
家庭のオーブンで作るフェイジョアーダ
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フェイジョアーダは、黒いんげん豆と何種類もの豚肉や干し肉を、黒く濃い煮汁になるまで煮込んだブラジルの国民食です。白いご飯にかけ、香ばしいキャッサバの粉「ファロファ」、にんにくで炒めた青菜、オレンジを添えて、週末の昼にゆっくり食べます。
本場では大鍋をコンロで何時間も煮ますが、ダッチオーブンに入れてオーブンに任せれば、焦げつきを気にせず放っておけます。豚の皮や足から溶け出すゼラチンで、煮汁はとろりと仕上がります。
本場のフェイジョアーダとは
フェイジョアーダ(feijoada)は、ポルトガル語の「フェイジャン(feijão=豆)」から来た名前です。ポルトガル語圏では豆の煮込み全般を指しますが、ブラジルで単にフェイジョアーダといえば、黒いんげん豆(フェイジャン・プレット)と塩漬けや燻製の豚肉、牛の干し肉を煮込んだこの料理を指します。
本格的なものは「フェイジョアーダ・コンプレッタ(完全なフェイジョアーダ)」と呼ばれます。豚の耳やしっぽ、足、ベーコン、燻製のスペアリブ、2種類以上の燻製ソーセージ、「カルネ・セッカ」と呼ばれる塩漬けの干し牛肉などが入ります。煮汁は黒に近い紫がかった茶色で、塩けはしっかりありますが、辛くはありません。
「奴隷の料理」説は本当か
フェイジョアーダには、「農園の奴隷たちが、主人の捨てた豚の耳や足、しっぽをもらって豆と煮込んだのが始まり」という有名な話があります。ブラジルでも広く信じられていますが、歴史の研究では裏付けがないとされています。歴史家のカルロス・アウグスト・ディタディは、1998年の雑誌記事で、この話を奴隷制を美化した近代の民間伝承だと述べています。
もともとイベリア半島の料理では、内臓や足などの部位もふつうに食べられていました。ポルトガル北部には、豆と肉と野菜を土鍋で煮込む料理があり、ブラジルのフェイジョアーダはこれがもとになったと考えられています。フランスのカスレ(白いんげん豆と肉の煮込み)と同じ系統の料理だ、と見る人もいます。
一方で、農園の台所でアフリカ出身の人々が料理を担っていたことは確かで、食文化の研究者ラウル・ロディは、そのために「奴隷の料理」というイメージが生まれたと指摘しています。ただし、この美しい物語は、奴隷制の過酷さを覆い隠してしまうという批判もあります。
記録に残る早い例は、1820〜30年代にブラジル北東部の新聞に載ったレストランの広告で、「ブラジル風フェイジョアーダ」がメニューとして紹介されています。19世紀の後半には広く食べられるようになり、やがて国を代表する料理になりました。
地域ごとの違いと食べる日
黒いんげん豆を使うのは、リオデジャネイロやサンパウロなどの南東部です。北東部のバイーア州やペルナンブーコ州では、茶色や赤い豆を使い、煮込みの終わりにかぼちゃやキャベツ、バナナなどの野菜を加えることもあります。
フェイジョアーダは土曜の昼や日曜の昼食に、家族や友人と時間をかけて食べる料理です。サンパウロの大衆食堂では、水曜と土曜の定番メニューになっています。
フェイジョアーダのレシピ:材料(6人分)
豆
日本の「黒豆」は大豆の仲間で、別の豆です。フェイジョアーダには使えません。黒いんげん豆はブラジル食材店や通販で手に入ります。
肉
カルネ・セッカが手に入らないときは、牛肩ロースブロック300g(Amazon|楽天)を4cm角に切り、塩小さじ1(6g)をまぶして前日から冷蔵庫に入れておきます。リングイッサの代わりには、日本の粗挽きスモークソーセージが使えます。
煮込み
付け合わせ
- 白いご飯6人分
- ファロファ(キャッサバ粉を炒ったもの)(楽天)適量
- ケール1束(200g)
- にんにく(みじん切り)1片(5g)
- オリーブ油大さじ1(12g)
- オレンジ2個
ブラジルでは、付け合わせの青菜に「コウヴェ」というケールの仲間を使います。日本ではケールで代用できます。
道具
作り方
前日:豆を塩水に浸す
黒いんげん豆を洗い、浮いた豆を取り除く。ボウルに水2.5Lと塩36gを溶かし、豆を入れて8〜12時間浸す。暑い時期は冷蔵庫に入れる。
前日:カルネ・セッカの塩を抜く
カルネ・セッカの余分な脂を落とし、4cm角に切る。ボウルに入れてたっぷりの水に浸し、冷蔵庫で12〜24時間おく。その間に水を3〜4回替える。
肉を切る
スペアリブは骨と骨の間で切り分ける。豚ばらとベーコンは3cm角に切る。リングイッサは丸ごとのままにしておく。
下ゆでする
大きめの鍋に、塩を抜いたカルネ・セッカ、スペアリブ、豚足を入れ、かぶるくらいの水を注いで強火にかける。沸騰したら10分ゆで、ざるにあけて湯を捨てる。
オーブンを予熱する
オーブンを150℃に予熱する。
香味野菜を炒める
ダッチオーブンにオリーブ油とベーコンを入れて中火にかけ、脂が出てくるまで3〜4分炒める。玉ねぎを加え、薄く色づくまで6〜8分炒める。にんにく、クミン、ローリエを加えて1分炒める。
豆と肉を入れる
豆をざるにあけて水で洗い、鍋に加える。下ゆでした肉と豚ばらを入れ、水1.8Lを注ぐ。豆と肉がかぶるくらいが目安。強火で沸騰させ、浮いてきたアクを取る。
オーブンで煮る
ふたをして、150℃のオーブンで2時間煮る。
ソーセージを加える
鍋を取り出し、リングイッサを加える。水が減って具が出ていたら、かぶるくらいまで湯を足す。ふたをして、さらに1〜1時間30分煮る。豆が指で簡単につぶれ、豚足の皮がとろりと柔らかくなれば煮上がり。
仕上げる
リングイッサを取り出して1cm幅の斜め切りにし、鍋に戻す。煮汁が水っぽいときは、ふたを外して20〜30分オーブンで煮詰める。豚足は骨を外して身と皮をほぐして戻してもよい。肉の塩けが煮汁に出ているので、塩は最後に味をみてから足し、黒こしょうをふる。
付け合わせを作る
ケールは芯を除き、葉を重ねて巻き、ごく細い千切りにする。フライパンにオリーブ油とにんにくを入れて中火にかけ、香りが出たらケールを入れて1〜2分さっと炒め、塩をふる。オレンジは皮をむいて輪切りにする。
料理科学:とろみの正体と、豆が柔らかくなる仕組み
豚の皮と足からゼラチンが溶け出す
フェイジョアーダの煮汁は、片栗粉などを使わなくても、とろりと唇にまとわりつくような濃さになります。このとろみの大きな正体は、豚の皮や足、スペアリブの骨のまわりから溶け出すゼラチンです。
豚の皮や足には、「コラーゲン」というたんぱく質がたくさん含まれています。コラーゲンは丈夫な繊維で、皮や腱、軟骨の形を支えています。これを水の中で長い時間加熱すると、繊維がほどけて細かく切れ、水に溶ける「ゼラチン」に変わります。市販のゼラチンの多くも、豚の皮や骨から作られています。
溶け出したゼラチンは水を抱え込み、煮汁に粘りとこくを与えます。皮や足、骨つき肉を何種類も入れるのは、このゼラチンを煮汁に移すためです。手順9で豚足が柔らかくなるまで煮るのも、コラーゲンが十分にゼラチンに変わるまでには時間がかかるからです。
ゼラチンは冷えると固まり、温めると溶けます。残ったフェイジョアーダを冷蔵庫に入れると、煮汁がぷるぷるに固まるのはこのためです。
コラーゲンがゼラチンに変わる仕組みは、こちらの記事で詳しく解説しています。
コラーゲンとゼラチン:かたい肉がほろほろになるまでかたい牛すねやブリスケット、豚の肩肉が、長く加熱するとほろほろになるのはなぜか。コラーゲンが縮む温度とゼラチンに変わる温度と時間、しっとり感の正体、湿熱と乾熱、ストール、圧力鍋との違いが分かります。
豆を柔らかくするのはペクチンの分解
乾燥した豆がかたいのは、豆の細胞の壁が、「ペクチン」や「ヘミセルロース」という炭水化物でしっかりとつながっているからです。煮ると、この細胞壁と中のでんぷんが柔らかくなり、豆はほっくりとつぶれるようになります。
細胞壁のペクチンは、カルシウムやマグネシウムが橋渡しをして固めています。そのため、カルシウムやマグネシウムの多い硬水で煮ると、豆はなかなか柔らかくなりません。トマトや酢などの酸も、細胞壁を安定させて豆を柔らかくなりにくくします。フェイジョアーダには酸っぱい材料を入れないので、この点は心配いりません。オレンジは煮込みには入れず、食べるときに添えます。
塩水に浸すと皮が柔らかくなる
「豆を煮る前に塩を入れると硬くなる」とよく言われますが、これは誤りです。むしろ塩水に浸すと、豆の皮は柔らかくなります。
塩に含まれるナトリウムが、皮のペクチンをつないでいるカルシウムやマグネシウムの一部と入れ替わります。ナトリウムはペクチンをつなぎとめる力が弱いので、ペクチンの結びつきがゆるみ、皮に水が入りやすくなります。皮が柔らかくなると、長く煮ても皮が破れて中身が飛び出しにくくなり、煮上がりも均一でなめらかになります。
浸水すること自体にも意味があります。乾燥した豆は、最初はへその部分からしか水を吸わず、中心まで水が届くのに時間がかかります。一晩浸しておくと、中まで水が入った状態から煮始められるので、煮る時間を短くできます。手順1で塩水に一晩浸すのは、この2つの効果を合わせて得るためです。塩けの強い肉と一緒に何時間も煮るフェイジョアーダでも、豆がきちんと柔らかくなるのは、塩が豆を硬くしないからです。
同じように豆を塩水に浸してから煮る、メキシコのフリホーレス・レフリトスの作り方も紹介しています。
本場フリホーレス・レフリトスのレシピメキシコとテキサスの定番の豆料理フリホーレス・レフリトスを、乾燥ピントビーンズから。塩水に浸して煮た豆を、ラードで炒めながら煮汁でのばしてつぶします。塩水で皮がやわらかくなる理由、酸と硬水の影響、でんぷんの糊化を料理科学で解説します。
本場との違い
- 塩漬けの豚肉:ブラジルでは、塩漬けにした豚のスペアリブやロース、ばら肉を、カルネ・セッカと同じように塩抜きして使います。日本では手に入りにくいので、生のスペアリブと豚ばらを使い、燻製の香りと塩けをベーコンで補っています。
- カルネ・セッカ:ブラジル食材店や通販で冷凍品が手に入ります。ない場合は、前日に塩をまぶした牛肩ロースで代用します。干した肉ならではの凝縮したうまみは弱くなります。
- ソーセージ:本場ではリングイッサのほか、「パイオ」という太い燻製ソーセージも入れます。日本の粗挽きスモークソーセージで代用すると、香りはややおとなしくなります。
- 耳やしっぽ:フェイジョアーダ・コンプレッタには豚の耳やしっぽも入ります。手に入れば豚足と一緒に下ゆでして加えると、さらにとろみが増します。
- 煮方:本場は大鍋をコンロで煮込みます。家庭版はダッチオーブンに入れてオーブンで煮ています。
食べ方
お皿に白いご飯を盛り、フェイジョアーダを煮汁ごとたっぷりかけます。横にケール炒めとオレンジを添え、ファロファを上からふりかけて食べます。ファロファは煮汁を吸って、ざくざくした食感を加えてくれます。オレンジは、こってりした豚肉の後に口をさっぱりさせ、消化を助けるとも言われます。

ブラジルでは、フェイジョアーダにはライムと砂糖、サトウキビの蒸留酒カシャッサで作るカクテル「カイピリーニャ」を合わせるのが定番です。週末に人を招くなら、同じブラジルのシュハスコの定番、ピッカーニャ(牛のイチボ)を一緒に焼くのもおすすめです。
本場カイピリーニャのレシピブラジルを代表するカクテル、カイピリーニャを本場の手順で。グラスでライムと砂糖をつぶし、カシャッサと砕いた氷を加えます。香りが皮の油にある理由、白いわたの苦み、砂糖を先に溶かす理由、砕いた氷で冷やす理由を料理科学で解説します。
家庭のオーブンで作るピッカーニャ(シュラスコ)ブラジルのシュラスコで一番人気の牛肉、ピッカーニャ(イチボ)を家庭のオーブンで。120℃で中心温度50℃まで焼き、最後に脂の面をスキレットで焼くリバースシアで仕上げます。脂のレンダリングや粗塩を使う理由を料理科学で解説します。
保存
- 冷蔵:3日程度。煮汁はゼラチンで固まりますが、弱火で温め直すと元に戻ります。豆が煮汁を吸うので、水を少し足して温めてください。
- 冷凍:保存袋に平らに入れて1か月程度。
- ケール炒め:冷蔵で1〜2日。
もっと知りたい人へ
豆が柔らかくなる仕組みや、肉のコラーゲンとゼラチンの科学を詳しく知りたい人には、料理科学の定番の本があります。
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出典
- Wikipedia「Feijoada (Brazilian dish)」
- Wikipedia「Feijoada」
- Southern Cultures「Feijoada and Hoppin' John」
- Panelinha「Feijoada」
- America's Test Kitchen「How to Brine Beans」
- Science Buddies「Tough Beans: Which Cooking Liquids Slow Softening the Most?」
- Wikipedia「Gelatin」
本文は上記の情報源を参考に、独自に再構成したものです。