
本場ミチェラーダのレシピ
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ミチェラーダは、よく冷えたメキシコのラガービールに、ライム、塩、ソース類を合わせたビールのカクテルです。グラスの縁には赤いチリ塩をぐるりとつけ、ひと口ごとに塩気と酸味、ほのかな辛さがビールと一緒に口に入ります。メキシコでは、暑い日にぴったりの飲み物として親しまれています。
ビールに塩やソースを入れると聞くと、意外に感じるかもしれません。ところが、塩には苦味をやわらげる働きがあり、冷たさと炭酸の刺激が加わると、ビールだけで飲むよりも軽く、すっきり感じられます。
本場のミチェラーダとは
ミチェラーダ(michelada)は、メキシコ生まれのビールカクテルです。冷やしたグラスの縁に塩をつけ、ライム果汁とソース類を入れてから、ビールを注ぎます。メキシコの料理事典『Diccionario enciclopédico de la Gastronomía Mexicana』では、「塩とチレ(唐辛子)の粉で縁を飾ったグラスに、ライム果汁を入れて注ぐ淡色または濃色のビール。ソースを加えることもある」と説明されています。
メキシコでは、ビールのことを俗に「チェラ(chela)」と呼びます。ミチェラーダの名前にも、この言葉が入っています。
名前の由来は諸説あり
名前の由来には、いくつかの説があります。
もっとも有名なのは、メキシコ中部サン・ルイス・ポトシ州の「クラブ・デポルティーボ・ポトシーノ」というスポーツクラブで生まれたという説です。会員のミチェル・エスペルが、テニスのあとに、ビールにライムと塩と氷を入れ、ストローを添えて「チャベラ」と呼ばれる杯で出してもらっていました。まるでレモネード(スペイン語でリモナーダ)のような飲み方だったので、仲間が「ミチェルのリモナーダ」と呼んで同じものを頼むようになり、それが縮まって「ミチェラーダ」になったといわれます。時期は1960年代とも1970年代ともいわれ、はっきりしません。
ほかに、「ミ・チェラ・エラーダ(mi chela helada=私の冷えたビール)」が縮まったという説や、1940年代に同じサン・ルイス・ポトシ出身のアウグスト・ミチェル将軍が、ビールにライムとホットソース、塩を入れて飲んでいたことから名づけられたという説もあります。
「チェラーダ」との違いと、地域ごとの呼び名
ミチェラーダとよく似た飲み物に「チェラーダ(chelada)」があります。チェラーダは、ビールに塩とライムと氷だけを加えたシンプルなものです。これにウスターソースやホットソースなどのソース類を加えると、色が濃く、味も重めのミチェラーダになります。メキシコのバーでは、混ぜたソースを作り置きしておき、その黒い色から「ペトロレオ(石油)」と呼ぶこともあります。
ただし呼び名は地域でかなり違います。メキシコ中部では、ライムと塩だけのビールを「ミチェラーダ」と呼び、ソースを加えたものを「ミチェラーダ・クバーナ(キューバ風)」と呼び分けることがあります。オアハカでは、ライムと塩を合わせたものを「スエロ」と呼びます。
トマトジュースを入れるかどうかも、地域と好み次第です。トマトにハマグリのだしを合わせた「クラマト」というジュースを加えるものは、海沿いの地域や北部で人気があり、「クラマチェラ」や「オホ・ロホ(赤い目)」とも呼ばれます。アメリカでは、ビールとクラマトを合わせた缶入りの飲み物が「チェラーダ」の名前で売られているため、アメリカでは「チェラーダ=トマト入り」と思われていることもあります。
ミチェラーダの調味料
ミチェラーダに入れる調味料は、メキシコの家庭や食堂の食卓に並んでいるおなじみのものです。
- サルサ・イングレサ:スペイン語で「イギリスのソース」。ウスターシャーソースのことで、メキシコではイギリス生まれのリーペリンが定番です。
- ジュゴ・マギー:スイス生まれの調味料「マギー」のメキシコ版。小麦のたんぱく質から作られた、黒くて塩気とうまみの強い液体調味料です。
- バレンティーナ:1954年にメキシコ西部グアダラハラの会社が売り出したホットソース。プヤという唐辛子が原料で、辛さはおだやかです。
- タヒン:1985年にグアダラハラで生まれた、チレ(唐辛子)、塩、乾燥ライムを混ぜたチリ塩。果物にかけたり、グラスの縁につけたりします。
ミチェラーダのレシピ:材料(1杯分)
基本のミチェラーダ
グラスの縁
トマト入りにするとき(好みで)
ビールは、モデロ、パシフィコ、テカテ、コロナなど、軽くてすっきりしたメキシコのラガーが合います。メキシコには濃色のビールで作るミチェラーダもあります。
ソースの量は、まず少なめに入れ、飲みながら足してください。ジュゴ・マギーとウスターシャーソースは塩気が強く、入れすぎるとビールの味が隠れてしまいます。「ソースの味そのものではなく、コクだけを感じるくらい」が目安です。
タヒンが手に入らないときは、塩大さじ1にカイエンペッパー小さじ1/4を混ぜて代用できます(Amazon|楽天)。塩だけで縁をつけても、本場のチェラーダらしい味になります。
道具
- 背の高いグラス(450〜500ml入るパイントグラスなど):本場でもパイントグラスがよく使われます。ビールと氷、ソースが入るよう大きめのものを使います
- 小皿(縁につけるタヒンを広げる用)
- ライム搾り器(なくてもよい)
作り方
グラスを冷やす
グラスを冷凍庫に入れ、15〜30分冷やす。ビールも冷蔵庫で4〜6℃程度によく冷やしておく。
縁に塩をつける
小皿にタヒンを広げる。くし形のライムをグラスの縁に沿ってぐるりとこすりつけて湿らせ、グラスを逆さにしてタヒンに押し当て、縁に5mm〜1cmほどの幅でつける。
ソースを入れる
グラスに氷を入れ、ライム果汁、ウスターシャーソース、ジュゴ・マギー、バレンティーナを入れて軽く混ぜる。トマト入りにするときは、ここでクラマトも加える。
ビールを注ぐ
グラスを少し傾け、ビールを内側の壁に沿わせてゆっくり注ぐ。縁の塩が中に落ちないように注意する。1本全部が入らないときは、残りを飲みながら注ぎ足す。
味をととのえる
ひと口飲んで、ライムやソースを好みで足す。
ビールを少しずつ注ぎ足すと、最後まで冷たく、炭酸の効いた状態で飲めます。
料理科学:塩と炭酸の感じ方
塩がビールの苦味を抑える
ビールの苦味は、ホップに含まれる成分が、麦汁を煮るあいだに水に溶ける形に変わったものです。ミチェラーダでグラスの縁に塩をつけるのは、この苦味をやわらげるためでもあります。
塩は、料理の味を「引き立てる」とよく言われます。ところが味の研究では、塩を加えるとほかの味はむしろ弱まるか、変わらないという結果が多く出ていました。アメリカのモネル化学感覚研究所のブレスリンとボーシャンは、1997年に科学誌『Nature』で、この矛盾を説明する研究を発表しています。塩は、苦味のような不快な味を、甘みのような好ましい味よりも強く抑えます。苦味が引っ込むと、そのぶん甘みやうまみが目立つようになり、結果として「味が引き立った」と感じるのです。
ミチェラーダでは、ひと口ごとに唇に縁の塩がつき、ビールの苦味がやわらぎます。そのかわりに麦の甘みやライムの香り、マギーのうまみが前に出てきます。ビールだけで飲むより軽く感じられるのはこのためです。

同じようにグラスの縁に塩をつける、マルガリータの作り方も紹介しています。
本場マルガリータのレシピテキーラ、コアントロー、ライムで作るメキシコ生まれのカクテル、マルガリータ。縁の塩が苦味を抑える仕組み、シェイクで冷やしながら薄める理由、冷たいと甘みを感じにくい理由、ライムを搾りたてにする理由を料理科学で解説します。
炭酸の刺激は「痛み」と「酸味」
炭酸のシュワっとした刺激は、泡がはじける感触だと思われがちです。しかし実際には、口の中で起きている化学反応が大きくかかわっています。
ビールに溶けている二酸化炭素は、口の中の粘膜にしみこみ、「炭酸脱水酵素」という酵素の働きで炭酸(酸)に変わります。2009年に科学誌『Science』に発表された研究では、この酵素が舌の「酸味を感じる細胞」の表面にあり、二酸化炭素を酸に変えて酸味の信号を脳に送っていることがわかりました。さらに、口の中の痛みや刺激を感じる神経も、この酸に反応します。炭酸の刺激は、酸味と軽い痛みが組み合わさった感覚なのです。
実験で、泡ができないように高い圧力をかけた部屋で炭酸水を飲んでも、ぴりっとした刺激は同じように感じられました。刺激の正体は泡そのものではなく、溶けている二酸化炭素です。ミチェラーダのライムの酸味と炭酸の刺激が自然になじむのは、どちらも「酸」として感じているからでもあります。
冷たさが炭酸を保ち、刺激をまろやかにする
手順1でグラスとビールをよく冷やすのには、2つの理由があります。
ひとつは、炭酸を逃がさないためです。二酸化炭素は、液体の温度が低いほど多く溶けていられます。ぬるいビールは二酸化炭素を抱えきれず、すぐに泡になって抜けてしまいます。冷凍庫で冷やしたグラスと氷は、ソースやライム果汁を加えても温度が上がりにくく、炭酸を長く保ちます。
もうひとつは、刺激のバランスです。冷たい飲み物は、口の中の冷たさを感じる神経を刺激します。モネル化学感覚研究所の研究者は、この冷たさが炭酸のとがった刺激をやわらげたり、感じ方を変えたりすると説明しています。冷たさと炭酸がそろうと、「さっぱりした」と感じやすくなります。同じ炭酸水でも、ぬるいとさっぱり感が落ちます。
塩をビールに落とすと泡があふれる
手順4で、縁の塩をビールの中に落とさないように注ぐのにも理由があります。
ビールの中には、栓を開けたあとも二酸化炭素がたくさん溶けています。そこに塩や砂糖の粒が入ると、粒の表面が泡のでき始める場所(核)になり、一気に泡が出てきます。塩の粒がたくさん落ちると、泡がグラスからあふれ、炭酸も早く抜けてしまいます。ソースを先に入れておき、ビールはグラスの壁に沿わせてゆっくり注ぐと、泡立ちを抑えて炭酸を残せます。
本場との違い
- ジュゴ・マギー:メキシコ版のマギーは、日本ではスーパーではほとんど見かけません。手に入らないときは、醤油を数滴で代用できます。醤油もメキシコでミチェラーダに加えられることがある調味料です。
- ウスターシャーソース:日本の「ウスターソース」の多くは、野菜や果物、砂糖を主体にした甘めのソースで、アンチョビやタマリンドが入るイギリスのリーペリンとは味が違います。本場の味に近づけるなら、リーペリンを使ってください。
- ホットソース:バレンティーナがなければ、タバスコなど手に入るホットソースで作れます。ソースによって辛さや酸味が違うので、量は半分程度から試してください。
食べ方
ミチェラーダは、塩気と酸味があるので、脂の多い肉のタコスとよく合います。ラードでじっくり煮たカルニタスや、ひき肉を炒めたハードシェルタコス、牛肉を煮込んだビリアのタコスと一緒にどうぞ。トマト入りのミチェラーダは、エビなどの魚介料理にもよく合います。
ミチェラーダに合わせたいタコスの作り方も紹介しています。
家庭のオーブンで作るカルニタス(メキシコ式)メキシコ・ミチョアカン州のカルニタスを、ダッチオーブンと家庭のオーブンで。豚肩ロースをラードで煮て、水分が飛んだら表面をカリッと仕上げます。水が温度にブレーキをかける仕組み、ラードの役割、オレンジや牛乳、コーラの効果を料理科学で解説します。
家庭で作る本格ハードシェルタコスアメリカで生まれたテックスメックスのハードシェルタコスを家庭で。牛ひき肉を自家製のタコスシーズニングで味つけし、市販のタコシェルをオーブンで温めて詰めます。ひき肉の焼き方とメイラード反応、スパイスを脂で炒める理由を料理科学で解説します。
家庭のオーブンで作るビリア(ケサビリアタコス)メキシコ・ハリスコ州生まれ、ティフアナ式の牛肉のビリアを家庭のオーブンで。唐辛子のアドボに漬けた牛すね肉をダッチオーブンで3時間煮込み、ケサビリアタコスにします。ゼラチンのコク、オーブンで焦げつかない理由、赤い脂の正体を料理科学で解説します。
トマト入りのミチェラーダに合う、フィッシュタコスとセビーチェの作り方も紹介しています。
本場フィッシュタコスのレシピメキシコ・バハ・カリフォルニア生まれの白身魚のフライのタコスを家庭の鍋で。ビール衣をつけて175〜180℃の油で揚げます。炭酸の泡、冷たい衣とグルテン、油の温度が衣をサクッと軽く仕上げる理由を料理科学で解説します。
本場セビーチェのレシピペルーを代表する料理セビーチェを、刺身用の白身魚とライムで本場リマの手順どおりに。魚をライム汁と塩、唐辛子で1〜3分だけ和えて、すぐに食べます。酸でたんぱく質が変性して白くなる仕組みと、酸では寄生虫も細菌も死なない理由を料理科学で解説します。
ミチェラーダはお酒です。20歳未満の方は飲めません。また、飲酒運転は法律で禁止されています。
保存
ミチェラーダは作りたてを飲む飲み物です。時間がたつと炭酸が抜け、氷が溶けて味が薄まるので、作り置きはできません。
何杯も作るときは、ライム果汁とソース類を先に混ぜておくと手早く作れます。ライム果汁は時間がたつと香りが落ちるので、冷蔵庫に入れて当日中に使い切ってください。
もっと知りたい人へ
塩や酸の味の感じ方、ビールの炭酸の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
出典
- Wikipedia「Michelada」
- Wikipedia(スペイン語版)「Michelada」
- Excélsior「El verdadero origen de la michelada: de un club potosino al éxito mundial」
- adn40「Día de la cerveza: origen de las micheladas en México」
- Mexican Food Journal「Classic Michelada」
- Wikipedia「Clamato」
- Wikipedia「Tajín seasoning」
- Wikipedia「Valentina (hot sauce)」
- Wikipedia「Worcestershire sauce」
- Chowhound「The Unexpected Condiment You Should Be Adding To Your Mexican Dishes」
- Breslin, P. A. S. & Beauchamp, G. K.「Salt enhances flavour by suppressing bitterness」Nature 387(1997)
- ScienceDaily「Scientists Discover Protein Receptor For Carbonation Taste」
- PBS NewsHour「Science says seltzer」
- Brew Your Own「Carbonation Science」
- Craft Beer & Brewing(The Oxford Companion to Beer)「bittering potential (of hops)」
- The Naked Scientists「Why does adding salt to beer make it fizz?」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。