
家庭のオーブンで作るブリスケット
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テキサスのBBQでいちばんの名物が、牛の胸肉を塩とこしょうだけで味つけし、薪の煙で半日かけて焼き上げるブリスケットです。表面は黒く香ばしい皮に覆われ、中はしっとりと柔らかく、切ると肉汁があふれます。
ブリスケットは筋の多い硬い部位で、BBQの中でもいちばん難しい肉と言われます。それでも、温度を測りながらゆっくり焼けば、家庭のオーブンでもしっとり柔らかいブリスケットが作れます。
本場のブリスケットとは
ブリスケット(brisket)は、牛の胸の部分の肉です。立っている牛の体重のおよそ6割を支える筋肉で、よく動かすため筋(結合組織)が多く、そのまま焼くと硬い部位です。日本の部位では「肩バラ」にあたり、焼肉店で「ブリスケ」と呼ばれることもあります。
ブリスケットは、性質の違う2つの筋肉が重なってできています。
- フラット:薄く平たい赤身の多い部分。形がそろっていて切り分けやすい
- ポイント:フラットの上に重なる、厚みがあり脂の多い部分。「デッケル」とも呼ばれる
アメリカでは、この2つがつながった5〜7kgもある塊を「パッカー」と呼び、丸ごと焼くのが本場のやり方です。日本で手に入るのは、フラットかポイントを切り分けた1〜2kgほどのブロックがほとんどです。
テキサスのBBQとブリスケット
テキサス州のBBQは地域によってスタイルが違います。ブリスケットで有名なのは、州の中部(セントラル・テキサス)のスタイルです。
19世紀後半、テキサス中部の町ロックハートやルーリング、テイラーなどには、ドイツやチェコから移ってきた人々が肉屋を開きました。売れ残った肉を燻製にして売り始めたのが、この地域のBBQの始まりとされています。今でも、注文するとその場で肉を切り分けて重さで量り売りし、肉屋の包み紙(ブッチャーペーパー)にのせて出すのが伝統です。
味つけは塩と黒こしょうだけで、ソースはかけないか、かけてもさらっとした甘くないソースを少しつける程度です。塩とこしょうだけのラブは、白と黒の粒がダルメシアン犬の模様のように見えることから「ダルメシアン・ラブ」とも呼ばれます。燻すのに使う薪は、テキサスに多いポストオーク(ナラの一種)が定番です。付け合わせは食パン、ディルピクルス、生の玉ねぎの薄切りです。

意外なことに、ブリスケットがテキサスのBBQの定番になったのは、それほど昔ではありません。テキサスで最初に燻製のブリスケットを売ったのは、20世紀初めのユダヤ系の食料品店だったとされています。ユダヤ教の食事の決まりでは、牛の前半身の肉を食べるのが一般的で、ブリスケットは昔からユダヤ料理の定番の部位でした。BBQ店がブリスケットを出すようになったのは1950年代の終わりごろからで、多くの店に広まったのは1960年代のことです。
今のブリスケット人気を決定づけたのが、2009年にテキサス州の州都オースティンでトレーラーの屋台から始まった「フランクリン・バーベキュー」です。開店前から何時間も行列ができる店として知られ、店主のアーロン・フランクリンは2015年にBBQの料理人として初めて、アメリカの料理界で権威のあるジェームズ・ビアード賞を受賞しました。
ブリスケットのレシピ:材料(4〜6人分)
ブロックを選ぶときは、脂の多いポイントか、フラットでも上に脂の層がついているものを選んでください。赤身だけのフラットは、長時間焼くとパサつきやすくなります。脂の層が厚すぎるときは、5mmほど残して切り落とします。
黒こしょうは、本場では「16メッシュ」と呼ばれる粗挽きのこしょうを使います。粒が大きいほうが焦げにくく、ざくざくした香ばしい皮になります。

ラブに塩とこしょうのほか、ガーリックパウダーを加える店もあります。塩(salt)、こしょう(pepper)、にんにく(garlic)の頭文字をとって「SPG」と呼ばれる組み合わせです。加えるなら、ガーリックパウダーを小さじ1(3g)にしてください(Amazon|楽天)。
道具
- 料理用温度計(肉に刺してすぐ測れるタイプ):焼き上がりは時間ではなく温度で判断します(Amazon|楽天)
- ワイヤレス温度計(あれば):肉に刺したままオーブンで焼ける、コードのない温度計です。オーブンを開けずに中心温度を確認できます(Amazon)
- 天板と焼き網(Amazon|楽天)
- ブッチャーペーパー(なければアルミホイル):肉を包む紙です。BBQ用には、ろうやプラスチックのコーティングがない、無地のピンク色の紙を使います(Amazon|楽天)
- 刃の長い包丁(筋引き包丁など):長い刃で一度に引いて切ると、皮が崩れずきれいに切れます(Amazon|楽天)
作り方
前日:ラブをまぶす
ブリスケットの表面の水けをふく。塩と黒こしょうを混ぜ、肉の全面にまんべんなくまぶして手で押さえる。ラップをせずに網をのせたバットに置き、冷蔵庫で12〜24時間おく。
焼く(前半)
オーブンを140℃に予熱する。天板に焼き網をのせ、脂の層を上にしてブリスケットを置いて焼く。ワイヤレス温度計を使う場合は、焼く前に肉のいちばん厚い部分の中心に刺しておく。使わない場合は、2時間半たったら肉のいちばん厚い部分の中心に温度計を刺して測る。中心温度が70℃前後になり、表面が黒っぽく焼き固まるまで、30分ごとに測りながら焼く。合計約3時間が目安。
包む
ブッチャーペーパーを肉の長さの3倍ほどに切って2枚重ね、肉をのせてぴったりと包む。アルミホイルを使う場合も2重にして包む。ワイヤレス温度計は刺したまま包んでよい。
焼く(後半)
包んだ肉をオーブンに戻し、140℃のまま焼く。ワイヤレス温度計を使わない場合は、2時間たったら紙の上から温度計を刺して測る。中心温度が93〜96℃になるまで、30分ごとに測りながら焼く。後半は2〜3時間が目安。温度計や竹串を刺したとき、やわらかいバターに刺すようにすっと入れば焼き上がり。硬い手ごたえがあるときは、温度が上がっていてもさらに30分ずつ焼く。
休ませる
オーブンの電源を切り、包んだまま扉を閉めた庫内で1〜2時間休ませる。肉の中心温度が60℃を下回らないうちに切り分ける。
切り分ける
包みを開き、たまった肉汁は取っておく。肉の繊維の向きを確かめ、繊維を断つ向きに切る。フラットは鉛筆くらいの厚さ(約6mm)、ポイントは脂が多いので少し厚め(約1cm)に切る。切った肉に、取っておいた肉汁を少しかける。
※オーブンレンジの機種によっては、1回の運転時間に上限があります。途中で止まったら、140℃に設定し直して続きを焼いてください。
料理科学:休ませる理由と、繊維を断つ切り方
硬い肉が柔らかくなる仕組み
ブリスケットが硬いのは、筋肉の繊維を束ねる「結合組織」が多いからです。結合組織の主成分はコラーゲンというたんぱく質で、生のままでは丈夫な繊維です。
肉の温度が60℃前後になると、肉のたんぱく質が変化し始め、コラーゲンもゆるみ始めます。さらに70〜80℃あたりから、コラーゲンは少しずつ溶けてゼラチンに変わっていきます。この変化はすぐには終わらず、何時間もかかります。
焼き上がりの目安を93〜96℃と高めにしているのはこのためです。ステーキなら焼きすぎの温度ですが、コラーゲンを十分にゼラチンに変えるには、高い温度を長く保つ必要があります。コラーゲンが溶けると筋肉の繊維をつなぎとめていたものがなくなり、柔らかくなります。溶けたゼラチンが肉汁を抱え込むので、長く焼いてもしっとり仕上がります。
コラーゲンがゼラチンに変わる温度と時間は、こちらの記事で詳しく解説しています。
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70℃前後で温度が止まる「ストール」
手順3で、中心温度が70℃前後になったら肉を包むと書きました。肉はこのあたりで温度が上がらなくなることがあり、BBQの世界では「ストール(停滞)」と呼ばれています。中心温度が65〜77℃あたりで止まり、そのまま何時間も上がらないこともあります。
原因は、肉の表面から水分が蒸発するときの「気化熱」がもっとも有力とされています。BBQの科学で知られるサイト「Amazing Ribs」などの実験から、そう考えられるようになりました。汗をかくと体が冷えるのと同じで、表面から水が蒸発し続けるあいだは、オーブンの熱がその冷却で打ち消されてしまいます。肉を包むと蒸発が減って冷却が弱まるので、温度が再び上がり始めます。
同じく長時間焼くプルドポークの作り方も紹介しています。
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ブッチャーペーパーとアルミホイルの違い
ストールを乗り越えるために肉を包む方法を、BBQでは「テキサス・クラッチ」と呼びます。昔からアルミホイルで包むのが一般的でしたが、ブリスケットではブッチャーペーパーで包む店が増えています。フランクリン・バーベキューが広めたと言われる方法です。
違いは、水蒸気の通しやすさです。アルミホイルは水蒸気をまったく通さないので、肉から出た水分が中にこもって、蒸し焼きのような状態になります。温度は早く上がりますが、せっかく焼き固めた表面の皮(バーク)がふやけて柔らかくなります。
ブッチャーペーパーは、水蒸気を少しずつ外へ逃がします。包むと蒸発が大きく減るので温度は上がるようになり、それでいて中が蒸れすぎないので、皮のざくざくした食感が残ります。そのかわり、ホイルより焼き時間は少し長くなります。紙は肉からしみ出た脂を吸って、半透明になります。
焼いた後に「休ませる」本当の理由
ステーキでもローストビーフでも、「焼いたらすぐに切らずに休ませる」とよく言われます。理由として「休ませると、中心に集まった肉汁が肉全体に戻るから」と説明されることが多いのですが、最近の検証ではこの説明は疑問視されています。
アメリカの料理サイト「Serious Eats」で紹介された実験では、同じ中心温度で切れば、休ませた肉も休ませていない肉も、出る肉汁の量はほとんど変わりませんでした。休ませた肉から肉汁が出にくいのは、肉汁が戻ったからではなく、休ませるあいだに肉が少し冷めたからだと考えられています。熱い肉ほど中の水分が蒸気になろうとする力が強く、切ったときに肉汁が勢いよく押し出されます。少し冷めてから切ると、肉汁が出にくくなります。
ブリスケットのような大きな塊では、休ませることにもう1つ意味があります。オーブンから出した直後は、肉の外側ほど温度が高いので、その熱が中心に伝わり続けて中心温度はしばらく上がります。これを「余熱調理」と呼びます。さらに大きな塊はなかなか冷めないので、休ませているあいだも肉の温度は長く高いまま保たれ、コラーゲンがゼラチンに変わる反応が続きます。
本場の店では、焼き上がったブリスケットを60℃台に保った保温庫で何時間も休ませることがあります。これは「ホールディング」と呼ばれ、休ませるほど柔らかくしっとりすると考えられています。家庭では手順5のように、電源を切ったオーブンの中で休ませれば、庫内に残った熱で冷めにくくなります。
繊維を「断つ」ように切る
肉は、細長い筋肉の繊維が束になってできています。肉の表面をよく見ると、繊維が一定の方向に並んだすじ模様が見えます。繊維と同じ向きに切ると、1切れの中に長い繊維がそのまま残るので、かみ切りにくく筋っぽい食感になります。繊維と直角に切ると、繊維が短く断ち切られるので、柔らかくかみ切りやすくなります。これを「繊維を断つ」切り方と呼びます。
ブリスケットで気をつけたいのは、フラットとポイントで繊維の向きが違うことです。2つの筋肉が重なっているので、塊の途中で繊維の向きが変わります。丸ごと焼いたときは、フラットとポイントを切り分けてから、それぞれ繊維を断つ向きに切ります。焼くと繊維の向きがわかりにくくなるので、焼く前に向きを確かめておき、繊維と直角に包丁で小さな切れ目を入れて印にしておくと迷いません。
本場との違い
- 煙の香り:本場はポストオークの薪で半日以上燻します。オーブンでは燻製の香りが出ないので、香りを足したいときは、煙を液体に溶かした「リキッドスモーク」を小さじ1/2ほど水大さじ1で薄めて、ラブをまぶす前に肉に塗る方法があります(Amazon|楽天)。入れすぎると薬っぽい香りになるので少量にします。
- スモークリング:薪で燻した本場のブリスケットは、切ると皮のすぐ内側にピンク色の層が見えます。煙に含まれる一酸化窒素が肉の色素と結びついてできる「スモークリング」で、オーブンではできません。色の変化で、味にはほとんど関係しないとされています。
- 温度と時間:本場は110〜135℃ほどの低い温度で、パッカーを12時間以上かけて焼きます。家庭版は肉を1.5〜2kgと小さくし、温度を140℃にして、5〜7時間ほどに縮めています。
食べ方
テキサス式
ブッチャーペーパーの上にスライスしたブリスケットを並べ、食パン、ディルピクルス(Amazon|楽天)、生の玉ねぎの薄切りを添えます。テキサスの店では、食パンで肉をはさんだり、ピクルスと玉ねぎを肉と交互に食べたりして、脂のこってり感をさっぱりさせます。好みで生のハラペーニョの輪切りを添えます。
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タコス
テキサス州の州都オースティンでは、ブリスケットのタコスも定番です。温めたコーントルティーヤ(Amazon|楽天)にブリスケットを刻んでのせ、刻んだ玉ねぎ、シラントロ(パクチー)、サルサをのせてライムを搾ります。焼いたトマトと唐辛子で作るサルサ・ロハや、刻んだ野菜のピコ・デ・ガヨがよく合います。
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残ったら
残ったブリスケットは刻んで、BBQソースと和えてバンズにはさむと、テキサスの定番「チョップドビーフ・サンドイッチ」になります。
保存
- 冷蔵:切り分けずに塊のまま、肉汁と一緒にラップで包んで3日程度。切ってから保存すると乾きやすくなります
- 冷凍:塊のまま、または厚めに切って肉汁と一緒に保存袋に入れて1か月程度
- 温め直し:アルミホイルに包み、120℃前後のオーブンで中心が温まるまで温めると、パサつきにくくなります
もっと本格的に作りたい人へ
オーブンで作るブリスケットに慣れて、本場のように薪の煙で燻したくなったら、ペレットグリルという選択肢があります。木を固めた燃料(ウッドペレット)を燃やして、温度を自動で保ちながら燻製できるグリルです。屋外で使う大きな機械で値段も気軽ではありませんが、スモークリングのある本場の味に近づけます(Amazon)。
もっと知りたい人へ
ブリスケットの焼き方や薪、道具の選び方まで、フランクリン・バーベキューのアーロン・フランクリンが詳しく書いた本があります(英語)。
Franklin Barbecue: A Meat-Smoking Manifesto(Amazon|楽天)
BBQの科学をもっと詳しく知りたい人には、ストールの原因を実験で検証した「Amazing Ribs」の主宰者による本もあります(英語)。
Meathead: The Science of Great Barbecue and Grilling(Amazon|楽天)
出典
- Wikipedia「Brisket」
- Wikipedia「Texas smoked brisket」
- Wikipedia「Barbecue in Texas」
- Wikipedia「Franklin Barbecue」
- Texas Monthly「The History of Smoked Brisket」
- Texas Monthly「A Timeline of Lockhart Barbecue」
- Serious Eats「This Major Rule About Cooking Meat Turns out to Be Wrong」(GIGAZINEによる紹介)
- Smoked BBQ Source「The BBQ Stall Explained: How to Beat It」
- Steven Raichlen's Barbecue Bible「How to Slice Brisket」
- MasterClass「Wrapping Meat in Foil vs. Butcher Paper」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。