
家庭のオーブンで作るピッカーニャ(シュラスコ)
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ピッカーニャは、ブラジルのシュラスコでいちばん人気のある牛肉の部位です。厚い脂の層がついたまま、粗塩だけで焼き上げ、脂の甘みと赤身のうま味を味わいます。
シュラスコ店では大きな串に刺して炭火で焼きますが、低温のオーブンでじっくり火を通してから、最後に脂の面をフライパンで焼けば、家庭でも中までむらなくロゼ色に焼き上がります。
本場のピッカーニャとは
ブラジルのシュラスコ
シュラスコ(churrasco)は、肉を大きな串に刺して炭火で焼く、ブラジル南部生まれのバーベキューです。牛肉のほか、豚肉、ソーセージ、鶏肉などを焼きます。
ブラジルのシュラスコ店「シュハスカリア」では、店員が焼き上がった肉を串ごとテーブルに運び、目の前で切り分けてくれます。食べ放題のこのスタイルは「ロディージオ」と呼ばれ、日本でもブラジル料理店でおなじみになりました。
ピッカーニャという部位
ピッカーニャ(picanha)は、牛のお尻の部分の肉です。もも肉の一部の三角形の筋肉で、表面に厚い脂の層がついています。日本では、ランプに近い「イチボ」にあたる部位として売られていることが多い肉です。ただし、日本のスーパーや精肉店のイチボは、この脂の層がほとんど取り除かれていることが多く、脂つきのものは輸入肉の専門店や通販で「脂つき」「ピッカーニャ」として探すのが確実です。名前の由来ははっきりしていませんが、ポルトガルやスペインで牛を追うのに使った「ピカーナ」という棒から来たという説があります。
ブラジルでは最も人気のある部位で、脂の層をつけたまま、粗塩だけで焼くのが伝統です。シュラスコ店では、ピッカーニャを厚く切って脂を外側にしてC字形に曲げ、串に刺して焼きます。焼けた表面を薄くそぎ切りにして出し、残りはまた焼き続けます。
付け合わせ
シュラスコには、「ファロファ」と「ビナグレッチ」が欠かせません。ファロファは、キャッサバ(マンジョカ)という芋の粉をバターで炒めた、香ばしいふりかけのようなものです。肉にかけて、脂や肉汁を吸わせて食べます。ビナグレッチは、トマトや玉ねぎ、ピーマンを酢と油で和えたさっぱりしたソースで、脂の多い肉によく合います。
ピッカーニャのレシピ:材料(4〜6人分)
肉
ブラジルでは「サル・グロッソ」と呼ばれる、粒の大きい粗塩を使います。日本の粗塩や岩塩で代用できます。
ビナグレッチ
- トマト(5mm角)1個(150g)
- 玉ねぎ(みじん切り)1/4個(50g)
- ピーマン(5mm角)1個(30g)
- パセリ(みじん切り)大さじ1
- 酢(白ワインビネガーまたは穀物酢)大さじ2(30ml)
- オリーブオイル大さじ2(24g)
- 塩小さじ1/2(3g)
ファロファ
- マンジョカ粉(キャッサバの粉)(楽天)100g
- バター30g
- 玉ねぎ(みじん切り)1/4個(50g)
- ベーコン(細切り、好みで)40g
- 塩小さじ1/4(1.5g)
マンジョカ粉は、ブラジル食材店や通販で「ファリーニャ・デ・マンジョカ」として売られています。味つけ済みの「ファロファ・プロンタ」を使えば、炒めずにそのままかけられます。
道具
- 料理用温度計(肉に刺してすぐ測れるタイプ)(Amazon|楽天)
- ワイヤレス温度計(あれば):肉に刺したままオーブンで焼ける温度計です(Amazon)
- 天板と焼き網(Amazon|楽天)
- 鋳鉄のスキレット(または厚手のフライパン)(Amazon|楽天)
作り方
脂に切り込みを入れる
脂の層が5mm以上ついていれば、2cm間隔で格子状の切り込みを入れる。肉まで切らないように、脂の厚みの途中までにする。脂がほとんどついていない場合は、この手順は省く。
塩をふる
粗塩を肉の全面にまぶす(切り込みを入れた場合は、切り込みの中まで)。網をのせたバットに置き、ラップをせずに冷蔵庫で1時間〜一晩おく。
オーブンを予熱する
オーブンを120℃に予熱する。焼く30分前に肉を冷蔵庫から出しておく。
低温で焼く
天板に焼き網をのせ、脂を上にして肉を置く。120℃で、肉のいちばん厚い部分の中心温度が50℃になるまで焼く。50〜70分が目安。ワイヤレス温度計を使う場合は、焼く前に中心に刺しておく。使わない場合は40分たったら測り、10分ごとに確かめる。
付け合わせを作る
肉を焼いている間に、ビナグレッチの材料を混ぜて冷蔵庫で冷やす。ファロファは、フライパンにバターを溶かして玉ねぎとベーコンを3分炒め、マンジョカ粉と塩を加えて、弱めの中火で5〜7分、きつね色になるまで炒める。
表面を焼く
スキレットを強めの中火で熱し、油をひかずに脂の面を下にして肉を入れる。脂が溶け出してきつね色にカリッとなるまで4〜5分焼く。赤身の面も30秒〜1分ずつ焼き色をつける。脂がほとんどない肉なら、サラダ油を小さじ1ひいて、各面を1分ずつ焼く。焼き終わりの中心温度は53〜55℃が目安。
休ませる
まな板に移して5分休ませる。休ませる間に余熱で中心温度が上がり、55〜57℃のミディアムレアに仕上がる。
切る
繊維を断つ向きに、1cm厚さに切る。ファロファとビナグレッチを添える。
料理科学:低温で焼いてから最後に焼き色をつける
先に低温で焼く「リバースシア」
ステーキなどは、ふつう最初にフライパンで焼き色をつけてからオーブンで火を通します。今回はその逆で、先に低温のオーブンで中まで火を通し、最後にフライパンで焼き色をつけています。英語で「逆の焼き付け」という意味の「リバースシア」と呼ばれる焼き方です。
高温で焼くと、肉の外側から中心に向かって温度の差が大きくなります。中心がちょうどよい温度になったときには、外側は焼きすぎて灰色に縮んだ層が厚くできてしまいます。120℃の低温でゆっくり焼くと、外側と中心の温度の差が小さいまま火が通るので、切ったときに端から端までむらのないロゼ色になります。
低温でじっくり焼くあいだに肉の表面は乾いていくので、最後にフライパンに入れると、すぐに焼き色がつきます。焼き色と香ばしさは、たんぱく質のもとになるアミノ酸と糖が反応する「メイラード反応」によるもので、表面が乾いているほど早く進みます。
焼き色と香りのもとになるメイラード反応は、こちらの記事で詳しく解説しています。
メイラード反応とカラメル化:焼き色と香りの正体焼いた肉や玉ねぎが茶色く香ばしくなる理由を、メイラード反応とカラメル化の違いから解説します。焼き色は表面が乾いてからつく仕組み、焦げとの境目、焼き付けで肉汁は閉じ込められない理由、BBQのバークの正体が分かります。
脂を「溶かす」ように焼く
ピッカーニャの一番のごちそうは、厚い脂の層です。脂の層を生焼けのまま食べると、ぐにゃりとした食感で、脂っこさだけが残ります。じっくり熱を加えて脂を溶かし出し、表面をカリッと焼き上げることを「レンダリング」と呼びます。
手順1で脂に格子状の切り込みを入れるのは、熱が脂の内側まで届きやすくなり、溶けた脂が外に流れ出す通り道ができるからです。牛の脂は豚の脂より溶ける温度が高く、口の中で溶けにくい性質があります。手順6で脂の面を時間をかけて焼くのは、脂をしっかり溶かして、香ばしく軽い食感に変えるためです。
粗塩を使う理由
シュラスコで粒の大きい粗塩を使うのには理由があります。粗塩は粒が大きいので、肉の表面で一度に溶けず、ゆっくり溶けていきます。焼いている途中で落ちにくく、表面に残った粒はかむとほどよい塩味を感じさせてくれます。本場では、焼き上がった肉の表面の余分な塩を、軽くたたいて落としてから切り分けることもあります。
中まで火を通しすぎない理由
牛肉の赤身は、中心温度が上がるにつれて筋肉のたんぱく質が縮み、肉汁を押し出していきます。55〜57℃のミディアムレアなら、肉汁を多く残したまま、赤身の柔らかさを味わえます。ピッカーニャは結合組織が少なく、プルドポークのように長時間加熱してコラーゲンを溶かす必要がない部位なので、短時間で焼き上げます。
牛肉の塊は、菌がいるのは主に表面で、中心部はほぼ無菌とされています。表面をしっかり焼けば、中がロゼ色でも食べられます。ただし、ひき肉や、筋切りや味つけのために針を刺した肉は中まで菌が入り込んでいるので、中心まで十分に加熱してください。
牛肉の焼き加減ごとの中心温度の目安と温度計の使い方は、こちらの記事で詳しく解説しています。
中心温度計:塊肉を焼くときにいちばん大事な道具塊肉の火の通りを確かめる中心温度計の解説。オーブンの温度のずれや余熱で焼き時間が当てにならない理由、鶏肉・豚肉・牛肉・BBQの中心温度の目安、温度計の種類と選び方、正しい刺し方と氷水での校正が分かります。
本場との違い
- 焼き方:本場はC字形に曲げた肉を串に刺して炭火で焼き、表面から切り分けます。家庭版は塊のまま低温のオーブンで火を通し、最後にフライパンで焼きます。
- 炭火の香り:オーブンでは炭火の香りはつきませんが、脂を香ばしく焼くことで、シュラスコらしい味わいに近づけています。
食べ方
切り分けたピッカーニャにファロファをかけ、ビナグレッチをのせて食べます。ご飯と黒豆の煮込み(フェイジャオン)を添えれば、ブラジルの家庭のシュラスコの献立になります。飲み物は、ブラジルのライムのカクテル「カイピリーニャ」がよく合います。

ピッカーニャによく合うカイピリーニャと、黒いんげん豆と豚肉の煮込みフェイジョアーダの作り方も紹介しています。
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保存
- 冷蔵:切らずに塊のままラップで包んで2〜3日程度
- 温め直し:薄く切って、熱したフライパンで両面をさっと焼くと、火を通しすぎずに食べられます
もっと知りたい人へ
肉の焼き方の科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
マギー キッチンサイエンス(ハロルド・マギー『On Food and Cooking』の日本語版)(Amazon|楽天)
出典
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。