
家庭のオーブンで作るバルバコア(南テキサス式)
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バルバコアは、牛の頭の肉をじっくり蒸し焼きにした、南テキサスの朝ごはんです。リオグランデ・バレーやサンアントニオでは、週末、とくに日曜の朝にタケリア(タコス屋)や市場でバルバコアを買い、温かいトルティーヤで包んで家族で食べる習慣があります。ほろほろにほどけた肉は、とろりとしたゼラチン質をまとっていて、刻み玉ねぎとシラントロ(パクチー)、サルサをのせるだけで、ごちそうになります。
もとは牛の頭を丸ごと地面の穴に埋め、一晩かけて蒸し焼きにしていました。今のテキサスの店では、牛ほほ肉を蒸して作るのが一般的です。家庭のバルバコアのレシピも、牛ほほ肉と塩、少しのスパイスだけ。ダッチオーブンに入れてふたをし、家庭のオーブンで4〜5時間蒸し焼きにすれば、本場と同じほろほろの食感が作れます。
本場のバルバコアとは
バルバコア(barbacoa)は、肉を穴の中などでじっくり蒸し焼きにする料理です。言葉のもとは、カリブ海の先住民タイノ族の言葉で、「木の枝や葦で組んだ枠」を意味していました。スペイン人はこの言葉を、中南米のさまざまな木の台や網の呼び名に使いました。メキシコでは、地面に掘った穴の窯で肉を焼く料理の名前になりました。英語の「バーベキュー(barbecue)」の語源でもあります。
牛の頭(カベサ)を穴で一晩
南テキサスの伝統的なバルバコアは、「バルバコア・デ・カベサ」と呼ばれます。カベサ(cabeza)はスペイン語で「頭」のことで、牛の頭を丸ごと使います。
牛の頭は、もともと牧場で捨てられていた部位でした。メキシコから来たカウボーイ(バケーロ)たちが、この頭を穴で蒸し焼きにする料理をテキサスに持ち込みました。安い部位しか買えなかったテキサスのメキシコ系の人たち(テハーノ)が、牛の頭をごちそうに変えたのです。
作り方は、まず裏庭などに掘った穴で、メスキート(テキサスに多い硬い木)などの薪を燃やして熾火(おきび)にします。牛の頭は、水でぬらした麻袋や清潔な布、アルミホイルで包み、マゲイ(リュウゼツランの仲間)の葉と一緒に穴に入れます。上から土をかぶせて、8〜10時間ほど、一晩かけて蒸し焼きにします。翌朝に掘り出した頭から、ほほ肉(カチェテ)、舌(レングア)、目(オホス)などを取り分けて食べます。頭1つで、およそ50人分になるといいます。
味付けは家庭によって違います。リオグランデ・バレーのマカレン近くには、塩だけで味をつける家があります。サンアントニオには、黒こしょう、にんにく、少しのクミンを使う家があります。
日曜の朝のバルバコア
バルバコアは、昔から週末や祝日の朝に、家族や親戚が集まって食べる料理でした。前の晩から穴で焼き、朝に掘り出して、みんなを呼んで食べます。
今も南テキサスでは、店の看板に「サバドス・イ・ドミンゴス(土曜と日曜)」と書かれていて、バルバコアは週末だけの料理です。サンアントニオでは、バルバコアと赤いソーダ「ビッグ・レッド」の組み合わせをたたえるお祭りも開かれてきました。お祭りを始めた人は、子どものころ毎週日曜に、両親がバルバコアとビッグ・レッドを買ってきたと話しています。
穴のバルバコアが消えた理由と、牛ほほ肉
衛生規制が厳しくなるにつれて、地中の穴でバルバコアを焼いて売る店は、ほとんどなくなりました。多くの町で、穴での調理が認められなくなったためです。今、テキサスで売られているバルバコアの多くは、店の中で蒸し器やオーブンを使って蒸したものです。
穴で焼く伝統の方法を商売として続けているのは、ブラウンズビルの「ベラズ・バックヤード・バーベキュー」だけだといわれています。1955年にアルベルトとカルメンのベラ夫妻が開いた店で、古い規制のもとで認められた方法として、例外的に穴での調理が続けられています。今は息子のアルマンド(マンド)・ベラさんが、レンガで囲んだ穴でメスキートの炭を使い、アルミホイルで包んだ牛の頭を一晩焼いています。牛海綿状脳症(BSE)の問題があってから、脳(セソス)は出さなくなりました。
頭を丸ごと扱うのは、手間のかかる仕事です。一方、ほほ肉はアメリカの食肉の規格に番号がある部位で、肉屋で単品で買えます。頭の中でもいちばん人気があるのはほほ肉で、普通の店の蒸したバルバコアは、たいていほほ肉だけで作られています。家庭で作るときも、ほほ肉だけで十分においしいバルバコアになります。
メキシコ・イダルゴの羊のバルバコアとの違い
メキシコにもバルバコアがありますが、中身はかなり違います。メキシコ中部、とくにイダルゴ州では、バルバコアといえば羊の肉です。地面に1.5mほどの穴を掘って石を焼き、穴の内側にマゲイの葉を敷き詰めて、羊の肉をマゲイの葉で包みます。肉の下には容器を置き、蒸し焼きの間に肉から落ちる汁を受け止めます。この汁は「コンソメ」と呼ばれ、肉と一緒にスープとして飲みます。
南テキサスのバルバコアは牛の頭(今はほほ肉)を使い、トルティーヤで包んでタコスにして食べるのが基本です。イダルゴの羊のバルバコアは、別の記事で紹介する予定です。
バルバコアのレシピ:材料(4〜6人分)
バルバコア
牛ほほ肉は、日本のスーパーではあまり見かけません。通販の精肉店で、煮込み用の冷凍ブロックとして売られています。1個250〜400gほどの塊で、外側に脂と白い膜が付いています。
味付けはサンアントニオの家庭のやり方に合わせ、黒こしょう、にんにく、クミンを少し使います。リオグランデ・バレー風にしたいときは、塩だけで作ってください。
一緒に食べるもの
道具
- 鋳鉄のダッチオーブン(ふた付き・オーブンに入れられる鍋。直径24cm以上)(Amazon|楽天)
- アルミホイル:鍋とふたのすき間をふさぎます
- フォーク2本、またはトング:肉をほぐします
- フライパン、または鋳鉄のスキレット:トルティーヤを温めます(Amazon|楽天)
作り方
解凍する
冷凍の牛ほほ肉は、冷蔵庫に移して24〜36時間かけて解凍する。
掃除する
表面の厚い脂と、銀色に光る硬い膜を、包丁でそぎ取る。中の白い筋は、加熱するととろとろになるので取らなくてよい。500gを超える大きな塊は、半分に切って大きさをそろえる。
下味をつける
肉の水けをキッチンペーパーでふき、塩、黒こしょう、クミンを全体にまぶす。時間があれば、ラップをして冷蔵庫で2時間〜一晩おく。
オーブンを予熱する
オーブンを150〜160℃に予熱する。
鍋に詰める
ダッチオーブンの底ににんにくを散らし、肉をなるべく重ならないように並べて、水100mlを注ぐ。バナナの葉を使う場合は、さっと洗って水けをふき、肉全体を包むようにかぶせる。鍋の口をアルミホイルで覆ってから、ふたをする。
蒸し焼きにする
オーブンに入れ、4〜5時間蒸し焼きにする。3時間半たったら一度ふたを開け、底の水分がほとんどなければ水50mlを足す。フォークで押すと、肉が抵抗なくほろりと崩れれば焼き上がり。硬さが残るときは、30分ずつ延ばす。
休ませる
オーブンから出し、ふたをしたまま15〜20分おく。
ほぐす
肉をバットに取り出し、フォーク2本で繊維に沿って細かくほぐす。硬い膜や脂の塊が残っていたら取り除く。
煮汁を戻す
鍋に残った煮汁の上の脂を、好みで半分ほどすくい取る。煮汁を大さじ4〜6(60〜90ml)ほどほぐした肉に回しかけて混ぜ、味をみて塩で調える。
トルティーヤを温める
フライパンを中火で熱し、トルティーヤを片面30秒〜1分ずつ、やわらかくなるまで温める。乾いた布巾に包んで保温する。
盛りつける
トルティーヤにバルバコアをのせ、玉ねぎ、シラントロ、サルサをのせて、ライムを搾る。
料理科学:牛ほほ肉がほろほろになる仕組み
よく動く筋肉には、コラーゲンが多い
肉の筋肉の繊維は、結合組織という膜で束ねられています。この結合組織の主な成分が、コラーゲンというたんぱく質です。コラーゲンは、硬くて丈夫なひものような繊維です。よく動いたり体重を支えたりする筋肉ほど、コラーゲンが多くなります。
ほほ肉は、牛がものを噛むたびに動く筋肉です。テキサスの雑誌の記事でも、ほほ肉は「コラーゲンがたっぷり詰まった部位」と説明されています。焼き肉のように短時間で焼くと、コラーゲンが硬いまま残り、ゴムのように噛み切れません。手順2で白い筋を取らないのは、この筋もコラーゲンで、長く加熱すればやわらかくなるからです。
長い時間の湿熱で、コラーゲンがゼラチンに変わる
コラーゲンは、70℃を超えたあたりから少しずつほどけ始め、水を含んだやわらかいゼラチンに変わっていきます。ただし、この変化はとてもゆっくりで、何時間もかかります。温度を上げれば速く進みますが、高温では肉の繊維が縮んで、汁がしぼり出されてしまいます。手順6で、オーブンの温度を150〜160℃に抑えて4〜5時間かけるのはこのためです。
コラーゲンの多い部位ほど、長い時間の加熱が向いています。ほほ肉が4〜5時間でほろほろになるのは、筋肉の繊維を束ねていたコラーゲンがゼラチンに変わり、繊維がばらばらにほどけやすくなるからです。料理家リック・ベイレスも、バルバコアの肉は長く加熱するうちに溶けたコラーゲンのおかげでねっとりとおいしくなる、と話しています。

ふたをして蒸し焼きにする理由(湿熱と乾熱)
料理の加熱は、大きく「乾熱」と「湿熱」に分けられます。乾熱は、オーブンの熱い空気や網焼きのように、乾いた熱で焼く方法です。湿熱は、ゆでる、蒸す、煮込むのように、水や水蒸気を通して熱を伝える方法です。
ふたをしない鍋をオーブンに入れると、肉は乾いた熱い空気にさらされます。熱い空気が表面をなでるたびに水分が奪われ、何時間も焼くうちに表面が乾いて硬くなってしまいます。
手順5で水を少し入れ、アルミホイルとふたで鍋を閉じるのは、鍋の中を水蒸気でいっぱいにするためです。水蒸気は、冷たい肉の表面に触れて水に戻るときに、たくさんの熱を肉に渡します。乾いた空気よりも、ずっと効率よく熱が伝わります。また、鍋の中が湿っていれば、肉の表面から水分が蒸発しにくくなり、長く加熱しても乾きません。ふたをすることで、煮汁が蒸発して減りすぎるのも防げます。
本場の穴のバルバコアも、じつは湿熱の料理です。ぬれた麻袋やアルミホイルで包んだ牛の頭は、炭火で焼かれるというより、包みの中で蒸されています。今の店のバルバコアが蒸し器で作られるのも、同じ理由です。家庭のダッチオーブンは、この包みの役目をしています。
ほぐした肉に煮汁を戻す理由
鍋に残った煮汁には、ほほ肉から溶け出したゼラチンがたくさん含まれています。冷蔵庫で冷やすとぷるぷるに固まるのは、このゼラチンのためです。
ゼラチンのゲルは、人の体温より低い温度で溶けます。手順9でほぐした肉に煮汁を戻すと、ゼラチンが肉の繊維にからみ、口の中でとろりと溶けて、しっとりとした舌ざわりになります。ほぐしただけの肉は表面積が増えて乾きやすいので、煮汁で包んでおくと、トルティーヤにのせるまでしっとりしたまま保てます。
コラーゲンとゼラチンの仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。
コラーゲンとゼラチン:かたい肉がほろほろになるまでかたい牛すねやブリスケット、豚の肩肉が、長く加熱するとほろほろになるのはなぜか。コラーゲンが縮む温度とゼラチンに変わる温度と時間、しっとり感の正体、湿熱と乾熱、ストール、圧力鍋との違いが分かります。
本場との違い
- 部位:伝統のバルバコアは、牛の頭を丸ごと使い、ほほ肉、舌、目などを食べ分けます。日本では牛の頭はまず手に入らないので、今のテキサスの店でも主流のほほ肉だけで作っています。
- 加熱の方法:本場は地面の穴でメスキートの熾火を使い、一晩蒸し焼きにします。家庭版はダッチオーブンに入れてオーブンで蒸し焼きにします。どちらも包みや鍋の中で蒸す湿熱の料理なので、肉の食感は近くなります。ただし、穴で焼いたときのようなかすかな燻香はつきません。
- マゲイの葉:本場では、牛の頭をマゲイの葉と一緒に穴に入れます。マゲイの葉は日本では手に入らないので、好みでバナナの葉で包んでいます。南テキサスの料理ブログでも、家庭のオーブンで作るときは、バナナの葉かアルミホイルで肉を包むやり方が紹介されています。
- 味付け:伝統の味付けは、塩だけ、または黒こしょう、にんにく、少しのクミン程度です。家によっては赤唐辛子を加えることもあります。
同じ「バルバコア」でも、テキサスとメキシコでは中身が違います。テックスメックスとメキシコ料理で、同じ名前でも別物の料理については、こちらで整理しています。
テックスメックスとメキシコ料理は何が違う?同じ名前で別物の料理たちテックスメックスとメキシコ料理は何が違うのか。テハーノの料理から育った歴史、黄色いチーズやクミン、小麦粉トルティーヤなど材料の違い、ブリトーやエンチラーダなど同じ名前で別物の料理を、プロセスチーズやグルテンの料理科学も交えて整理します。
食べ方
南テキサスでは、日曜の朝にバルバコアを、温かいトルティーヤで包んでタコスにして食べます。のせるのは、刻み玉ねぎとシラントロが定番で、緑か赤のサルサは好みで選びます。赤いソーダのビッグ・レッドを一緒に飲むのも、南テキサスらしい組み合わせです。
- トルティーヤ:南テキサスでは小麦粉のフラワートルティーヤもよく使われますが、コーントルティーヤを好む人もいます。食べ比べてみてください。
- タコスに:トルティーヤ1枚に、バルバコアを大さじ2〜3(40〜50g)ほどのせます。塩を控えめにした場合は、食べるときに塩をふります。
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保存
- 冷蔵:ほぐした肉を煮汁と一緒に保存容器に入れて3〜4日程度。煮汁はゼラチンで固まりますが、温めればまた溶けます
- 冷凍:煮汁ごと小分けにして冷凍用の袋に入れ、1か月程度。冷蔵庫で解凍し、ふたをした鍋か電子レンジで温め直す
- 温め直すときは、乾かないように煮汁か水を少し足します
もっと知りたい人へ
肉のコラーゲンが加熱で変わる仕組みや、湿熱と乾熱の違いを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
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出典
- Wikipedia「Barbacoa」
- Wikipedia(スペイン語)「Barbacoa (México)」
- Wikipedia「Vera's Backyard Bar-B-Que」
- Edible Austin「Barbacoa」
- Texas Monthly「How to Cook Authentic Barbacoa」
- Texas Monthly「Vera's: The Last Bastion of South Texas Barbacoa」
- Texas Monthly「BBQ Anatomy 101: Beef Head」
- Texas Monthly「A Visit to Vera's, the Last Bastion of Barbacoa de Cabeza」
- Texas Highways「Hurtado Barbecue Breaks New Ground on Barbacoa」
- San Antonio Report「Barbacoa & Big Red Festival: Only in SA」
- Homesick Texan「South Texas barbacoa」
- Revista del Consumidor(Profeco)「Platillo sabio:Barbacoa」2021年7月号
- Napoleon「The Science of BBQ: How Collagen Affects Tenderness」
- Ricardo「How to Perfect the Art of Braising」
- Anova Culinary「How the science of heat transfer can help you cook efficiently」
- Electrolux「The Science of Steam: How Steam Improves Texture, Moisture and Flavour」
- Wikipedia「Braising」
- Wikipedia「Gelatin」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。