. 肉を焼く

    ダッチオーブンにラード大さじ1を中火〜強火で熱し、牛肉の水けをふいて半量を入れる。あまり動かさずに、全面に濃い焼き色がつくまで5〜6分焼いて取り出す。残りの肉も同じように焼く。

  6. 玉ねぎを炒める

    残りのラードを足して中火にし、玉ねぎを5分ほど炒める。にんにく、クミン、オレガノを加えて1分炒める。

  7. ソースを作る

    戻した唐辛子を戻し汁ごとミキサーにかけ、なめらかにする。

  8. 煮込む

    ダッチオーブンに唐辛子のソースと牛のスープを加え、鍋底の焼きついた部分をこそげ落とす。肉を戻し入れて煮立ったらふたをし、オーブンで2時間半〜3時間、肉が柔らかくなるまで煮込む。

  9. とろみをつける

    マサ・ハリナを水大さじ4(60ml)で溶き、鍋に加えて混ぜる。コンロの弱火で5〜10分、とろみがつくまで煮る。りんご酢を加え、塩で味を調える。

料理科学:唐辛子の香りと色、煮込みのとろみ

乾燥唐辛子は焼くと香りが立つ

手順2で唐辛子を軽く焼くのは、香りを引き出すためです。乾燥唐辛子に含まれる糖とアミノ酸が熱で反応して、香ばしい香りの成分ができます。パンの焼き色や焼いた肉の香りと同じ「メイラード反応」です。

ただし、乾燥唐辛子は水分がほとんどないので、すぐに温度が上がって焦げてしまいます。焦げると強い苦みが出て、チリ全体が苦くなります。片面10〜15秒ほどで、香りが立ったらすぐに取り出してください。

赤い色は脂に溶ける

チリを煮込むと、表面に赤い脂が浮きます。これは唐辛子の赤い色素が脂に溶け出したものです。

唐辛子の赤い色は、主に「カプサンチン」というカロテノイドの一種によるものです。カロテノイドは、にんじんのオレンジ色と同じ仲間の色素で、水には溶けにくく、脂によく溶けます。辛味成分のカプサイシンも同じように脂に溶けやすい性質を持っています。肉を焼いたラードや牛肉の脂が、唐辛子の色と辛さ、香りを全体に行き渡らせる役目をしています。

肉は先に焼くが、肉汁は閉じ込められない

手順5で肉に焼き色をつけるのは、香ばしい香りを足すためです。「焼き付けると肉汁が閉じ込められる」とよく言われますが、実際には焼き付けても肉汁は外に出ていきます。焼き色をつける目的は、メイラード反応による香りと、鍋底に焼きつく旨みです。手順8で鍋底をこそげ落とすのは、その旨みをソースに溶かし込むためです。

肉を一度にたくさん入れると、肉から出た水分で鍋の温度が下がり、焼けずに煮えてしまいます。半量ずつ焼くのはこのためです。

アンチョやグアヒージョなど乾燥唐辛子の名前と色の仕組み、焼き色と香りが生まれるメイラード反応は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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角切りの牛肉が柔らかくなる仕組み

牛肩ロースのような筋の多い肉は、そのままでは硬い部位です。筋の主成分はコラーゲンというたんぱく質で、70〜80℃あたりから時間をかけてゼラチンに変わり、柔らかくなります。

150℃のオーブンでふたをして煮込むと、鍋の中は沸騰するかしないかの温度に保たれます。コンロの直火と違って鍋全体がまわりから均一に温まるので、底が焦げつかず、混ぜなくても肉がむらなく柔らかくなります。溶け出したゼラチンは、ソースに自然なとろみとコクも加えます。

コンロにのせた鋳鉄のダッチオーブンで煮えるチリコンカンと、横に置いた乾燥唐辛子

マサ・ハリナでとろみをつける理由

仕上げのとろみづけにマサ・ハリナを使うのは、テキサスのチリの伝統的な方法です。トウモロコシの粉に含まれるでんぷんが、水と一緒に加熱されると水を吸ってふくらみ、のり状になります。これを「でんぷんの糊化(こか)」と呼びます。小麦粉や片栗粉でもとろみはつきますが、マサ・ハリナはトルティーヤと同じトウモロコシの香りを加えてくれます。

牛肉が柔らかくなるコラーゲンのゼラチン化と、マサ・ハリナのもとになるニシュタマルは、こちらの記事で詳しく解説しています。

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本場との違い

  • 肉:テキサスでは牛肉を角切りにするか、チリ用の粗びき肉(チリ・グラインド)を使います。今回は日本で手に入りやすい牛肩ロースのブロックを角切りにしています。
  • 煮込み方:本場はコンロで長時間煮込むことも多いですが、家庭版はオーブンに入れて、焦げつきを防ぎながら手間なく煮込みます。

食べ方

テキサスでは、器に盛って刻んだ玉ねぎとチェダーチーズをのせ、塩味のクラッカー(ソルティンクラッカー)を砕きながら食べるのが定番です。ほかにも、こんな食べ方があります。

  • チリ・ドッグ:ホットドッグのソーセージにチリとチーズをかけます。
  • フリトパイ:袋入りのコーンチップスにチリとチーズ、玉ねぎをのせて食べる、テキサスやニューメキシコの軽食です。
  • ご飯:日本のカレーのように、ご飯にかけてもよく合います。

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保存

  • 冷蔵:保存容器に入れて4日程度。一晩おくと味がなじんでよりおいしくなります
  • 冷凍:小分けにして1か月程度

もっと知りたい人へ

唐辛子の色や辛さ、煮込み料理の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

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出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。