コーントルティーヤに刻んで焼いた牛肉、白玉ねぎ、シラントロをのせたタコス3つ。1つには緑のサルサ。手前に焼いた青ねぎとハラペーニョ、右上にライム
タコスとメキシコ料理

本場カルネ・アサーダのレシピ

地域
メキシコ北部(ソノラ州、ヌエボ・レオン州など)
分量
4人分
公開

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カルネ・アサーダは、メキシコ北部の焼き肉です。薄い牛肉を強火で焦げ目がつくまで焼き、まな板の上で細かく刻んで、温かいトルティーヤにのせます。刻んだ白玉ねぎとシラントロ(パクチー)、サルサをのせ、ライムを搾って食べるタコスは、北部のタケリア(タコス屋)の定番です。

本場では炭火で焼きますが、鋳鉄のスキレットを煙が出るまで熱すれば、家庭のコンロでも香ばしい焦げ目がつけられます。肉は、日本の焼肉でおなじみのハラミを使います。柑橘とにんにくで短くマリネし、強火で一気に焼いて、繊維を断つように刻むのがポイントです。

本場のカルネ・アサーダとは

カルネ・アサーダ(carne asada)は、スペイン語で「焼いた肉」という意味です。牛肉を焼いて切り分けた料理で、そのまま食べるほか、タコスやブリトーの具にします。焼いたあとに細かく刻むのは、肉の硬さを感じにくくするためです。

牧場の多いメキシコ北部で生まれた

カルネ・アサーダは、牧畜が盛んなメキシコ北部、とくにヌエボ・レオン州とソノラ州で始まったと考えられています。北部では、パーティーやお祝いの席でいちばんよく出される料理です。

ソノラ州の研究機関CIADの人類学者ギジェルモ・ヌニェス・ノリエガさんは、カルネ・アサーダの儀式は「それほど古い伝統ではない」と話しています。冷蔵庫がなかった時代、ソノラの牧場では、肉は干して保存するのが普通でした。牛をつぶした日だけ新鮮な肉を焼き、残りは干し肉や、干し肉をほぐした「マチャカ」にしていました。

1950年代から、ソノラの農村の人たちが州都エルモシージョなどの都市に移り住むようになります。同じころ、肉を売って焼くところまで引き受ける店が生まれ、カルネ・アサーダは故郷の暮らしを思い出させる料理になっていきました。今ではエルモシージョは「カルネ・アサーダの都」と呼ばれ、2023年には世界最大のカルネ・アサーダでギネス世界記録にも認定されています。

家族と友人が集まる「カルネ・アサーダ」

メキシコでは、「カルネ・アサーダ」は料理の名前であると同時に、肉を焼いて家族や親しい友人と集まる会の名前でもあります。アメリカのバーベキューのような集まりです。

ヌエボ・レオン州の州都モンテレイでは、炭に火をおこし、玉ねぎで網をこすってきれいにし、肉にライムと塩で味をつけるのが昔ながらのやり方です。ビールも欠かせず、「モンテレイでビールのないカルネ・アサーダはめったに見ない」といわれるほどです。

部位と味付け

肉は、北部で「アラチェラ」と呼ばれるハラミ(牛の横隔膜の筋肉。英語でスカートステーキ)や、「フラップ」「フランク」と呼ばれるおなか側の薄い部位がよく使われます。肩ロースのステーキ(ディエスミージョ)も使われます。

味付けは地域や家庭によって違います。ソノラ州では、州内に生える木「メスキート」の炭で焼き、味付けは塩だけで、マリネはしないのがいいとされています。一方で、肉屋ではライム汁や塩、スパイスでマリネした「プレパラーダ(味付け済み)」の肉と、味付けしていない肉の両方が売られています。この記事では、家庭で作りやすいように、ライムとオレンジ、にんにくで短くマリネするプレパラーダのスタイルで作ります。

一緒に焼く、北部の付け合わせ

カルネ・アサーダには、肉と一緒に網で焼く付け合わせが欠かせません。

  • セボジータス・アサーダス:葉付きの小さな玉ねぎ「セボジータ・カンブライ」を丸ごと焼いたもの。ライムを搾り、塩をふって食べます
  • チレス・トレアードス:青唐辛子(ふつうはセラーノ)を、皮がふくれて焦げるまで焼いたもの
  • サルサ:モンテレイでは、セラーノと赤玉ねぎ、焼いたトマトで作る「サルサ・ベルデ・タテマーダ(焼いた緑のサルサ)」がないとカルネ・アサーダとはいえない、といわれます
  • ワカモレ、ピコ・デ・ガヨ、煮豆:豆はベーコンや豚の皮と煮る「フリホーレス・チャロス」なども添えます

ソノラでは、小麦粉のトルティーヤと豆も一緒に出されます。小麦粉のトルティーヤは、ソノラ州やシナロア州、チワワ州など北部の州の主食です。

カルネ・アサーダのレシピ:材料(4人分)

肉とマリネ液

  • 牛ハラミ(ブロック、または厚さ1cmほどの厚切り)(Amazon|楽天)600g
  • ライム汁ライム約1.5個分大さじ3(45ml)
  • オレンジ汁オレンジ約1/2個分大さじ4(60ml)
  • にんにく(すりおろし)3片(15g)
  • サラダ油大さじ1(12g)
  • 塩小さじ1と1/2(9g)
  • 粗挽き黒こしょう(Amazon|楽天)小さじ1/2(1g)
  • サラダ油(焼く用)小さじ2(8g)

ハラミが手に入らないときは、牛肩ロースのステーキ用(厚さ1cmほど)でも作れます。厚い肉は、包丁で開いたり、ラップをかぶせてたたいたりして、厚さ1cmくらいにそろえます。

付け合わせ(焼くもの)

  • 葉玉ねぎ、または太めの青ねぎ(わけぎなど)8本(約200g)
  • ハラペーニョ(生、または冷凍)(Amazon|楽天)4〜8本
  • ライム1個(くし形切り)
  • 塩小さじ1/4(1.5g)

タコスにするもの

  • コーントルティーヤ(直径15cm前後)(Amazon|楽天)12〜16枚
  • 小麦粉のトルティーヤ(好みで。北部のスタイル)(Amazon|楽天)4〜8枚
  • 白玉ねぎ(みじん切り)1/2個(100g)
  • シラントロ(パクチー)(粗く刻む)1束(20〜30g)
  • ライム1〜2個(くし形切り)
  • サルサ・ベルデ、ワカモレ作り方は「食べ方」の節のリンクから各1カップ(約250g)

道具

  • 鋳鉄のスキレット(直径25cm前後):厚い鋳鉄は熱をためこむので、肉を入れても温度が下がりにくく、短時間で濃い焦げ目がつきます(Amazon|楽天)
  • トング
  • よく切れる包丁と大きめのまな板:焼いた肉を繊維を断つ向きに切り、細かく刻みます
  • 保存袋、またはバット:肉をマリネします

作り方

  1. 下ごしらえする

    ハラミの表面の白い膜と余分な脂を取る。長い帯の形のハラミは、長さ15cmくらいに切り分けておく。厚いところは包丁で開き、厚さを1cmくらいにそろえる。

  2. マリネする

    保存袋にマリネ液の材料をすべて入れて混ぜ、ハラミを加えてよくからめる。冷蔵庫で30分〜2時間おく。長く漬けすぎない。

  3. 付け合わせを焼く

    スキレットを中火〜強火で3〜4分熱し、薄く油(分量外)をひく。葉玉ねぎとハラペーニョを丸ごと並べ、ときどき転がしながら、ところどころ黒く焦げて、しんなりするまで5〜8分焼く。取り出して塩をふり、ライムを搾る。

  4. スキレットを熱する

    スキレットをキッチンペーパーでさっとふき、強火で4〜5分、うっすら煙が出るまで熱する。

  5. 肉の水けをふく

    マリネ液から肉を取り出し、キッチンペーパーで表面の汁けとにんにくをしっかりふき取る。表面に焼く用の油を薄く塗る。

  6. 強火で焼く

    スキレットに肉を並べる。重ならず、すき間があくくらいの量にし、入りきらないときは2回に分けて焼く。動かさずに2〜3分焼き、濃い焦げ目がついたら裏返して1〜2分焼く。焼き色が薄いときは、もう一度返して30秒〜1分ずつ焼く。2回目を焼く前に、スキレットを強火で1〜2分熱し直す。

  7. 休ませる

    肉をまな板に移し、3〜5分休ませる。その間にトルティーヤを温める(手順9)。

  8. 繊維を断って刻む

    肉の繊維の向きを確かめ、1切れを90度回して、繊維と直角に5mm幅に切る。さらに向きを変えて、1cm角くらいに刻む。まな板に出た肉汁は、刻んだ肉にからめる。

  9. トルティーヤを温める

    何ものせずに熱したスキレットで、トルティーヤを片面20〜30秒ずつ、ところどころ焼き色がつくまで温める。布巾で包んで冷めないようにする。

  10. タコスにする

    トルティーヤに刻んだ肉をのせ、白玉ねぎ、シラントロ、サルサをのせる。焼いた葉玉ねぎとハラペーニョ、ライムを添え、ライムを搾って食べる。

料理科学:薄い肉を強火で焼き、繊維を断って刻む

薄い肉は、中まで火が入る前に表面を焼く

カルネ・アサーダの香ばしさは、肉の表面の焦げ目から生まれます。焦げ目と香りは、肉のアミノ酸と糖が高温で反応する「メイラード反応」によるものです。メイラード反応は、およそ140℃を超えたあたりから速く進み、何百種類もの香りの成分を作ります。

ハラミのような薄い肉は、中心までの距離が短いので、すぐに中まで火が通ります。弱い火でゆっくり焼くと、表面に焦げ目がつく前に中まで火が入りすぎて、硬くなってしまいます。しかも焦げ目がないので、焼いたというより煮たような、灰色の見た目になります。だから薄い肉は、とにかく強い火で短時間に焼きます。表面だけを一気に高温にし、中に火が入りすぎる前に焦げ目をつけるためです。

煙が立つ鋳鉄のスキレットで焼いているハラミ2枚。右の1枚は返したところで、濃い焼き色がついている

水けをふき、スキレットを冷まさない

肉の表面がぬれていると、熱は水を蒸発させるのに使われます。水が残っているあいだ、表面の温度は水の沸点の100℃あたりで止まり、メイラード反応はほとんど進みません。手順5でマリネ液をしっかりふき取るのはこのためです。

もうひとつの敵は、スキレットの温度が下がることです。冷たい肉をのせると、肉に熱を奪われて、焼く面の温度はすぐに下がります。一度にたくさんの肉を入れると、温度が下がったまま肉から出た水分がたまり、肉は「焼ける」のではなく「煮える」状態になります。手順4でスキレットを煙が出るまで熱し、手順6で肉を少しずつ焼くのは、焼く面の温度を高く保つためです。

なお、「強火で焼き付けると肉汁が閉じ込められる」という話は、正しくありません。焼き付けるのは、焦げ目の香りとうま味をつけるためです。焦げ目の正体のメイラード反応については、こちらの記事で詳しく解説しています。

メイラード反応とカラメル化:焼き色と香りの正体焼いた肉や玉ねぎが茶色く香ばしくなる理由を、メイラード反応とカラメル化の違いから解説します。焼き色は表面が乾いてからつく仕組み、焦げとの境目、焼き付けで肉汁は閉じ込められない理由、BBQのバークの正体が分かります。

柑橘のマリネが効くのは表面だけ

ライムやオレンジのマリネで肉が柔らかくなる、とよくいわれますが、マリネ液が肉にしみ込むのは、何時間漬けても表面から3mmほどまでです。酸は表面のたんぱく質を変化させるだけで、中まで柔らかくすることはできません。それどころか、長く漬けすぎると、表面がぼそぼそになってしまいます。

にんにくの香りの成分も、大きな分子なので、ほとんど表面にとどまります。マリネの役目は、表面に味と香りをつけることです。そのため、マリネは表面の割合が大きい薄い肉ほど効果があります。カルネ・アサーダの薄いハラミなら、30分〜2時間で十分に香りがつきます。

繊維を断ち、さらに細かく刻む

ハラミは、太い筋肉の繊維が、帯の幅の方向に並んでいる部位です。繊維に沿って切ると、1切れの中に長い繊維が残り、かみ切れない食感になります。繊維と直角に切れば、繊維が短く断ち切られて、柔らかく食べられます。帯のままでは繊維を断つ向きに切りにくいので、手順1で15cmくらいに切り分けておき、焼いたあとに90度回して切ります。

カルネ・アサーダでは、そこからさらに細かく刻みます。繊維が短くなるので、硬さを感じにくくなり、トルティーヤの上でも食べやすくなります。刻むと断面が増えるので、まな板に出た肉汁やサルサもよくからみます。

本場との違い

  • 火:本場は炭火で焼き、ソノラ州ではメスキートの炭が好まれます。家庭版は鋳鉄のスキレットで焼くので、炭火の煙の香りはつきません。そのぶん、強火で濃い焦げ目をつけて香ばしさを出しています。
  • 味付け:ソノラ州では、塩だけで焼くのがいいとされています。この記事は、肉屋でも売られているマリネした「プレパラーダ」のスタイルです。塩だけで焼きたいときは、手順2を省き、焼く直前に塩(肉600gに小さじ1と1/2)と黒こしょうをふってください。
  • 肉:本場のアラチェラは、日本のハラミと同じ横隔膜の筋肉です。日本では、焼肉用の薄切りではなく、ブロックや厚切りを選びます。
  • 焼いた玉ねぎ:本場のセボジータ・カンブライは、根元が小さくふくらんだ葉付きの玉ねぎです。日本では春に出回る葉玉ねぎがいちばん近く、手に入らない季節は太めの青ねぎやわけぎで代わりにします。
  • 焼き唐辛子:本場のチレス・トレアードスは、ふつうセラーノで作ります。日本ではセラーノが手に入りにくいので、ハラペーニョで作っています。

食べ方

いちばんのおすすめは、温めたコーントルティーヤに刻んだ肉をのせ、白玉ねぎとシラントロ、サルサ・ベルデをのせるタコスです。焼いた葉玉ねぎとハラペーニョをかじりながら食べるのが北部流です。ソノラ風に、小麦粉のトルティーヤで包んでもおいしいです。

カルネ・アサーダとよく似た料理に、テキサスのファヒータがあります。どちらも同じハラミを使いますが、ファヒータは焼いた肉を細切りにし、炒めたピーマンや玉ねぎと一緒に熱い鉄板で出して、小麦粉のトルティーヤで巻くテックスメックス料理です。カルネ・アサーダは、肉を細かく刻み、玉ねぎとシラントロ、サルサだけでシンプルに食べます。

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保存

  • 冷蔵:刻んだ肉を保存容器に入れて2〜3日程度
  • 冷凍:刻んだ肉を保存袋に平らに入れて1か月程度。冷蔵庫で解凍する
  • 温め直し:強火で熱したスキレットで、手早く炒めるように温めると、肉が硬くなりにくく、焦げ目の香ばしさも戻ります

もっと知りたい人へ

肉を焼くときの焦げ目や、繊維と切り方の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

炭火やグリルで肉を焼く科学と、マリネの俗説については、こちらの本が詳しいです。

Meathead: The Science of Great Barbecue and Grilling(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。