アルミホイルを敷いた天板の焼き網にのせた、骨付きもも肉のジャークチキン4本。皮に濃い茶色のマリネが焼きつき、ところどころに焦げ目がある。左下にライム
中南米・カリブ

家庭のオーブンで作るジャークチキン

地域
ジャマイカ
分量
4人分
公開

この記事はAmazonアソシエイト・楽天アフィリエイトのリンクを含みます。

ジャークチキンは、カリブ海の島国ジャマイカを代表する鶏料理です。激辛の唐辛子スコッチボネットに、オールスパイス、タイム、青ねぎを合わせたペーストに鶏を漬け込み、煙をまとわせながら焼き上げます。辛さと甘い香りと香ばしさが一度に押し寄せる味です。

本場ではピメントの木で燻しながら焼きますが、骨付きのもも肉を使えば、家庭のオーブンでもジューシーに焼けます。仕上げに温度を上げて、こんがりした焼き色をつけます。

本場のジャークチキンとは

ジャーク(jerk)は、ジャマイカで生まれた肉の味つけと焼き方を指す言葉です。スパイスの粉をすり込む「ドライ」と、ペースト状のマリネに漬ける「ウェット」があり、そのスパイスや、それで作ったたれ、焼き方そのものもジャークと呼ばれます。

語源は、南米ペルーの先住民の言葉に由来するスペイン語の「チャルキ(charqui=干し肉)」だと言われています。英語の「ジャーキー」も同じ言葉から来ています。

先住民とマルーンが育てた料理

ジャークの技法は、ジャマイカの先住民タイノ族の肉の保存法がもとになったと考えられています。1516年には、スペインの歴史家オビエドが、タイノ族が島の唐辛子とピメント(オールスパイス)で肉を味つけして保存していたことを書き残しています。

この技法を受け継いだのが「マルーン」と呼ばれる人々です。マルーンは、奴隷の身から逃れてジャマイカの山奥に隠れ住んだアフリカ系の人々です。1655年にイギリスがジャマイカに侵攻した際、スペイン人が奴隷にしていたアフリカの人々を解放し、その人々が山に逃れたのが始まりの一つとされています。マルーンは野生の豚を狩り、強いスパイスで味つけして保存しながら、山の中を移動して暮らしました。

隠れて暮らしていたころは、煙や匂いで居場所を知られないよう、地面に掘った穴で弱い火にかけて、6〜9時間かけて肉を焼いていたと伝えられています。

ピメントの木で燻す「ジャークピット」

ジャークの名所として知られるのが、ジャマイカ北東部ポートランド地方の海辺の村、ボストン・ベイです。1930年代に、マルーンから伝わったレシピでジャークポークを売る最初の店ができたとされ、今も「ジャークの都」と呼ばれています。

ボストン・ベイのジャークピットは、地面に掘った浅い穴に火を入れ、その上に細長い木の棒を数センチおきに渡して、マリネした肉を並べて焼きます。燃やす木はピメントがいちばんとされ、肉から落ちた脂が下の木に当たって出る煙が、肉に香りをつけます。ピメントは、オールスパイスの木のジャマイカでの呼び名です。ジャマイカでは昔から、この木で肉を燻してきました。

1960年代ごろからは、石油のドラム缶を縦に半分に切った炭火の「ジャークドラム」が広まりました。今では街角のジャーク屋台の多くがこのドラム缶グリルで鶏を焼いています。2015年には、ジャマイカ政府が「ジャマイカ・ジャーク」を地理的表示(地域の名前を守る制度)として登録しました。

ジャークチキンのレシピ:材料(4人分)

鶏肉

  • 骨付き鶏もも肉(皮つき)4本(約1.2kg)

ウェットジャークのマリネ

  • ハバネロ(生または冷凍)(Amazon)2本(辛さは1〜4本で調整)
  • 青ねぎ(万能ねぎなど)1束(100g)
  • 玉ねぎ1/4個(50g)
  • にんにく4片(20g)
  • しょうが1かけ(15g)
  • タイム(生)葉をしごいて大さじ1。乾燥なら小さじ2(2g)(Amazon|楽天)10本
  • オールスパイス(パウダー)(Amazon|楽天)大さじ1(6g)
  • 粗挽き黒こしょう(Amazon|楽天)小さじ1(2g)
  • ナツメグ(パウダー)(Amazon|楽天)小さじ1/2(1g)
  • シナモンパウダー(Amazon|楽天)小さじ1/2(1g)
  • ブラウンシュガー(Amazon|楽天)大さじ2(18g)
  • 醤油大さじ2(36g)
  • ライム汁大さじ2(30ml)
  • りんご酢(Amazon|楽天)大さじ1(15ml)
  • サラダ油大さじ3(36g)
  • 塩小さじ1と1/2(8g)

本場ではスコッチボネットという唐辛子を使います。日本ではほとんど手に入らないので、同じ種類(カプシカム・キネンセ)の仲間で、辛さもほぼ同じハバネロで代用します。

オールスパイスは、ジャマイカで「ピメント」と呼ばれる木の実を乾燥させたスパイスです。シナモンとナツメグとクローブを合わせたような香りがあり、英語の名前「オールスパイス(すべてのスパイス)」もそこから来ています。ジャークの味の柱になるので、省かないでください。

青ねぎは、本場のスキャリオン(細い葉ねぎ)の代わりです。

付け合わせ(好みで)

  • 食パン、ケチャップ

道具

  • ミキサーまたはフードプロセッサー
  • 使い捨てのゴム手袋:ハバネロを切るときに使います
  • 天板と焼き網:網にのせると下側も焼けて、脂が落ちます(Amazon|楽天)
  • 料理用温度計(肉に刺してすぐ測れるタイプ):骨の近くまで火が通ったかを温度で確かめます(Amazon|楽天)

作り方

  1. ハバネロの下ごしらえをする

    ゴム手袋をつけ、ハバネロのへたを取って縦半分に切る。辛さを抑えたいときは、内側の白いわたと種をスプーンでかき取る。切った包丁とまな板は、使い終わったら洗剤で洗う。

  2. マリネを作る

    青ねぎ、玉ねぎ、にんにく、しょうがをざく切りにする。マリネの材料をすべてミキサーに入れ、なめらかなペーストになるまで1〜2分回す。ミキサーのふたを開けるときは、顔を近づけない。

  3. 鶏に切り込みを入れる

    鶏もも肉の水けをふき、皮側と身側に、骨に届くくらいの深さで2〜3cm間隔に切り込みを入れる。

  4. 漬け込む

    鶏を厚手の保存袋に入れ、マリネを加えて、切り込みの中まですり込む。空気を抜いて口を閉じ、冷蔵庫で8〜24時間漬ける。

  5. オーブンを予熱する

    オーブンを200℃に予熱する。天板にアルミホイルを敷き、焼き網をのせる。

  6. 焼く

    鶏の余分なマリネを軽くぬぐい、皮を上にして網に並べる。200℃で35〜45分焼く。途中20分ほどたったら、ぬぐったマリネを皮に薄く塗る。

  7. 温度を確かめる

    骨に当たらないように、いちばん厚い部分に温度計を刺す。中心温度が75℃以上になっていればよい。足りなければ5分ずつ追加で焼く。

  8. 焼き色をつける

    オーブンを230〜250℃に上げ(グリル機能があればグリル)、皮に濃い焼き色と少し焦げ目がつくまで5〜10分焼く。焦げやすいので、最後は目を離さない。

  9. 休ませる

    取り出して5〜10分休ませる。

焼いている間は、換気扇を回しておいてください。

料理科学:辛さはなぜ油に移るのか

辛さの正体はカプサイシン

ハバネロの辛さのもとは、カプサイシンという成分です。カプサイシンは口の中を本当に熱くしているわけではありません。熱さを感じるセンサーを刺激して、脳に「熱い」と勘違いさせています。辛いものを食べると汗が出るのはこのためです。

まな板に並べた青ねぎ、ハバネロ、タイム、オールスパイスの粒、にんにく、しょうが、ライムと、ミキサーの中のマリネ

カプサイシンが多いのは、種そのものではなく、種がついている白いわた(胎座=たいざ)の部分です。種は自分ではカプサイシンを作らず、わたに接しているので辛くなっているだけです。手順1で辛さを抑えるときに、種だけでなく白いわたをかき取るのはこのためです。ハバネロの本数と、わたを残すかどうかの2つで、辛さを調整できます。

唐辛子の辛さが白いわたにある理由や、メキシコの唐辛子の名前は、こちらの記事で詳しく解説しています。

ハラペーニョがチポトレになる:生と乾燥で名前が変わるメキシコの唐辛子ハラペーニョはチポトレに、ポブラノはアンチョに。メキシコの唐辛子が生と乾燥で名前を変える理由と4つの組み合わせ、乾燥で色と香りが変わるメイラード反応、チポトレの煙の香りの正体、苦くしない焙煎と戻し方が分かります。

カプサイシンは水に溶けず、油に溶ける

カプサイシンは、水にほとんど溶けない成分です。そのかわり、油やアルコールにはよく溶けます。

マリネに油を大さじ3入れるのは、このためです。ミキサーでハバネロをすりつぶすと、カプサイシンが油に溶け出し、マリネ全体に均一に広がります。ハバネロのかけらが一部に固まって、そこだけ激辛になるのを防いでくれます。オールスパイスやタイムの香り成分にも油に溶けやすいものが多く、油がそれらを鶏の表面に運びます。

ハバネロを触った手を水で洗っても、ひりひりが取れにくいのも同じ理由です。カプサイシンは水では流れにくいので、手袋をつけ、道具は洗剤で洗います。目をこすると強い痛みが出るので注意してください。

また、カプサイシンは115℃ほどで固体から気体に変わる(昇華する)性質があるとされます。高温のオーブンやミキサーのふたを開けたときに目や喉にくることがあるので、顔を近づけず、換気をしておきましょう。

辛いときに水が効かない理由

ジャークチキンを食べて口の中が燃えるように辛くなったとき、水を飲んでも辛さはあまり引きません。カプサイシンは水に溶けないので、水では舌から洗い流せないからです。冷たい水は一瞬楽になりますが、飲み込むとまた辛さが戻ってきます。

効くのは牛乳やヨーグルトです。牛乳の脂肪がカプサイシンを溶かし込み、牛乳のたんぱく質のカゼインがカプサイシンとくっついて、舌のセンサーから引きはがしてくれます。ビールはアルコールを含みますが、ほとんどが水なので、辛さを消す力は小さいとされています。

マリネが効くのは表面だけ

マリネの味や香りが肉に入るのは、表面からせいぜい数ミリです。アメリカの料理研究機関の実験では、赤ワインに18時間漬けた牛肉でも、ワインが染み込んだのは1mmに満たなかったそうです。油に溶けるスパイスの香りも、肉の外側を味つけするだけです。

手順3で骨に届くほど切り込みを入れるのは、マリネが触れる表面を増やして、肉の奥まで辛さと香りを届けるためです。切り込みは焼いたときにも焼き色がつく面を増やしてくれます。

漬け込みは長ければよいわけではありません。マリネに入っているライム汁や酢などの酸は、長く漬けすぎると肉の表面をぼそぼそにします。一晩から1日ほどで十分です。

中心温度は75℃以上を確かめる

鶏肉は、中まで十分に火を通して食べる肉です。厚生労働省は、肉の中心部を75℃で1分以上加熱することを目安にしています。骨付き肉は骨のまわりに火が通りにくいので、見た目ではなく、温度計で確かめてください。

中心温度計の選び方と、骨に当てない正しい測り方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

中心温度計:塊肉を焼くときにいちばん大事な道具塊肉の火の通りを確かめる中心温度計の解説。オーブンの温度のずれや余熱で焼き時間が当てにならない理由、鶏肉・豚肉・牛肉・BBQの中心温度の目安、温度計の種類と選び方、正しい刺し方と氷水での校正が分かります。

本場との違い

  • 燻す煙:本場はピメントの木を燃やした穴の上で焼き、肉の脂が木に落ちて出る煙で香りをつけます。屋台ではドラム缶の炭火グリルで焼きます。家庭のオーブンでは煙の香りはつきませんが、マリネのオールスパイスが、ピメントの木と同じ木の実の香りを補ってくれます。
  • 焼き方:本場は炭火でじっくり焼き、ときどき裏返します。家庭版はオーブンで中まで火を通してから、最後に温度を上げて焼き色をつけます。
  • 唐辛子:本場はスコッチボネットです。ハバネロは同じ種類の仲間で辛さもほぼ同じですが、スコッチボネットのほうが平たく、果物のような甘い香りが強いとされています。
  • ねぎ:本場のスキャリオンの代わりに、日本の青ねぎを使っています。

食べ方

ジャマイカの屋台では、ジャークチキンをぶつ切りにして、白い食パンとケチャップを添えて出すことがよくあります。パンでマリネと肉汁をぬぐいながら食べてください。辛すぎたら、水ではなく牛乳やヨーグルトを用意しておくと安心です。

同じ中南米の鶏料理、ペルーのローストチキンの作り方も紹介しています。

家庭のオーブンで作るポジョ・ア・ラ・ブラサペルーの国民食ポジョ・ア・ラ・ブラサを、回転式の窯ではなく家庭のオーブンで。丸鶏を背中から開いて前日に塩をすり込み、220℃で焼きます。ドライ・ブラインで皮をパリッとさせる理由や、マリネが効く範囲を料理科学で解説します。

保存

  • 冷蔵:保存容器に入れて2日程度。食べるときはオーブンかトースターで温め直すと皮が香ばしく戻ります
  • 漬け込んだあと残ったマリネは、生の鶏肉に触れているので、焼かずに使い回さず捨ててください

もっと知りたい人へ

唐辛子の辛さやマリネの働きなど、食材の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

炭火や煙で肉を焼く科学を知りたい人には、BBQの科学の本もおすすめです。

Meathead: The Science of Great Barbecue and Grilling(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。