焼き目のついたコーントルティーヤに、衣をつけて揚げた白身魚、千切りキャベツ、白いソース、ピコ・デ・ガヨをのせたタコス2つ。手前にくし形のライム
タコスとメキシコ料理

本場フィッシュタコスのレシピ

地域
メキシコ(バハ・カリフォルニア)
分量
4人分・12個
公開

この記事はAmazonアソシエイト・楽天アフィリエイトのリンクを含みます。

フィッシュタコスは、メキシコ北西部のバハ・カリフォルニア半島で生まれた、白身魚のフライのタコスです。ビールの衣をつけて揚げたばかりの魚をコーントルティーヤにのせ、千切りキャベツと白いクリームソース、ピコ・デ・ガヨをのせて、ライムをしぼって食べます。

港町エンセナダの屋台では、注文を受けてから魚を揚げ、熱々をその場で渡してくれます。衣がサクッと軽く揚がるのには、ビールの泡と冷たさという、はっきりした理由があります。家庭の鍋でも、油の温度さえ守れば屋台と同じ食感に揚がります。

本場のフィッシュタコスとは

フィッシュタコスは、スペイン語で「タコス・デ・ペスカード(tacos de pescado=魚のタコス)」といいます。アメリカでは「バハ・フィッシュタコス」とも呼ばれます。

エンセナダの屋台から生まれた

フィッシュタコスの生まれ故郷として広く知られているのが、バハ・カリフォルニア州の港町エンセナダです。ただし、誰が最初に作ったのかははっきりしておらず、いくつかの説があります。

地元でよく語られるのは、エンセナダの「メルカド・ネグロ」という魚市場の屋台から始まったという説です。1950年代の終わりごろ、シナロア州出身のマリオ、通称「エル・バチグアラト」が、魚のタコスを売り始めたとされています。最初は揚げずに、魚をアルミホイルで包んで焼き、トマトと玉ねぎ、シラントロ(パクチー)の生のサルサをのせていました。魚は、当時ほとんど売り物にならなかったカスザメ(スペイン語で「アンヘリート」)だったといわれます。

その後、同じ市場で屋台を開いていたセフェリノ・マンシージャが、魚に衣をつけて揚げる作り方を始め、千切りキャベツをのせるようになったと伝えられています。メルカド・ネグロは1967年に閉鎖されましたが、1970年に開いた「タコス・フェニックス」は、今も続くエンセナダで最も古いフィッシュタコスの店と考えられています。

日本人漁師の天ぷらの影響という説

もうひとつよく知られているのが、日本人漁師の天ぷらがもとになったという説です。エンセナダには1918年ごろから日本人の漁師が移り住み、魚に衣をつけて揚げる天ぷらを伝えたというものです。屋台の料理人が日本人の漁業キャンプで魚の天ぷらを食べ、それを自分の店で出すうちに、客の希望でトルティーヤにのせるようになった、という話も残っています。

揚げ方が天ぷらに似ていることや、日本人がこの町に住んでいたことは確かです。ただ、天ぷらとのつながりを示すはっきりした記録は見つかっていません。日本とメキシコの料理が混ざり合って生まれた、という見方が広く語られていますが、あくまで説のひとつです。

アメリカに広めたラルフ・ルビオ

フィッシュタコスをアメリカに広めたのは、サンディエゴの大学生だったラルフ・ルビオです。1974年の春休みに、バハ・カリフォルニアの港町サン・フェリペで食べたフィッシュタコスに感激し、1983年にサンディエゴで自分の店を開いて売り出しました。この店はチェーン店「ルビオズ」に成長し、フィッシュタコスはカリフォルニアの定番料理になりました。

フィッシュタコスのレシピ:材料(4人分・12個)

魚とビール衣

  • 白身魚の切り身(皮なし。タラ、スズキなど)500g
  • 塩小さじ1/2(3g)
  • 薄力粉(打ち粉用)大さじ3(27g)
  • 薄力粉(衣用)1カップ(110g)
  • ベーキングパウダー小さじ1(4g)
  • 塩(衣用)小さじ1/2(3g)
  • メキシコのラガービール(よく冷やしたもの)(Amazon|楽天)1缶(約240ml使う)
  • 揚げ油(サラダ油など)20cmの鍋で約1L鍋に深さ3〜4cm

本場エンセナダでは、カスザメなどのサメや、くせのない白身魚を使います。日本ではタラやスズキ、メバルなど、身が締まった白身魚の切り身で作れます。ビールは、テカテやパシフィコなど、軽い味のメキシコのラガーが向いています。手に入らなければ、日本の淡色のビールで作ってかまいません。

クレマ(白いソース)

  • マヨネーズ大さじ4(48g)
  • サワークリーム大さじ4(60g)
  • ライム汁大さじ1(15ml)
  • 水15〜30ml大さじ1〜2
  • 塩少々

「クレマ」は、スペイン語で「クリーム」という意味です。フィッシュタコスにかける白いソースは、マヨネーズにメキシコの生クリーム(クレマ・メヒカーナ)やサワークリーム、ライム汁を混ぜたもので、今のバハのフィッシュタコスには欠かせません。

ピコ・デ・ガヨ

  • トマト(5mm角)2個(300g)
  • 玉ねぎ(みじん切り)1/4個(50g)
  • ハラペーニョ(生、みじん切り)(Amazon|楽天)1本(15g)
  • シラントロ(パクチー)1/2束(10g)
  • ライム汁大さじ1(15ml)
  • 塩小さじ1/2(3g)

仕上げ

  • コーントルティーヤ(直径15cm)(Amazon|楽天)12枚
  • キャベツ(千切り)1/4個(250g)
  • ライム(くし形切り)2個

道具

  • 深めの鍋(直径20cm前後):油はね防止のため、油の量が鍋の深さの半分以下になるものを選びます
  • 揚げ物用温度計(200℃以上測れるもの):油の温度を確かめます(Amazon|楽天)
  • 網をのせたバット
  • 鋳鉄のスキレット、またはフライパン(トルティーヤを温める用)(Amazon|楽天)

作り方

  1. ピコ・デ・ガヨを作る

    トマト、玉ねぎ、ハラペーニョ、刻んだシラントロ、ライム汁、塩を混ぜ、冷蔵庫に入れておく。

  2. クレマを作る

    マヨネーズ、サワークリーム、ライム汁を混ぜ、水を少しずつ加えてスプーンからとろりと流れる固さにする。塩で味をととのえ、冷蔵庫に入れておく。

  3. 魚を切る

    魚を幅2〜3cm、長さ8〜10cm、厚さ1.5cmほどの棒状に切る。キッチンペーパーで水けをしっかりふき、塩小さじ1/2をふる。

  4. 油を温める

    鍋に油を深さ3〜4cm入れ、中火で175〜180℃に温める。

  5. 衣を作る

    油を温めている間に、ボウルに薄力粉、ベーキングパウダー、塩を入れ、冷たいビールを注いで泡立て器で10〜15回ほどざっくり混ぜる。粉のかたまりが少し残っていてかまわない。とろりと魚にからむ固さが目安。

  6. 打ち粉をする

    魚の水けをもう一度ふき、打ち粉用の薄力粉を薄くまぶして、余分な粉をはたく。

  7. 揚げる

    魚を衣にくぐらせ、余分な衣を落として、手前から奥へすべらせるように油に入れる。一度に入れるのは3〜4切れまで。途中で一度返し、全体がきつね色になるまで3〜4分揚げる。

  8. 火の通りを確かめる

    いちばん厚い1切れを割って、身が白く不透明になり、簡単にほぐれるかを確かめる。網をのせたバットに立てるように並べて油を切る。油の温度が170℃を下回ったら、温度が戻ってから次を入れる。

  9. トルティーヤを温める

    スキレットを中火で温め、トルティーヤを片面20〜30秒ずつ焼く。乾いた布巾で包んで保温する。

  10. 組み立てる

    トルティーヤに魚を1切れのせ、キャベツ、クレマ、ピコ・デ・ガヨの順にのせる。ライムを添え、揚げたてをすぐに食べる。

揚げるときの安全
  • コンロから離れない 天ぷら油は、およそ340〜370℃で火がつきます。火にかけたまま数分目を離しただけで火事になることがあります。電話や来客で離れるときは、必ず火を止めてください。
  • 油の量は少なすぎず多すぎず コンロの「調理油過熱防止装置」は、油が少なすぎると温度の上がり方が速く、うまく働かないことがあります。油は深さ3〜4cm、鍋の深さの半分以下にします。
  • 魚の水けをふく 水分は熱い油の中で一気に水蒸気になり、油がはねる原因になります。手順3と6で水けをよくふくのはこのためです。
  • 火が出たら水をかけない 燃えている油に水をかけると、水が一気に水蒸気になって油を飛び散らせ、火が広がります。火を消し、消火器を使ってください。キッチンには住宅用の消火器を備えておくと安心です。

料理科学:ビール衣がサクッと揚がる理由

泡が衣をふくらませる

ビール衣が軽く揚がるいちばんの理由は、ビールに溶けている炭酸ガスです。衣を熱い油に入れると、炭酸ガスの泡がふくらみながら衣から抜けていきます。同時に衣の水分も水蒸気になって飛び出します。この泡と水蒸気が衣を内側から押し広げるので、揚がった衣には小さな穴がたくさんあいた、軽くてサクッとした食感が生まれます。

アメリカの料理研究誌の試験では、炭酸水やノンアルコールビールで作った衣も、水で作った衣より軽く、レースのような薄い衣に揚がりました。ビールの代わりに炭酸水を使ってもよいのはこのためです。ただし、砂糖の入った炭酸飲料は焦げやすいので向きません。

手順5で、ビールを開けたらすぐに衣を作るのは、炭酸が抜ける前に揚げるためです。

屋台の大鍋で揚がる衣つきの魚と、手前に並ぶ千切りキャベツやサルサ、紫玉ねぎの酢漬け、ライムなどのトッピング

冷たい衣はグルテンを作りにくい

衣が重く、パンのように固くなる原因は、小麦粉のたんぱく質が水と結びついてできる「グルテン」です。グルテンは、小麦粉に水を加えてこねたり混ぜたりするほど、つながってのびる網を作ります。パンには必要な網ですが、揚げ衣では固さやべたつきの原因になります。

グルテンは温度が低いほどできにくくなります。手順5でビールをよく冷やしておき、混ぜるのを10〜15回にとどめるのは、グルテンの網を作らないためです。粉のかたまりが少し残るくらいでやめてかまいません。天ぷらの衣を冷水でさっと混ぜるのと同じ考え方です。

炭酸にはもうひとつ役目があります。炭酸ガスが水に溶けると、液体は少し酸性になります。グルテンは弱い酸性(pH5〜6)でいちばんできやすく、それより酸性が強いとできにくくなります。炭酸飲料はpH4前後なので、衣のグルテンを抑える方向に働きます。

アルコールは水より早く蒸発する

アルコールは水より低い温度で沸騰し、早く蒸発します。そのため、衣に含まれるアルコールは揚げている間に飛び、衣が早く乾いて固まるのを助けます。アメリカの料理研究家J・ケンジ・ロペス=アルトは、この性質を生かして、ビールの一部をウォッカに置き換える衣を考えました。

ただし、普通のラガービールのアルコール度数は5%前後と低く、ビール衣ではアルコールの効果は小さいとする試験結果もあります。ビール衣のサクッとした食感は、主に炭酸の泡と、グルテンを作らない冷たさによるものと考えてください。

油の温度が下がると衣が油を吸う

衣をサクッと揚げるには、油の温度を保つことも大切です。油の温度が十分に高いと、衣の水分が勢いよく水蒸気になって外へ出ていき、衣がすばやく固まります。温度が低いと水分がゆっくりしか抜けず、衣が固まる前に油を吸って、べたっと重い仕上がりになります。

冷たい魚と衣を一度にたくさん入れると、油の温度は一気に下がります。手順7で一度に入れる量を3〜4切れまでにし、温度が戻るのを待ってから次を揚げるのはこのためです。温度は目で見て判断せず、温度計で確かめてください。

揚げ物用の温度計を含む、料理用温度計の種類と選び方は、こちらの記事で詳しく解説しています。

中心温度計:塊肉を焼くときにいちばん大事な道具塊肉の火の通りを確かめる中心温度計の解説。オーブンの温度のずれや余熱で焼き時間が当てにならない理由、鶏肉・豚肉・牛肉・BBQの中心温度の目安、温度計の種類と選び方、正しい刺し方と氷水での校正が分かります。

本場との違い

  • 魚:エンセナダではカスザメなどのサメの身をよく使います。日本ではサメの切り身は手に入りにくいので、タラやスズキなどの白身魚で作っています。
  • クレマ:本場のレシピでは、メキシコの生クリーム「クレマ・メヒカーナ」をマヨネーズに混ぜることがあります。日本では手に入りにくいので、サワークリームを水でゆるめて代用しています。
  • トッピング:屋台では、ピコ・デ・ガヨのほかに、アボカドの緑のサルサ、赤玉ねぎのピクルスなども好みでのせます。

食べ方

フィッシュタコスは、揚げたてを食べるのがいちばんです。時間がたつと、キャベツやクレマの水分が衣に移ってしまいます。家族で食べるときは、トッピングを並べておいて、揚がった順に各自で組み立てるのがおすすめです。ライムを最後にたっぷりしぼると、揚げ物が軽く感じられます。

のせるピコ・デ・ガヨや、トッピングに合うワカモレ、辛さを足したいときのサルサ・ロハ、サルサ・ベルデの作り方も紹介しています。

本場ピコ・デ・ガヨ(サルサ・メヒカーナ)のレシピ刻んだトマトと玉ねぎ、唐辛子、シラントロをライムと塩で和える、火を使わないメキシコのサルサ。塩でトマトの水を抜く浸透圧、玉ねぎの辛味の抜き方、唐辛子の辛さがわたにある理由を料理科学で解説します。 本場ワカモレのレシピアボカド、玉ねぎ、唐辛子、シラントロ、ライム、塩で作るメキシコの本場のワカモレ。溶岩石のすり鉢モルカヘテで粗くつぶします。アボカドが黒くなる仕組みと、ライムが変色を遅らせる理由、種を入れる俗説を料理科学で解説します。 本場サルサ・ロハのレシピメキシコの焼いた赤いサルサ、サルサ・ロハを家庭で。トマト、玉ねぎ、にんにく、チレ・デ・アルボルを鉄のフライパンや魚焼きグリルで焦げ目がつくまで焼き、すりつぶします。メイラード反応とカラメル化、焦げと苦みの関係を料理科学で解説します。 本場サルサ・ベルデのレシピメキシコの緑のサルサ、サルサ・ベルデを、日本でも手に入るトマティーヨの缶詰で。生ならゆでて、缶詰ならそのまま唐辛子やシラントロとミキサーにかけるだけ。酸味のもと、ゆでると色が変わる理由、冷やすととろみが出る仕組みを料理科学で解説します。

フィッシュタコスに使うコーントルティーヤの作り方も紹介しています。

本場コーントルティーヤのレシピメキシコの主食コーントルティーヤを、マサ・アリナと水だけで。トルティーヤプレスで押しのばし、鋳鉄のスキレットで焼けば家庭のコンロでもぷくっと膨らみます。生地を休ませる理由、ひび割れの見分け方、膨らむ仕組みを料理科学で解説します。

フィッシュタコスに合わせたい、マルガリータとミチェラーダの作り方も紹介しています。

本場マルガリータのレシピテキーラ、コアントロー、ライムで作るメキシコ生まれのカクテル、マルガリータ。縁の塩が苦味を抑える仕組み、シェイクで冷やしながら薄める理由、冷たいと甘みを感じにくい理由、ライムを搾りたてにする理由を料理科学で解説します。 本場ミチェラーダのレシピメキシコ生まれのビールカクテル、ミチェラーダの本場のレシピ。冷えたラガーにライムとウスターシャーソース、マギー、ホットソースを合わせ、グラスの縁にタヒンをつけます。塩が苦味を抑える仕組みや炭酸の刺激の正体を料理科学で解説します。

保存

  • 揚げた魚:揚げたてがいちばんおいしく、作り置きには向きません。残ったら冷蔵で翌日までに食べ、オーブントースターで温め直すと衣のサクッと感が少し戻ります
  • クレマ:冷蔵で2〜3日程度
  • ピコ・デ・ガヨ:時間がたつと水が出るので、その日のうちに食べきります

もっと知りたい人へ

揚げ物の衣や小麦粉のグルテンの科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。