黒い鋳鉄の鍋に入ったロパ・ビエハ。細く裂いた牛肉がトマトソースで煮込まれ、ピーマンの細切りとローリエが見える。右奥の皿に揚げ焼きにしたバナナ
中南米・カリブ

家庭のオーブンで作るロパ・ビエハ

地域
キューバ
分量
4〜6人分
公開

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ロパ・ビエハは、やわらかく煮た牛肉を細く裂き、トマトとピーマン、玉ねぎのソースで煮込んだキューバの家庭料理です。白いご飯と黒豆、甘く揚げたバナナを添えたひと皿は、キューバを代表する料理のひとつとして知られています。

本場では、牛のフランク(脇腹の肉)を時間をかけて煮て、手で糸のように裂きます。ダッチオーブンに入れて家庭のオーブンで煮込めば、火加減の番をしなくても、指で押すだけでほどける肉に仕上がります。

本場のロパ・ビエハとは

ロパ・ビエハ(ropa vieja)は、スペイン語で「古着」という意味です。細く裂けた肉が、すり切れた古い布のように見えることから、この名前がついたと言われます。キューバ出身のシェフ、マリセル・プレシージャも、肉を裂く様子を古いぼろ布を裂くことにたとえています。

スペインからキューバへ渡った料理

ロパ・ビエハのルーツはスペインにあります。イベリア半島のセファルディム(スペイン系ユダヤ人)が、安息日のために作っていた煮込みが始まりと考えられています。この料理は北アフリカやカナリア諸島へ広がり、カナリア諸島からの移民がアメリカ大陸へ持ち込んだとされます。カナリア諸島では、肉と豆を煮込んだ「プチェロ」の残りの肉から作る料理でした。今もカナリア諸島では、ひよこ豆やじゃがいもと合わせて食べます。

キューバでは、1857年にはすでにロパ・ビエハが作られていた記録があります。キューバの人々は、これをトマトとピーマンのソースで煮る料理に育て、今では国を代表する料理のひとつと言われるようになりました。

食べられなかった時代

ソビエト連邦の崩壊後、キューバが深刻な物不足に陥った「特別期間」には、牛肉が手に入らなくなり、ロパ・ビエハは多くの人の食卓から消えました。羊肉や豚肉で作る人もいたそうです。2010年に個人経営のレストラン「パラダール」が合法になってから、ロパ・ビエハは再び店で食べられるようになりました。

付け合わせは白いご飯、黒豆、マドゥーロス

キューバでは、ロパ・ビエハに白いご飯と黒豆を添えるのが定番です。黒豆とご飯を一緒に炊いた「モロス・イ・クリスティアノス」を合わせることもあります。

もうひとつ欠かせないのが「マドゥーロス」です。マドゥーロは「熟した」という意味で、よく熟した調理用バナナ(プランテン)を厚めに切って、油できつね色に揚げ焼きにしたものです。熟すとでんぷんの一部が糖に変わるので、揚げると甘く、表面がカラメルのように香ばしくなります。塩けのある肉と黒豆、甘いバナナを一緒に口に運ぶのがキューバの食べ方です。

ロパ・ビエハのレシピ:材料(4〜6人分)

牛肉の煮込み

  • 牛すね肉(ブロック)(Amazon|楽天)1kg
  • 塩10g(肉の重さの1%)
  • 黒こしょう少々
  • オリーブオイル大さじ2(24g)
  • 玉ねぎ1/2個(100g)
  • にんにく2片(10g)
  • ローリエ2枚
  • 辛口の白ワイン120ml
  • 水500〜600ml

本場で使うのは牛のフランク(スペイン語でfalda)です。日本ではブロックで手に入りにくいので、牛すね肉を使います。代わりの部位の選び方は「本場との違い」で説明します。

ソフリートとソース

  • オリーブオイル大さじ3(36g)
  • 玉ねぎ(薄切り)1個(200g)
  • ピーマン(1cm幅の細切り)4個(160g)
  • 赤パプリカ(1cm幅の細切り)1個(150g)
  • にんにく(みじん切り)4片(20g)
  • クミンパウダー(Amazon|楽天)小さじ1(2g)
  • オレガノ(乾燥)(Amazon|楽天)小さじ1(1g)
  • トマトピューレ200g
  • 煮汁(牛肉を煮た汁)200〜300ml
  • グリーンオリーブ(種なし、好みで)12粒(40g)
  • 白ワインビネガー小さじ1(5ml)
  • 塩、黒こしょう適量
  • シラントロ(パクチー)(好みで、仕上げ用)少々

ソフリートは、玉ねぎ、ピーマン、にんにくなどを油でじっくり炒めた、キューバ料理の味の土台です。グリーンオリーブは入れる家庭と入れない家庭があります。入れると塩けと酸味が加わります。

付け合わせ

  • 白いご飯(長粒米)(Amazon|楽天)2合(300g)
  • 黒豆(ブラックビーンズ缶)(Amazon|楽天)1缶(400g)
  • 調理用バナナ(プランテン。日本ではフィリピン産のサババナナが手に入りやすい。皮が黒くなるまで熟したもの)(Amazon)2本
  • 揚げ焼き用のサラダ油大さじ3(36g)

道具

  • ダッチオーブン(直径22〜24cm、ふたつき):コンロで焼き付けてから、そのままオーブンに入れられます(Amazon|楽天)
  • フォーク2本(肉を裂く用)

作り方

  1. 肉を切る

    牛すね肉の繊維の向きを確かめ、繊維を断つ方向に10〜12cmの長さに切り分ける。太いところは繊維に沿って縦に切り、5cm角ほどの太さにそろえる。

  2. 塩をする

    肉の水けをふき、塩10gと黒こしょうを全体にすり込む。時間があれば、この状態で冷蔵庫に一晩おく。

  3. オーブンを予熱する

    オーブンを150〜160℃に予熱する。

  4. 焼き付ける

    ダッチオーブンにオリーブオイル大さじ2を中火〜強火で熱し、肉の全面に濃い焼き色をつける(8〜10分)。一度に入れきれないときは、2回に分けて焼く。

  5. 煮汁を作る

    肉を取り出し、鍋に白ワインを入れて、底についた焼き色を木べらでこそげ落とす。ざく切りの玉ねぎ、つぶしたにんにく、ローリエ、肉を戻し入れ、肉がほぼかぶるくらいまで水を加えて沸騰させる。

  6. オーブンで煮込む

    ふたをしてオーブンに入れ、150〜160℃で2時間半〜3時間半煮込む。途中で一度肉を返す。

  7. 煮え具合を確かめる

    肉にフォークを刺してひねり、繊維に沿って抵抗なくほどければ煮上がり。かたいときは20〜30分ずつ追加で煮る。

  8. 裂く

    肉を取り出し、手でさわれるくらいまで10〜15分冷ます。フォーク2本を使い、繊維に沿って5mm幅ほどに裂く。煮汁はこして、上に浮いた脂を取り除いておく。

  9. ソフリートを作る

    鍋を洗ってふき、オリーブオイル大さじ3を中火で熱する。玉ねぎを入れて5〜7分炒め、しんなりしたらピーマンと赤パプリカを加えてさらに5〜6分炒める。にんにく、クミン、オレガノを加えて30秒ほど、香りが立つまで炒める。

  10. ソースで煮る

    トマトピューレと煮汁200mlを加えて混ぜ、裂いた肉とオリーブを入れる。弱火でふたをせずに15〜20分、ときどき混ぜながら煮る。汁けが少なくなったら煮汁を足す。

  11. 仕上げる

    白ワインビネガーを加え、塩と黒こしょうで味をととのえる。好みでシラントロを散らす。

  12. マドゥーロスを焼く

    プランテンの皮をむき、斜めに1.5cm厚さに切る。フライパンにサラダ油を中火で熱し、片面2〜3分ずつ、濃いきつね色になるまで揚げ焼きにする。

  13. 盛りつける

    皿に白いご飯、温めた黒豆、ロパ・ビエハ、マドゥーロスを盛り合わせる。

料理科学:肉はなぜ繊維に沿って裂けるのか

肉は細い繊維の束でできている

肉は、筋肉の細胞である「筋線維」が集まってできています。筋線維は髪の毛ほどの太さの細長い細胞で、これがたくさん集まって束になり、その束がさらに集まってひとつの筋肉になります。

まな板の上で、煮込んだ牛肉のかたまりと、繊維に沿って細く裂いた肉。奥に煮汁の入った鍋

この線維や束をまとめているのが、コラーゲンでできた膜(結合組織)です。1本1本の筋線維を包む薄い膜、10〜100本ほどの線維をまとめて束にする少し厚い膜、筋肉全体を包む厚い膜が、ひと続きの網のようにつながっています。肉の表面に見える筋状の模様、いわゆる「肉の目(繊維の向き)」は、この束が並んでいる方向です。

長く煮ると、束をつなぐコラーゲンがほどける

肉を加熱すると、筋線維そのものは縮んでかたくなり、水分を押し出します。焼いた肉が煮すぎるとパサつくのはこのためです。

一方、束と束をつないでいるコラーゲンは、65℃前後を超えたあたりから構造がほどけはじめ、長い時間をかけてゼラチンに変わっていきます。この変化はゆっくりで、何時間も加熱を続ける必要があります。ゼラチンは温かいうちは液体のようにやわらかいので、束どうしをつなぎとめる力がなくなります。

つまり長く煮た肉では、筋線維の1本1本はひも状に残ったまま、そのあいだの「のり」だけが溶けた状態になっています。だから肉は、線維を横に断ち切る方向には崩れにくく、線維に沿った方向にはするすると分かれていきます。ロパ・ビエハの「古着」のような見た目は、この筋肉の構造そのものです。手順7でフォークをひねって確かめるのは、このコラーゲンのほどけ具合です。最後は時間ではなく、肉がほどけるかどうかで判断します。

なお、年をとった牛のコラーゲンほど熱でほどけにくいことが知られています。同じ部位でも煮える時間に幅があるのはこのためです。

コラーゲンがゼラチンに変わる仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。

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フランクが裂きやすい理由

フランクは、牛の脇腹の、よく動く筋肉です。線維が太くはっきりしていて、ステーキ肉として売られている形では、線維がほぼ一方向にそろって走っています。ステーキにすると、この太い線維がかみ切りにくいので、線維を断つ方向に薄く切って食べます。

ところが煮込みでは、この性質が逆に役立ちます。太い線維が一方向にそろっているので、煮たあとに長く均一な糸のように裂けるのです。本場でフランクが選ばれるのはこのためです。

切ってから煮ると、裂いた肉の長さがそろう

手順1で、肉を繊維を断つ方向に10〜12cmの長さに切ってから煮るのは、裂いたときの糸の長さを決めるためです。肉は繊維に沿って裂けるので、繊維が長いまま煮ると、裂いた肉も長くなりすぎて食べにくくなります。先に繊維の長さを切りそろえておけば、ひと口で食べやすい長さの肉がそろいます。小さく切っておくと、熱が中まで早く伝わり、煮込み時間も短くなります。

手順4の焼き付けは、肉汁を閉じこめるためではありません。表面に濃い焼き色をつけ、たんぱく質と糖が反応してできる香ばしい風味(メイラード反応)を、肉と煮汁に加えるためです。

焼き色が生まれるメイラード反応は、こちらの記事で詳しく解説しています。

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裂いてからソースで煮る理由

肉を細く裂くと表面積が大きく増え、ソースが肉の1本1本にからみます。煮汁にはコラーゲンから溶け出したゼラチンが含まれているので、ソースにとろみとこくが出ます。煮汁を捨てずにソースに使うのはこのためです。

本場との違い

  • 肉の部位:本場は牛のフランク(falda)です。日本では「ササミ」「ササバラ」などの名前で焼肉用に出回る部位にあたりますが、霜降りの焼肉用として少量売られることが多く、煮込み用のブロックは手に入りにくいです。代わりに、日本のスーパーで買いやすい牛すね肉を使っています。すね肉はよく動く脚の筋肉で、脂が少なく、筋(コラーゲン)が多いのが特徴です。短時間ではかたいですが、長く煮るとゼラチン化してやわらかくなり、繊維に沿ってよく裂けます。牛肩ロースのブロック(Amazon|楽天)でも作れます。脂が多めで、しっとりとこくのある仕上がりになります。
  • 煮る方法:キューバの家庭では、肉を香味野菜と一緒に鍋や圧力鍋でゆでてから裂くのが一般的です。家庭版では、ダッチオーブンごとオーブンに入れて、まわりから均一に加熱しています。
  • ワイン:キューバでは「ビノ・セコ」という料理用の辛口ワインを使います。日本では辛口の白ワインで代用しています。
  • ピーマン:キューバではピーマンのほか、甘く細長い「キューバネル」という唐辛子も使われます。日本ではピーマンと赤パプリカで作っています。
  • マドゥーロス:調理用バナナ(プランテン)は、普通のバナナよりでんぷんが多く、糖が少ないバナナです。輸入食材店や通販で手に入ります。普通のバナナで作ると、甘みが強くやわらかいので崩れやすくなります。その場合は厚めに切って、短時間で焼いてください。

食べ方

本場と同じように、白いご飯と黒豆、マドゥーロスを1枚の皿に盛り合わせて食べるのがおすすめです。ご飯に黒豆の煮汁とロパ・ビエハのソースをしみこませて、甘いマドゥーロスと交互に食べます。

温めたコーントルティーヤ(Amazon|楽天)で包んで、タコスにしてもおいしく食べられます。同じように煮込んで裂く肉料理の作り方も紹介しています。

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保存

  • 冷蔵:保存容器に入れて3日程度。ひと晩おくと、ソースの味が肉になじみます
  • 冷凍:ソースごと小分けにして1か月程度。冷蔵庫で解凍して、鍋で温め直します
  • マドゥーロス:焼きたてがいちばんおいしいので、食べる直前に焼いてください

もっと知りたい人へ

肉の構造やコラーゲンが煮込みで変化する仕組みを詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。