
本場マルガリータのレシピ
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マルガリータは、テキーラにライムとオレンジリキュールを合わせた、メキシコ生まれのカクテルです。グラスの縁には粗塩をつけ、ひと口ごとに塩気とライムの酸味、オレンジの甘い香りが一緒に口に入ります。テキーラを使ったカクテルの中で、世界でいちばん有名な一杯です。
材料は3つだけですが、おいしく作るには理由のある手順がいくつかあります。グラスの縁の塩は苦味を抑え、シェイカーの中の氷は飲み物を冷やしながら、ちょうどよい量の水で割ります。ライムを搾りたてにするのにも、はっきりした理由があります。
本場のマルガリータとは
マルガリータ(margarita)は、テキーラ、オレンジリキュール、ライム果汁をシェイクして作るカクテルです。国際バーテンダー協会(IBA)の公式カクテルにも選ばれていて、テキーラ、オレンジリキュール、ライム果汁を10:4:3の割合で合わせるのが標準とされています。
飲み方は大きく3つあります。氷を入れたグラスに注ぐ「オン・ザ・ロック」、氷を入れずに脚付きのグラスに注ぐ「ストレート・アップ」、氷と一緒にミキサーにかける「フローズン」です。この記事で作るのは、背の低いロックグラスに氷を入れて注ぐ、オン・ザ・ロックのマルガリータです。
名前は「ひな菊」
「マルガリータ」は、スペイン語でひな菊(デイジー)のことです。カクテルの世界には「デイジー」と呼ばれる一族があり、ベースのお酒にリキュールと柑橘の果汁を合わせて作ります。カクテル史家のデビッド・ウォンドリッチは、マルガリータを、ブランデーで作る「ブランデー・デイジー」をテキーラで作り直したものだと考えています。
実際に、1936年のアメリカの新聞には、メキシコのティフアナにあった酒場が「名物テキーラ・デイジーの店」を名乗っていたという記事が残っています。1937年にロンドンで出版された『カフェ・ロイヤル・カクテルブック』には、「ピカドール」という名前で、テキーラ、オレンジリキュール(トリプルセック)、ライムをマルガリータとほぼ同じ割合で合わせたレシピが載っています。
誕生の店と人は諸説あり
誰がいつ作ったのかについては、たくさんの説があります。おもなものを挙げます。
- ロサリートの説:ティフアナとロサリートのあいだにあった店「ランチョ・ラ・グロリア」で、カルロス・"ダニー"・エレーラが、多くのお酒にアレルギーがあったのにテキーラだけは飲めたダンサーのマージョリー・キングのために作ったという説。時期は1938年とも、1947〜1948年ともいわれます。
- エンセナダの説:バハ・カリフォルニア州エンセナダの酒場「フソンズ・カンティーナ」が発祥の地を名乗っています。1941年に、バーテンダーのドン・カルロス・オロスコが、客のマルガリータ・ヘンケルにちなんで名づけたといわれます。
- シウダー・フアレスの説:1942年7月4日、チワワ州シウダー・フアレスの「トミーズ・プレイス」で、フランシスコ・"パンチョ"・モラレスが作ったという説。客に「マグノリア」というカクテルを頼まれて作った一杯に、ひな菊を意味する花の名前「マルガリータ」をつけたといいます。メキシコの通信社ノティメックスは、この説がもっとも有力だとしています。
- アカプルコの説:1948年、アメリカ・ダラスの社交界の女性マルガリータ・セイムズが、アカプルコの別荘でのパーティーで客に出したという説。
ほかにも、ロサンゼルスの店やテキサス州ガルベストンのバーが発祥だとする話もあり、どれが本当かは確かめられていません。テキーラで作るデイジーが、メキシコとアメリカの国境の街を行き来しながら、少しずつ今の形になったと考えるのが自然でしょう。
塩の縁
グラスの縁に塩をつける飲み方も古くからあります。1939年にニューヨークで出版されたカクテルブックには、塩をつけたグラスで出すテキーラとオレンジリキュールのサワーが載っています。1953年にアメリカの雑誌『エスクァイア』が紹介したマルガリータのレシピでも、グラスの縁をレモンかライムの皮でこすり、塩の上でくるりと回してつけるよう書かれています。IBAの公式レシピでは、塩は「縁の半分に、好みで」とされています。
テキーラとオレンジリキュール
テキーラは、ブルーアガベ(アガベ・テキラーナ)という植物から作るメキシコの蒸留酒です。アガベの株の芯(ピニャ)をオーブンでじっくり加熱して糖を引き出し、発酵させてから蒸留します。メキシコの規格(NOM)で、作れる場所はハリスコ州と、ほかの4つの州の決められた地域だけと定められています。
テキーラには、アガベだけで作る「アガベ100%」と、アガベを51%以上使い、残りをほかの糖で補う「ミクスト」があります。ラベルに「100% de agave」と書かれていないものはミクストです。熟成の長さでも呼び名が変わり、熟成させないか2か月未満のものが「ブランコ(シルバー)」、2か月以上1年未満が「レポサド」、1年以上が「アネホ」です。マルガリータには、アガベの青い香りがはっきりしたブランコがよく合います。
オレンジリキュールは、オレンジの皮で香りをつけた甘いお酒です。代表的なコアントローは、フランスで1875年に売り出されたリキュールで、甘いオレンジと苦いオレンジの皮を使い、アルコール度数は40%です。無色透明のオレンジリキュールは「トリプルセック」と呼ばれ、コアントローもその一つです。メキシコでは、コアントローと同じタイプの「コントロイ」というメキシコ版のリキュールも使われます。
マルガリータのレシピ:材料(1杯分)
マルガリータ
グラスの縁
分量はIBAの標準の割合です。酸っぱいほうが好きなら、ライム果汁を20〜25ml(大さじ1と1/3〜大さじ1と2/3)まで増やしてください。メキシコ料理の研究家リック・ベイレスは、ライム果汁、テキーラ、コアントローを大さじ3(45ml)ずつ同じ量で合わせる、昔ながらの作り方も紹介しています。こちらはテキーラの割合が少ないぶん、酸味と甘みが強く、やわらかい飲み口になります。
粗塩の粒が大きすぎるときは、すり鉢で軽くつぶして、2〜3mmくらいにしておくとグラスにつけやすくなります。
道具
- 背の低い厚手のグラス(ロックグラス。250〜300ml入るもの):冷凍庫で冷やしておきます
- カクテルシェーカー:ストレーナー(こし器)が付いた3つの部品のものが家庭では使いやすいです(Amazon|楽天)
- ライム搾り器(Amazon|楽天)
- 小皿(縁につける塩を広げる用)
作り方
グラスを冷やす
ロックグラスを冷凍庫に入れ、15〜30分冷やす。テキーラとコアントローも冷蔵庫で冷やしておくと、氷が溶けすぎない。
ライムを搾る
ライムを横半分に切り、搾り器で果汁を搾る。白いわたまで強く押しつぶさず、果汁が出なくなったところで止める。果汁は茶こしでこして種を取る。
縁に塩をつける
小皿に粗塩を平らに広げる。くし形のライムで、グラスの縁の外側を半周だけこすって湿らせる。グラスを横に寝かせて、縁の外側を塩の上で転がし、5mm〜1cmほどの幅でつける。内側には塩をつけない。
グラスに氷を入れる
縁の塩を落とさないように、グラスに新しい氷をいっぱいに入れる。
シェイクする
シェイカーにテキーラ、コアントロー、ライム果汁を入れ、氷を2/3くらいまで入れてふたをしっかり閉める。片手でふたを、もう片方の手で底を押さえ、12〜15秒強く振る。シェイカーの外側が白く霜をまとい、手が冷たくて持っていられないくらいになれば終わり。
注ぐ
ストレーナーでこしながら、グラスの氷の上に注ぐ。シェイカーの中の氷はグラスに入れない。すぐに飲む。
料理科学:塩、氷、温度、ライム
塩が苦味を抑え、甘みと酸味を引き立てる
塩は、料理の味を「引き立てる」とよく言われます。ところが味の研究では、塩を加えるとほかの味はむしろ弱まるか、変わらないという結果が多く出ていました。アメリカのモネル化学感覚研究所のブレスリンとボーシャンは、1997年に科学誌『Nature』で、この矛盾を説明する研究を発表しています。塩は、苦味のような不快な味を、甘みのような好ましい味よりも強く抑えます。苦味が引っ込むと、そのぶん甘みが目立つようになり、結果として「味が引き立った」と感じるのです。
マルガリータの中にも、苦味のもとがあります。コアントローは苦いオレンジの皮も使って香りをつけたリキュールで、ほのかな苦味があります。テキーラのアルコールの刺激もあります。唇に縁の塩がつくと、この苦味や角がやわらぎ、オレンジリキュールの甘みとライムの酸味がはっきり感じられるようになります。
ただし、塩は多ければいいわけではありません。ごく少量の塩は酸味をはっきりさせるといわれますが、塩が多すぎると、逆に酸味を抑えてしまいます。手順3で縁の外側に半周だけ塩をつけるのはこのためです。塩のある側とない側を、ひと口ごとに飲み分けられます。内側に塩をつけないのは、塩が飲み物の中に落ちて溶け、全体がしょっぱくなるのを防ぐためです。

氷とシェイクで、冷やしながら薄める
シェイクには、材料を混ぜるだけでなく、冷やすことと、水で割ることの2つの役目があります。
飲み物を冷やしているのは、氷の冷たさそのものより、氷が溶けるときに奪う熱です。氷が水に変わるときには、たくさんの熱を周りから奪います。英国のカクテル専門サイト「ディフォーズ・ガイド」によると、この溶けるときの効果は、冷凍庫の氷の低い温度による効果の最大8倍にもなります。つまり、カクテルを冷やすと、必ず氷が溶けて水が加わります。冷やすことと薄めることは切り離せないのです。
料理科学者のデイブ・アーノルドの実験では、強くシェイクすると12秒ほどで温度が下がりきり、飲み物は−5〜−8℃くらいになります。それ以上振っても、温度も薄まり方もほとんど変わりません。手順5で12〜15秒振るのはこのためです。
シェイクで加わる水は、もとの量の20〜25%ほどです。この記事の分量(合計85ml)なら、17〜21mlほどの水が加わり、約105mlになります。アルコール度数40%のテキーラを使った場合、計算するとシェイク前の約33%から、27%前後まで下がります。テキーラのアルコールの刺激がやわらいで飲みやすくなるのは、この適度な水のおかげです。
手順6で、シェイカーの中の氷をグラスに入れないのにも理由があります。シェイクのあいだに割れて小さくなった氷は表面積が大きく、早く溶けます。細かく砕いた氷は、角氷よりずっと多く飲み物を薄めることがわかっています。グラスには新しい大きめの氷を入れておくと、飲んでいるあいだに薄まりすぎません。
冷たいと、甘みを感じにくい
アイスクリームは、凍っているときはそれほど甘く感じないのに、溶けると驚くほど甘く感じます。ベルギーのルーヴェン・カトリック大学のカレル・タラベラらは、2005年に『Nature』で、この現象の仕組みを発表しました。舌の味を感じる細胞にある「TRPM5」というたんぱく質は、温度が高いほど強く反応し、甘みの信号を強く脳に送ります。逆に、冷たいと甘みを感じにくくなります。
マルガリータは、シェイク直後には氷点下まで冷えています。この温度では甘みが弱く感じられるので、レシピにはしっかりした量のオレンジリキュールが入っています。シェイクする前の材料をなめると甘すぎるように感じても、よく冷やすとちょうどよくなります。
この研究を紹介した記事では、ビールやワインは適温より温かくなると苦味が目立つことにも触れています。マルガリータも、ぬるくなると甘みが強く感じられるようになり、冷たいときのバランスが変わってしまいます。手順1でグラスと材料を冷やし、注いだらすぐに飲むのは、冷たいうちのバランスで飲むためです。
ライムは搾りたてを使う
マルガリータの酸味と香りは、すべてライム果汁から来ます。リック・ベイレスは、市販の「搾りたて」をうたうびん入りのライム果汁では、はっきりと弱い味のマルガリータになると書いています。長く保存できるように加熱殺菌した果汁は、香りも変わります。バーテンダー向けのサイト「ア・バー・アバブ」が、搾りたての果汁と加熱殺菌した果汁で同じマルガリータを作って比べたところ、加熱殺菌した果汁のほうは酸味がぼやけ、搾りたての青い香りの代わりに、苦く酸化した柑橘の香りがしたと報告しています。
おもしろいことに、搾った直後がいちばんおいしいわけでもないようです。デイブ・アーノルドがバーテンダーたちに飲み比べてもらった試験では、手で搾ってから4時間ほどたったライム果汁を使ったものが、搾った直後のものより好まれました。アーノルドは、繰り返し確かめる必要があるとしたうえで、この結果を紹介しています。家庭で何杯も作るときは、飲む数時間前に搾っておいても問題ありません。ただし、当日のうちに使い切ってください。
アーノルドの試験では、回転する機械で搾った果汁は、手で搾った果汁より評価が低くなりました。アーノルドは、機械が皮の白いわたまで削り、苦いものが混ざったのではないかと考えています。手順2で白いわたまで強く押しつぶさないのは、このためです。
本場との違い
- ライム:日本でよく売られているライムは、ペルシャライム(タヒチライム)で、おもな産地はメキシコです。メキシコライムとも呼ばれる小さなキーライムは、ペルシャライムより酸味と香りが強く、独特の苦味もあります。キーライムが手に入れば、酸味の強いマルガリータになります。
- オレンジリキュール:メキシコでは、コアントローのほかにメキシコ版の「コントロイ」も使われますが、日本ではほとんど手に入りません。コアントローで作ってください。安いトリプルセックは香りが弱く、水っぽい味になりやすいとリック・ベイレスは書いています。
- テキーラ:日本の酒店にはミクストのテキーラも多く並んでいます。ラベルに「100% de agave」と書かれたものを選ぶと、アガベの香りがはっきりしたマルガリータになります。
食べ方
マルガリータは、塩気と酸味があるので、炭火で焼いた肉や揚げ物のタコスとよく合います。ライムの酸味が肉の脂や揚げ衣の油をさっぱりさせ、縁の塩が料理の塩気とつながります。
牛肉をライムとにんにくに漬けて強火で焼く、メキシコ北部の焼き肉タコスのカルネ・アサーダや、衣をつけて揚げた白身魚にキャベツとクリーミーなソースをのせるフィッシュタコスと一緒にどうぞ。
本場カルネ・アサーダのレシピメキシコ北部の焼き肉カルネ・アサーダを、炭火の代わりに煙が出るまで熱した鋳鉄のスキレットで。柑橘とにんにくで短くマリネしたハラミを強火で焼き、刻んでタコスに。メイラード反応、マリネの効き方、繊維を断つ切り方を料理科学で解説します。
本場フィッシュタコスのレシピメキシコ・バハ・カリフォルニア生まれの白身魚のフライのタコスを家庭の鍋で。ビール衣をつけて175〜180℃の油で揚げます。炭酸の泡、冷たい衣とグルテン、油の温度が衣をサクッと軽く仕上げる理由を料理科学で解説します。
マルガリータのほかにも、メキシコと中南米のお酒の飲み物を紹介しています。メキシコのビールにライムと塩、ソースを合わせたミチェラーダと、ブラジルのサトウキビの蒸留酒で作るカイピリーニャです。
本場ミチェラーダのレシピメキシコ生まれのビールカクテル、ミチェラーダの本場のレシピ。冷えたラガーにライムとウスターシャーソース、マギー、ホットソースを合わせ、グラスの縁にタヒンをつけます。塩が苦味を抑える仕組みや炭酸の刺激の正体を料理科学で解説します。
本場カイピリーニャのレシピブラジルを代表するカクテル、カイピリーニャを本場の手順で。グラスでライムと砂糖をつぶし、カシャッサと砕いた氷を加えます。香りが皮の油にある理由、白いわたの苦み、砂糖を先に溶かす理由、砕いた氷で冷やす理由を料理科学で解説します。
お酒を飲まない人には、米とシナモンで作るメキシコの甘い飲み物、オルチャータの作り方も紹介しています。
本場オルチャータのレシピ米とシナモンで作るメキシコの甘い飲み物、オルチャータ。米を一晩水に浸してミキサーにかけ、こして牛乳と砂糖で割るだけで家庭でも作れます。加熱しないのでとろみがつかない理由や、白く見える仕組みを料理科学で解説します。
マルガリータはお酒です。20歳未満の方は飲めません。また、飲酒運転は法律で禁止されています。
保存
マルガリータは作りたてを飲む飲み物です。時間がたつと氷が溶けて薄まり、温度も上がって味のバランスが崩れるので、作り置きはできません。
何杯も作るときは、テキーラ、コアントロー、ライム果汁を先に同じ割合で混ぜ、冷蔵庫で冷やしておくと手早く作れます。飲むときに1杯分(約85ml)ずつシェイカーに入れて、氷と一緒に振ってください。ライム果汁が入っているので、混ぜたものは当日中に使い切ります。
もっと知りたい人へ
塩と味の感じ方や、氷が溶けるときの熱の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
出典
- Wikipedia「Margarita」
- International Bartenders Association「Margarita」
- Difford's Guide「History of the Margarita」
- Euronews「The contested history of the margarita」
- Wikipedia「Tequila」
- Wikipedia「Cointreau」
- Rick Bayless「Making a Great Margarita 101」
- Rick Bayless「Easy Old-Fashioned Margarita」
- Breslin, P. A. S. & Beauchamp, G. K.「Salt enhances flavour by suppressing bitterness」Nature 387(1997)
- Mental Floss「What Does Salt Add to a Margarita?」
- Difford's Guide「Shaking cocktails: advanced tips, myths and lessons」
- Death & Co「Shaken or Stirred」
- BeverageDaily「Food temperature affects taste, reveal scientists」
- A Bar Above「Is Pasteurized Juice a Blessing or a Curse?」
- Cooking Issues「Fresh Lime Juice: WTF?」
- Wikipedia「Key lime」
- Wikipedia「Persian lime」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。