粗塩をふって焼いた、骨の断面が並ぶ帯状の骨付きカルビ。手前は骨ごとに切り分けられ、右にパセリと赤唐辛子の入ったチミチュリの器
中南米・カリブ

家庭のオーブンで作るアサードとチミチュリ

地域
アルゼンチン
分量
4人分
公開

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アサードは、アルゼンチンの人たちが週末ごとに家族や友人と囲む炭火焼きです。なかでも欠かせないのが、骨付きのばら肉を骨に直角に帯状に切った「ティラ・デ・アサード」。粗塩だけをふって炭火でじっくり焼き、パセリとにんにく、オレガノを酢と油で合わせた生のソース「チミチュリ」を添えて食べます。

この部位は、日本では「骨付きカルビ」や「LAカルビ」の名前で売られています。炭火の代わりに家庭のオーブンを使い、低めの温度で時間をかけてから最後に強く焼き色をつければ、脂が溶けて香ばしいティラ・デ・アサードが焼き上がります。

本場のアサードとは

アサード(asado)は、スペイン語で「焼いたもの」という意味です。アルゼンチンやウルグアイでは、炭火で肉を焼く料理の名前であると同時に、その焼き肉を囲む集まりそのものを指す言葉でもあります。

パンパのガウチョから始まった

アサードの起源は、アルゼンチンの大草原パンパで牛を追っていたカウボーイ「ガウチョ」の食事にさかのぼるとされています。19世紀のはじめごろ、ガウチョたちは野外のたき火で牛肉を焼き、味つけはほとんど塩だけでした。

伝統的な焼き方は、肉や動物一頭を鉄の串に広げて地面に立て、薪の火のまわりで焼く「アサード・ア・ラ・クルス(十字架のアサード)」です。やがて、炭やおき火の上に鉄の焼き網を置いて焼く「パリージャ」が広まりました。パリージャはスペイン語で「焼き網」のことで、アルゼンチンでは焼き肉店のこともパリージャと呼びます。

焼き手アサドールと日曜日の集まり

アサードでは、焼く担当の人が一人決まっています。この人を「アサドール(焼き手)」と呼びます。アサドールは火をおこし、おき火の量と肉からの距離を調整して、それぞれの肉の焼き加減を見ます。肉にさわったり火の番をしたりするのは、アサドールだけの役目とされています。

アルゼンチン政府観光局のサイトは、「アルゼンチンの日曜日は祝日のようなもの」と書いています。多くの家庭で日曜日にアサードを開き、家族や友人が集まって何時間もかけて食べます。食事の最後には、「アサドールに拍手を(Un aplauso para el asador)」と声をかけ、焼き手に拍手を送るのが決まりです。

焼く順番と味つけ

アサードは、焼き上がったものから順番に出てきます。最初はチョリソ(生ソーセージ)をパンにはさんだ「チョリパン」や、モルシージャ(血のソーセージ)、チンチュリネス(牛の小腸)、モジェハ(胸腺)などの内臓「アチューラ」。続いてティラ・デ・アサード、そのあとにバシオ(ともばら)やマタンブレなどが続きます。

肉はマリネせず、粗塩だけで味をつけます。火からの距離と熱を調整して、2時間ほどかけてゆっくり焼くのが本場のやり方です。

ティラ・デ・アサードとLAカルビ

ティラ・デ・アサード(tira de asado)は、牛のあばら骨の部分(ばら肉)を、骨に直角に帯状に切ったものです。「ティラ」は「帯」という意味で、1枚の帯に骨の断面がいくつも並びます。両側に脂があって、真ん中に赤身がある肉がよいとされます。本場では2〜2.5cmほどの厚さに切るのが一般的です。

同じ切り方は、韓国料理の「LAカルビ」にも見られます。LAカルビは同じように骨に直角に切りますが、厚さは6mmほどと薄めです。名前の由来は、ロサンゼルス(LA)に住む韓国系の人たちが考えた切り方だという説と、「横に(lateral)切る」の頭文字だという説があります。日本でも「骨付きカルビ」「LAカルビ」として、味つけなしの冷凍品が通販で手に入ります。

チミチュリ

チミチュリ(chimichurri)は、刻んだパセリ、乾燥オレガノ、にんにく、唐辛子を、酢と油で合わせた加熱しないソースです。アルゼンチン生まれで、ウルグアイやパラグアイ、ブラジルでも使われます。

名前の由来ははっきりしていません。19世紀に多くの人が移り住んだバスク地方の言葉で「ごちゃ混ぜ」を意味する「チミチュリ(tximitxurri)」から来たという説があります。「ジミー・カレー」という英国人の名前から来たという話も広く知られていますが、裏付ける記録は見つかっていません。

アサードとチミチュリのレシピ:材料(4人分)

ティラ・デ・アサード

  • 骨付きカルビ(骨に直角に切ったもの、味つけなし、厚さ1.5〜2.5cm)(Amazon|楽天)1.2kg
  • 粗塩(Amazon|楽天)肉の重さの1〜1.2%12〜15g

本場では「サル・パリジェーラ(焼き肉用の塩)」と呼ばれる粒の粗い塩を、両面にたっぷりふります。

LAカルビとして売られている薄いもの(6mm〜1cm)でも作れます。その場合は作り方の「薄い肉の場合」の手順で焼いてください。タレに漬けた味つけカルビは使いません。

チミチュリ(作りやすい分量、約300ml)

  • イタリアンパセリ1束(50g)
  • 乾燥オレガノ(Amazon|楽天)小さじ2(2g)
  • にんにく4片(20g)
  • 赤唐辛子(粗挽き)(Amazon|楽天)小さじ1/2(1g)
  • 赤ワインビネガー60ml(大さじ4)
  • オリーブオイル(エクストラバージン)120ml
  • 塩小さじ1(5g)
  • 湯大さじ4(60ml)

アルゼンチンのチミチュリには、「アヒ・モリード」という粗挽きの赤唐辛子を使います。日本では手に入りにくいので、ピザなどにかけるクラッシュドレッドペッパーで代用します。パセリは、葉が平たいイタリアンパセリを使います。

付け合わせ(好みで)

  • グリーンサラダ(レタス、トマト、玉ねぎ)、パン

道具

  • 天板と焼き網:肉を網にのせて、下からも熱が当たるようにします(Amazon|楽天)
  • 包丁とまな板(チミチュリ用)

作り方

チミチュリ(肉を焼く1時間以上前に作る)

  1. オレガノを戻す

    小さなボウルに湯、乾燥オレガノ、塩を入れて混ぜ、5分おいてオレガノをやわらかくする。

  2. 刻む

    イタリアンパセリは葉と細い茎を細かく刻む。にんにくはみじん切りにする。

  3. 合わせる

    ボウルにパセリ、にんにく、赤唐辛子、1のオレガノ液、赤ワインビネガーを入れて混ぜる。

  4. オイルを加える

    オリーブオイルを少しずつ加えながら、スプーンや泡立て器で手で混ぜる(ミキサーにはかけない)。

  5. 置く

    ふたをして、常温で1時間以上おく。

ティラ・デ・アサード(厚さ1.5〜2.5cmの場合)

  1. 水けをふく

    冷凍の肉は前日に冷蔵庫に移して解凍しておく。キッチンペーパーで表面の水けをしっかりふき、骨のかけらがあれば取り除く。

  2. オーブンを予熱する

    オーブンを140〜150℃に予熱する。

  3. 塩をする

    焼く直前に、粗塩を肉の両面にまんべんなくふる。

  4. 低温で焼く

    天板に焼き網をのせ、肉を重ならないように並べる。140〜150℃で60〜90分焼く。途中で1回裏返す。

  5. やわらかさを確かめる

    いちばん厚い部分に竹串を刺し、すっと通れば、結合組織がやわらかくなっている。かたければ10〜15分ずつ追加で焼く。

  6. 強火で焼き色をつける

    オーブンを250℃(またはグリル機能の強)に上げ、表面の脂がジュッと音を立てて、こんがりと焼き色がつくまで5〜10分焼く。焦げやすいので、途中で様子を見る。

  7. 休ませる

    取り出して5分休ませる。

  8. 切り分ける

    骨と骨の間に包丁を入れて食べやすく切り分け、チミチュリを添える。

薄い肉の場合(LAカルビ、厚さ6mm〜1cm)

  1. 予熱する

    オーブンを250℃に予熱する(グリル機能があれば強で予熱する)。

  2. 塩をして焼く

    焼く直前に粗塩をふり、焼き網にのせて上段で6〜8分焼き、裏返して3〜5分焼く。薄い肉は短時間で中まで火が通るので、低温で長く焼く手順は省く。

  3. 仕上げる

    両面にこんがりと焼き色がつけば焼き上がり。チミチュリを添える。

料理科学:骨付きばら肉を低めの温度で焼く理由

ばら肉は結合組織が多い

ティラ・デ・アサードに使うばら肉は、あばら骨のまわりの、よく動かす筋肉です。肉の繊維を束ねる「結合組織」が多く、骨と肉の間にも膜があります。結合組織の主成分は「コラーゲン」というかたいたんぱく質です。ステーキのように短時間で焼くと、コラーゲンがかたいまま残り、かみ切りにくい肉になります。

コラーゲンは、肉の温度が60℃を超えたあたりからほどけはじめ、時間をかけてやわらかい「ゼラチン」に変わります。アメリカの料理研究機関アメリカズ・テスト・キッチンは、かたい部位は肉の温度を70〜80℃あたりに長く保つと、コラーゲンが十分に分解されるとしています。ゼラチンは水分を抱え込むので、肉はしっとりと感じられます。

かたい肉のコラーゲンがゼラチンに変わる仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。

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低めの温度は外と中の差を小さくする

高温のオーブンに入れると、中のコラーゲンがやわらかくなる前に、外側だけが焼けすぎて乾いてしまいます。140〜150℃の低めの温度で焼くと、肉の外側と中心の温度差が小さくなり、全体が均一に火が通ります。そのぶん、中心が70℃台を通る時間が長くなり、コラーゲンが分解する時間をかせげます。手順4で60〜90分かけるのはこのためです。

赤身の少ない脂の多い部位なので、低温で長く焼いてもぱさつきにくいのも、この焼き方に向いている点です。本場のアサドールが、おき火から距離をとって2時間ほどかけて焼くのも、同じ理由です。

焼き色は最後につける

低温で焼いただけの肉は、表面が白っぽく、香ばしさが足りません。焼き色と香ばしさは、アミノ酸と糖が高温で反応する「メイラード反応」によるもので、表面の水分が飛んで温度が上がってから盛んに進みます。手順6で最後に250℃まで上げるのは、炭火で焼いた表面の香ばしさを出すためです。

この焼き付けは香りのためのもので、肉汁を閉じ込めるためのものではありません。最後にすると、焼き色の具合を見ながら止められます。

屋外の炭火の焼き網で焼かれる骨付きカルビとソーセージ。奥で薪が燃えている

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チミチュリのオイルは手で混ぜてから置く

チミチュリのオリーブオイルは、ミキサーにかけずに手で混ぜます。アメリカズ・テスト・キッチンによると、ミキサーで激しくかき混ぜるとオイルがとても細かい粒になり、オリーブオイルに含まれる苦み成分(ポリフェノール)が表に出て、ソースが苦くなります。手で混ぜれば、オリーブオイルのフルーティな香りが残ります。

乾燥オレガノを先に湯につけるのは、葉をやわらかくして、ソースの中でかたい粒が残らないようにするためです。できあがったソースは、同じくアメリカズ・テスト・キッチンのレシピにならって、常温で1時間以上おいてから使います。

本場との違い

  • 焼き方:本場はパリージャの上で、薪や炭のおき火で2時間ほどかけて焼きます。家庭版は、オーブンの低温で時間をかけ、最後に高温で焼き色をつけます。
  • 炭の香り:炭火の煙の香りはつきません。チミチュリの酢とにんにくの香りで食べる料理として作っています。
  • 肉の厚さ:本場のティラ・デ・アサードは2〜2.5cmほどの厚さです。日本で売られているLAカルビは薄いものが多いので、厚いものが手に入らなければ「薄い肉の場合」の手順で焼きます。
  • 唐辛子:アヒ・モリードの代わりに、クラッシュドレッドペッパーを使っています。
  • チミチュリの使い方:アルゼンチンでは、チミチュリは伝統的に内臓やチョリパンに添えるもので、ステーキには使わないとも言われます。まずは塩だけで一口食べてから、チミチュリをのせてみてください。

食べ方

骨と骨の間で切り分けて、熱いうちにチミチュリをのせて食べます。付け合わせは、レタスとトマト、玉ねぎのシンプルなサラダとパンが定番です。トマトと玉ねぎを酢と油で和えた「サルサ・クリオージャ」を添えることもあります。アサードの飲み物は、ワインとビールが定番です。

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保存

  • アサード:骨から外して保存容器に入れ、冷蔵で2日程度
  • チミチュリ:冷蔵で2日程度。使う前に常温に戻して混ぜ直す。時間がたつとパセリの色がくすんでくるので、早めに使い切ってください

もっと知りたい人へ

肉の結合組織や焼き加減の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。

マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)

炭火焼きの科学をもっと知りたい人には、バーベキューの科学を解説した本もあります。

Meathead: The Science of Great Barbecue and Grilling(Amazon|楽天)

出典

本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。